第11話:最終決戦、転生者たちの真実
(国王誘拐から一夜が明けた。今日、全てが決まる…)
レイナは王宮の作戦会議室で、眠れぬ夜を過ごした後の疲れた面持ちでいた。周囲には真実の天秤のメンバーと、王宮の要人たち。そして新たな仲間となったシンジ・カイトがいた。
「計画の最終確認をしよう」
レオナルド・グレイが大きな地図を広げる。王都中央広場とその周辺が詳細に描かれていた。
「正午、新世界創造計画は国王と共に広場に現れる。彼らの要求を聞き、交渉を装いながら、我々の救出部隊が裏側から接近する」
「問題は、誰が彼らのリーダーなのかわからないことだ」
セバスチャンが懸念を示す。
「シンジ、何か心当たりは?」
シンジの表情が複雑に揺れる。
「最有力候補は…ダリウス・レイヴン」
「レイヴン?王室顧問官の?」
エヴァが驚きの声を上げる。
「彼は過去三年で急速に出世した人物だ」シンジが説明する。「転生者としての知識を巧みに隠しながら、政治力を高めてきた」
「でも、証拠が…」
「昨日の襲撃で、彼の姿が見えなかった」レイナが指摘する。「王室側近でありながら、危機の最中に不在だったのは不自然です」
「さらに」シンジが資料を示す。「彼の執務室から見つけたメモには、『X-day』への言及があった」
「しかし、彼だけではないはずだ」
レオナルドが懸念を示す。
「水晶の情報によれば、複数の転生者が王国内の要職についている」
「ええ」レイナが頷く。「そして、彼らの後ろには、真の黒幕がいる可能性が高い」
「マグナス・ブラックハートの転生者…」
シンジがつぶやく。
「前々世のアリシアが戦った相手」レイナが補足する。「三百年の時を超えて、再び現れた可能性があります」
「いずれにせよ」
レオナルドが決意を込めて言う。
「まずは国王を救出し、彼らの計画を阻止することだ」
全員が頷く中、時計の針は徐々に正午に近づいていた。
王都中央広場、正午
広場は異様な緊張感に包まれていた。通常なら賑わうはずの場所が、今は静寂に支配されている。
広場の中央に設けられた壇上には、黒装束の兵士たちに囲まれた国王アーサー四世の姿があった。両手を拘束され、疲労の色が濃いものの、威厳は失っていない。
広場を取り囲むように、王国軍と魔導士たちが配置されている。しかし、国王の安全が確保できないため、攻撃はできない状況だった。
「来たわね」
エヴァがささやく。
レイナとシンジは、作戦通り民間人を装って広場の角に潜んでいた。
「あれがダリウス・レイヴン?」
レイナが壇上に立つ男性を見る。四十代と思われる男性は、黒い正装を身につけ、厳格な表情をしていた。
「ああ。王室顧問官の立場を利用して、内部から王国を弱体化させてきたんだ」
「市民の皆さん、そして王国の代表者の方々」
ダリウスの声が魔法で増幅され、広場全体に響き渡る。
「本日、新たな時代の幕開けとなる歴史的瞬間に立ち会っていただき、感謝します」
彼の口調は穏やかだが、その目には冷たい光が宿っていた。
「長らく、この王国は古い魔法と因習に支配されてきました。限られた者だけが力を持ち、多くの人々は恩恵にあずかれない社会」
ダリウスが周囲を見回す。
「私たち新世界創造計画は、魔法と科学の融合によって、全ての人が平等に力を得られる世界を創造しようとしています」
「嘘を言うな!」
国王が怒りの声を上げる。
「お前たちの目的は支配だ!平等などではない!」
「陛下」ダリウスが冷ややかに微笑む。「時代の変化を受け入れられないのですね」
彼が観衆に向き直る。
「我々の条件はシンプルです。現王室の退位と、新政府の樹立。そして、全ての魔法技術の共有化」
「それは王国の崩壊を意味する!」
王国側の代表者が叫ぶ。
「いいえ、進化です」
ダリウスが手を上げると、背後の黒装束の一団が前に出た。その中から、一人の人物が歩み出る。
背が高く、漆黒の鎧を身にまとった人物。顔は銀のマスクで隠されていた。
「我らのマスター、ノヴァ・マグナス閣下です」
ダリウスが恭しく頭を下げる。
(マグナス…!)
レイナとシンジが驚きの視線を交わす。
「民衆よ」
銀のマスクの男が声を上げる。その声は不思議な響きを持ち、聞く者の心に直接語りかけるかのようだった。
「私は三百年前から、この世界の進化を見守ってきた。そして今こそ、次の段階へ進む時が来た」
「間違いない」シンジがささやく。「マグナス・ブラックハートの転生者だ」
「貴様!」
国王が怒りに震える。
「何を企んでいる?」
「企み?」マスクの男が笑う。「これは宿命です」
彼がゆっくりとマスクを外す。
現れたのは、四十代と思われる男性の顔。しかし、その目は通常の人間のものではなかった。瞳が渦を巻くように光り、超自然的なオーラを放っている。
「かつて私はマグナス・ブラックハートと呼ばれ、アリシア・ヴェルディに敗れた」
彼が告白する。
「その後、幾度も転生を繰り返し、ついに完全な記憶と力を取り戻した」
「そして今、新世界創造の時だ」
マグナスが腕を広げると、空に巨大な魔法陣が現れ始めた。
「これは…」
エヴァが青ざめる。
「次元転移の魔法陣。この規模なら、王都全体を別次元に転送できる」
「それが目的?」
「王都ごと異空間に閉じ込め、そこで実験場として利用する気だ」
シンジの表情が厳しくなる。
「もう待てない、行くぞ!」
作戦より早かったが、二人は動かざるを得なかった。
「止めてください!」
レイナが広場に飛び出す。
「その魔法陣を解除して!」
「おや?」
マグナスが振り返る。
「これは…アリシアの魂の気配がする。そして…」
彼の目がシンジに向けられる。
「セオドア・ライトブリンガーか」
「ライトブリンガー?」
レイナが混乱する。そのセオドアとは、王国建国の真の英雄、アーサー一世に功績を奪われた人物の名だった。
「そう、私は前々世でセオドア・ライトブリンガー。そして前世で日本の大学教授」
シンジが明かす。
「マグナスとは、建国時代から因縁の対立関係だった」
「なるほど」マグナスが嘲笑う。「三百年前は魂の転生術で逃げたアリシア。そして、建国時代から私に敗れ続けるセオドア」
「二人とも今日こそ、永遠に消し去ってやろう」
空の魔法陣が完成に近づき、広場全体が不気味な光に包まれ始める。
「やめて!」
レイナが叫ぶ。
「この先に待つのは破滅だけ!あなたの計画は必ず失敗する!」
「失敗?」
マグナスが高笑いする。
「私は何度でも転生する。失敗など存在しない」
「だが、我々も同じだ」
シンジが前に出る。
「何度でも転生して、あなたを止める」
「試してみるがいい」
マグナスが手を挙げると、黒装束の兵士たちが一斉に二人に向かって突進してきた。
シンジが青い光の盾を展開し、攻撃を防ぐ。
「レイナ!国王を!」
レイナは群衆をかき分け、国王の方へ向かった。
混乱の中、王国軍も動き出す。あちこちで戦闘が始まり、広場は戦場と化した。
「進め!」
レオナルドの指示で、真実の天秤のメンバーも戦闘に参加する。
セバスチャンとエヴァが魔法を駆使して、レイナの進路を確保していく。
「そうはさせん!」
ダリウスが魔法弾を放つ。それがレイナに向かって飛んでくる。
「レイナ!」
シンジが叫ぶが、間に合わない。
その時、レイナの体が淡く光った。アリシアの力が目覚め、彼女の手から白い光が放たれる。
「これは…」
レイナ自身も驚く。
魔法弾が彼女の前で消え、代わりに彼女の周囲に保護の光が広がった。
「アリシアの防御魔法!」
シンジが驚嘆する。
「行け!」
レイナは決意を固め、国王の元へと駆け寄る。
護衛の黒装束の兵士たちが立ちはだかるが、彼女の発する光が彼らを押し返す。
「陛下!」
レイナが国王の拘束を解き放つ。
「ありがとう…」
疲労困憊の国王が立ち上がる。
「あの魔法陣を止めなければ」
「わかっています」
レイナが空を見上げる。魔法陣はほぼ完成し、王都全体が異空間に飲み込まれようとしていた。
「シンジ!」
彼女が呼びかけると、シンジは敵を蹴散らしながら近づいてきた。
「あの魔法陣、二人の力を合わせれば止められるかも」
「試してみよう」
二人が再び手を取り合う。レイナからはアリシアの白い光が、シンジからはセオドアの青い光が放たれる。
「何をする気だ!」
マグナスが怒りの声を上げる。
二人の光が混ざり合い、螺旋状に上昇していく。空の魔法陣に向かって、対抗するように新たな魔法陣が形成されていく。
「許さん!」
マグナスが二人に向かって飛来する。彼の手には黒い炎のような力が集まっていた。
「行かせない!」
セバスチャンとエヴァが立ちはだかる。
「アリシアの意志を継ぐ者として」
エヴァが叫ぶ。
「そしてこの王国の守護者として」
セバスチャンが続ける。
二人の魔法がマグナスを押し止める。
レイナとシンジの光は、ついにマグナスの魔法陣に達した。二つの魔法陣がぶつかり合い、空間に歪みが生じる。
「これは…止められない」
シンジが気づく。
「でも、方向を変えることはできる」
レイナがひらめく。
「マグナスだけを異空間に送るの!」
「賭けだな…でも、やるしかない!」
二人の力が集中し、魔法陣の焦点がマグナスに向けられる。
「何をする!」
マグナスが気づいて抵抗するが、既に遅かった。
魔法陣が収縮し、マグナスの周囲だけを包み込み始める。
「くっ…また負けるというのか」
マグナスが悔しげに呟く。
「だが、これで終わりではない。私はまた転生する…」
「もうたくさんです」
レイナが断固とした声で言う。
「転生の連鎖を、ここで終わらせます」
彼女の手から、特別な光が放たれる。アリシアが残した最後の力、魂の封印魔法だった。
「これは…!」
マグナスの表情が恐怖に変わる。
「転生の記憶を封印する魔法!?」
「さようなら、マグナス」
シンジが静かに言う。
「次に会う時は、もう因縁の対立者としてではない」
光が強まり、マグナスの姿が次元の裂け目に飲み込まれていく。
「私は…必ず…」
彼の最後の言葉が虚空に消えた。
魔法陣が閉じ、広場に静寂が戻る。
戦いの後、王宮の謁見の間
「大変な危機でしたが、皆様のおかげで王国は救われました」
国王アーサー四世が謁見の間に集まった英雄たちに感謝の言葉を述べる。
「特に、レイナ・サクラとシンジ・カイト。二人の転生者の力がなければ、今の私たちはない」
二人は謙虚に頭を下げる。
「しかし、まだ新世界創造計画のメンバーが王国内に潜んでいます」
レイナが現状を報告する。
「ダリウス・レイヴンは逃亡し、他の転生者たちも行方不明です」
「彼らの追跡を最優先事項とする」
国王が命じる。
「そして、二人の転生者には特別な地位を授けたい」
「陛下?」
「王国史上初の『次元監視官』として、転生者の活動を監視し、王国の安全を守る役目だ」
シンジとレイナが驚きの表情を交わす。
「光栄です、陛下」
シンジが答える。
「力の限り、王国に仕えます」
後日、王都の丘
戦いの傷跡が徐々に癒えていく王都を見下ろす丘の上で、レイナとシンジは静かに話していた。
「結局、私たちはなぜ転生したのでしょう?」
レイナが空を見上げる。
「単なる偶然?それとも何か大きな意志が?」
「完全な答えはないのかもしれない」
シンジが思案する。
「ただ、私たちには力と記憶が与えられた。それを使って、この世界をより良い方向に導く責任がある」
「アリシアの力は、ほぼ使い切ってしまいました」
レイナが自分の手を見つめる。
「でも、彼女の意志は私の中に生き続けている」
「セオドアの記憶も同じだ」
シンジが微笑む。
「彼らの因縁は終わった。これからは私たちの物語だ」
「新しい時代の始まりですね」
レイナが微笑み返す。
その時、遠くの空に虹がかかった。新しい希望の象徴のように。
「さあ、行きましょう」
レイナが立ち上がる。
「まだ仕事が残っています」
「ああ」
シンジも立ち上がる。
「真実を追求する旅は、まだ始まったばかりだ」
二人の転生者は、肩を並べて丘を下りていった。
彼らの物語は、まだ続いている。
そして、新たな冒険が待っていた。