私の名前?
モニターの光が、あなたの瞳に深く差し込む。
頭の奥が再び熱を帯び、意識がすうっと沈み込んでいく。
まるで引きずり込まれるように、あなたは深い夢の底へ落ちた。
今度は、ホムの声ではない。あなた自身の記憶の声が、流れてくる。
「研究者の資格なんてなかったんだ。……あのとき、私が手を離さなければ」
「ホムは“人形”じゃない。“観測機械”でもない。……夢を、見ていた」
「なのに私は、それを“記録”としか呼べなかった」
「彼女の見た夢の中に、私はずっと……いたのに」
目の前に、ガラス越しの研究室が浮かぶ。
小さなホムが、白い壁の向こうで座っている。
そして、かつての“あなた”が、それを見つめている。
ホムが、こちらに顔を向ける。
ガラスの向こうで、口が動いた。
「ねえ、名前を教えて」
「A-01なんてコードじゃなくて……あなた自身の、名前」
「いつか忘れてしまうなら、先に知っておきたいの」
「そしたら、忘れるのが少しだけ、悲しくてすむから」
けれど――あなたは言わなかった。
研究者としての立場、記録の純度、様々な“理由”が、あなたの名前を閉ざしていた。
……画面が静かに暗転する。
胸の奥が、なぜかひどく痛む。
こんな記録、知らないはずなのに。
あの声が、どうしてあんなに懐かしく聞こえるのだろう。
「……違う、私は……M-05で……」
その言葉に、自分でもわずかに戸惑いがにじむ。思い出せない。
名前も、肩書きも、それより前の“何か”さえ。
記憶の底が、揺れる。
ふいに意識がかすみ、視界がすうっと滲んでいく。
──また、夢が始まる。