第7話 メルヘン市街
人混みを避け、何か模索するように歩き続けると
いつの間にか町外れの廃墟にたどり着いた。
建物の中は荒れ果てているが、身を隠すにはちょうどよかった。
夜通し歩いたせいでエージは疲れ切っていた。壁に寄りかかると
そのまま座り込んでしまった。空は少し白けてきている。
「よく考えたら昨日から何も食ってないなぁ……」
段々と眠気まで襲う。頭を垂れかけたその時、地響きのような音がした。
只事ではないと飛び起きる。
ゴゴゴ……!
ビル全体が揺れている。古そうなビルなのでこのままだと崩壊しかねない。
エージは慌てて出口の方へ向かおうとした。
その時、そこらに転がっていた瓦礫やゴミがフワフワと浮遊しだした。
やがて徐々にエージの体も浮き始める。とうとう地面から足が離れていった。
「なんだ、何が起こって……る?」
突然エージの目の前に強い光が差す。その青白い光は浮遊していた
周りの物を全て吸い込もうとする。エージもそれに段々引き寄せられていく。
まるで地球の重力が変化したように真横に落ちていくような感覚で
一気に光の方へ吸い寄せられた。
そして光のトンネルを潜って、エージは別の場所に飛ばされた。
だが先程まで居た部屋と景色は変わらず廃墟の一室のままだった。
「なんなんだよ、一体どうなってる?」
エージは起きた現象に戸惑っていると、突然人の気配を感じた。
さっきまでこの部屋どころか建物自体無人だったはずなのに
半径100m以内にふたりの人間がいる確信があった。
何故だか頭が少しぼーっとしてくる。とにかく周りを確認してみる事にした。
「もしかして、これもまた何かの力なのか?」
エージがいた廃墟は3階建ての雑居ビルだった。入り口のそばにある
壊れたエスカレーターを上って、今は2階のフロアにいる。
上の階に人がいた様子はなかったので、1階から侵入してきたのだろう。
「わざわざこんな所にやって来るなんて……やはり追手か?」
そうとなればまず相手を把握しないと。不用意に降りていっては
相手の思うツボだ。エージは奥の部屋に一旦隠れて、牽制する事にした。
こちらに近づく足音。やはり1階から誰かが向かってきているようだ。
建物の1番奥の部屋にエージは身を潜めた。ここからなら物陰に隠れながら
階段を上ってくる相手の姿が見えるはず。
ザッザッザッ
薄らと見えた人影は、長身の男と細身の女だった。
まさかとは思うがケイ達がやって来たのか?
女は徐々に近づきながら辺りを見回している。
すると一緒にいた男に合図を送ったような気がした。
「見つかったか?」
エージは肩を窄ませる。
すると男はエージの方を向きながらこう呟いた。
「隠れても無駄だ」
続け様、男の目の前に大きな光の柱が突如現れた。
「あれは……コアか!」
その緑色の光で辺り一面が照らされた。どうやらふたり組はケイ達ではなかった。
面識のない男女だ。女の方は以前襲われた狙撃手と同じような
黒いオーバーコートを着ていた。
「くっそ、やはり追っ手か。しかもあんなデッカいコアまで出して
……お仲間だったのかよ」
やれやれと呆れた表情のエージだったが、状況的にそれどころではない。
すると男がエージに向かって話しかけてきた。
「どうやら散々な1日だったようだな」
「あんた誰だ、人違いじゃないのか?」
物陰から少し顔を出して、エージは怪訝に答えた。
「オルガノンの新人だろう、少年?」
男は再び聞き直した。
「ほらやっぱり人違いじゃねぇか。……オレはオルガノンなんか関係ねぇ!」
エージは攻勢に打って出た。コアを発動させ相手に飛ばそうとした。
目の前に集中した刹那、コアが黒く馳せ青白い稲妻を発しながら
一気に大きくなっていく……が少し様子がおかしい。
今までコアの大きさはテニスボールくらいだったはずだがこれはやたら大きい。
優にバスケットボールほどある。
「な、なんだこれは⁉︎ こんなことって……」
慌てふためくエージを他所に相手のコアもそれに呼応するかのように
閃光を放ちながらふたつのコアが衝突した。
火花を散らしながらコアは両方とも消滅した。
「……相殺したのか?」
「ふっお前の力はその程度か。次は手加減なしだ、いくぞ少年」
男は集中すると目の前にまた緑色のコアを作り出した。
それはまるでエンジンのように一定の低音で鳴り響き、さらに強大になっていく。
質量的にどう見てもエージのコアでは太刀打ちできそうにない。
しかしエージが先程作ったコアも今まで見た事ない大きさだった。
ひょっとしたらもっと大きなコアを作る事ができるのでないか、試す選択肢しか
エージには残されていなかった。
「くそっやるだけやってやる!」
両手を前方に広げ、懸命にコアに集中した。だがやはり弱い。
大きさはさほど変わらなかった。
「まだまだだな、くらえ!」
柱のように大きなコアはエージの頭上から振り下ろされた。
作りたてのコアでそれをガードしながら、エージは体を回転させ飛び込んだ。
ホコリまみれになりながらもなんとか交わした。
「おのれ、ちょこまかと。だからこういう地形は苦手なんだ」
「こっちのコアで向こうのコアを僅かながら跳ね返した……コア同士なら
干渉し合うのか? なら数さえ作ればなんとか」
再びエージはコアを作り、目の前の敵に放った。
それに呼応するように相手もまたコアを発動させる。
柱上のコアが平らになり、広範囲のバリアのような形状になった。
緑色に光るシールドに向かってエージは間髪入れずにコアをぶつけるが
消滅するのはエージのコアだけだった。
「そんなコアを何発当てたところで、オレのコアはビクともせんわ」
コア同士の交戦が膠着した中、傍観していたもうひとりの女が
痺れを切らし男に話しかける。
「大佐、遊びはもうこれまでです。そろそろ始末しましょう、よろしいですか?」
女は両手を向かい合わせるように構えた。
男に比べると小型ではあるが、青白く光る槍状のコアを2本前方に作った。
「くそっもうひとりもコアを出せるのか……」
「さて、遊びはもうお終いよ」
ーTo the next.