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第3話 オルガノン

隣町の駅を降りて、エージは足早に目的地の方向へ進んでいった。

「オルガノン……」

聞いたこともない会社だ。

ネットで調べた情報によると、資源の開発・精製・輸送などを

行なっているようだが何の事かさっぱり解らなかった。


まぁ行けば何かあるかも知れない、ともかくエージは足を進めた。

地図通りの道筋でオフィス街より反対方向へ歩いていくと

どんどん人気は無くなっていく。もしこれが毎日の通勤経路だとしたら

とても不便だろうと想像してしまった……自分が通勤する訳でもないのに。

店長の冷やかす顔がチラついて、また気分が悪くなってきた。


ようやくたどり着いた先には工場のような大きな施設があった。

塀が高く中の様子は伺えない。

その塀を建物沿いにぐるりと歩き、やっと正面口が見えてきた。

入り口に受付でもあるのだろうか。なんといって女を呼び出す?

そもそもこの建物の中に女はいるのだろうか?


この先のプランなど全くなかった。だからと言って

スパイ映画のように裏口から侵入する訳にもいかないだろう。

やはりここは正面突破を試みるしかないのか。

……と思っていた矢先、もの凄いスピードの黒い車が一台

こちらに向かってきた。

ドリフト気味に回転してエージの目の前で止まると

勢いよく助手席側のドアが開いた。


「エージくん!」

運転席から聞き覚えのある声。ケイだった。

「えっあっちょ、ちょっと近くに寄って……」

今ここにいる理由をしどろもどろに説明しようと

焦って急に恥ずかしくなってきた。

「いいから早く乗って!」

なにやら穏やかではない様子に違和感を感じた。


その瞬間、バーン!と空気を震わす音が響いた。

「……銃声⁉︎」

突然の轟音に驚いたが、まさかその銃口が自分に向いている

ものだとは思いもしかなかった。そして自分のすぐ目の前で

止まっている弾丸に気づき、長い数秒が過ぎた。


弾が空中で……止まってる?

潰された空き缶のようにペシャンコになっているが確かに銃弾だ。

そしてそれは空中からポトリと剥がれ落ちた。

唖然とするエージ。車の窓からケイが叫ぶ。

「さぁ早く!」

エージは頭を抱え低く丸くなった姿勢のまま車に飛び乗った。

その間にも銃弾が一発、ニ発と撃ち込まれ車のボディに

穴を空けていた。車を急発進させ、その場から走り去った。



車内ではいまだ混乱しているエージがあたふたしている。

それを見たケイは落ち着かせようとするが何から話せばいいのか

分からず、まずは逃走ルートを確保するため運転に集中した。

そして想定通り追手がきた。赤いバイクが一台。

バックミラー越しにぐんぐんと距離が縮まっていく。


「エージくん、ダッシュボードみて」

ケイに指示されたまま手前のダッシュボードを開けると

そこには拳銃があった。エージは拳銃というものを初めてみたが

これがモデルガンではなく本物だという事はすぐに判った。

黒くて重そうな鉄の固まり。放たれる銃弾が簡単に人の命を

奪うのが容易に(うかが)える。


エージからそれを受け取って、ケイは運転しながら慣れた

手付きで銃のスライドを引き、すぐさまバイクに発砲する。

三、四発打って追っ手を牽制した。

バイクの追手はたまらず距離をおき、背中に背負っていた

ライフルを構えて反撃に出ようとする。

先程エージに発泡したのはこの銃だろう。


今度は追手がケイたちの車に何発も撃ち込んだ。

車のリア部分は損傷し、ガラスにヒビが入った。

後ろから狙われては防戦一方だ。

右手後ろのバイクから一定距離を保ち、巧みな運転で

なんとか凌いでいるが、このままではやられるのは時間の問題だ。


「エージくん、さっき撃たれた時に何が起きたか、覚えてる?」

「えっ、さっき?」

エージは相変わらず混乱状態だ。

「あのバイク、さっきあなたを狙ってきた狙撃手よ」

「オレを……狙ってた?」

「そう、銃弾があなたに達する前に潰され止まったのよ。

なんでか分かる?」

「……咄嗟だったから」

何が咄嗟だった? 喋りながら頭の中で整理し

起きた出来事を順番に思い出していった。


銃声が鳴って、咄嗟に身を構えた。

何が起きたか分からず、目の前には潰された弾丸が空中に浮いていた。

"コア"が壁になって塞いでいたのだ。

「……自分で咄嗟に出していた?」

「そうよ。あなたが自分のコアで自分の身を守ったのよ」

「でもあの時は考える暇もなかったけど……」

「防衛本能よ。危険を察知した瞬間、同時にコアが出現したの。

そして無意識の内に適切な位置で防御をした」

「そんなことが……」

「段々と思い出してきたようね。でも問題はこれからよ。

もう一度出してもらうわ。今度は意図的に、より効果的な位置に」

「もう一度?」

エージはようやく気持ちを落ち着かせて、頭で理解しようとした。


「簡単ではないけど、やらなきゃいけない状況なの。解る?」

予断を許さぬカーチェイスの最中、ケイはエージに問いただした。

「オレは何をすれば……」

「もう一度、さっきのようにコアを出して。でも今度は遠くの方に」

「コアを遠くに?」

「今まで自分のすぐ傍でしかコアを確認していなかったと思うけど、

距離はあまり関係ないの。自分の視界が続く限りコアは作れるわ。

集中して車の外にコアを出してみて。車と並走しているイメージで」

「コアを作る……車の外に?」

「間違っても私たちの前には出さないでね。こっち側よ」

親指をくいっと右に差し、方向を示した。


エージは集中した。自らコアを生み出そうとするのは初めてだった。

車の外、運転席よりさらに向こう。そちら側に作らないと意味がない。

集中して数秒……猛スピードで流れいく景色の中に

一点留まりつづけている黒い点があった。


「やればできるじゃない。よし、そのまま」

ケイはバックミラーでバイクの位置を確認した。

「……そのまま、そのまま」

エージは一点に集中し続けた。視界がゆっくりボヤけてくる。

「今よ!」

ケイたちが乗っていた車は一気に急ブレーキをかけ

バイクとの位置があっという間に縮まった。

バイクの追手は警戒してハンドルを握り直した。

バランスを整えようとした、その瞬間。


バイクの前方、ライトのあたりにコアが接触しめり込んでいった。

鉄の棒で串刺しにされたかのようにバイクは破壊された。

「やったわ!」

ケイは確認するとアクセルを踏み込み再びスピードを上げた。

「……やったのか」

集中の切れたエージは呆然としている。


バイクに突き刺さったのは頑丈な棒でも鉄の固まりでもない

エージが作りあげたコアだった。車と並走するコアを

バイクの通過点を合わせ、接触するよう急ブレーキをかける。

そこに勢いよくバイクは自らぶつかって大破した。

潰された銃弾といい大破したバイクといい、コアの質量は

おおよそ常人には理解できない物のようだ。


「こんなことも出来るのか」

エージは起きた一連に動揺しつつも、恐怖と興味が同時に湧いた。

暫く車を走らせていたが、どうやら受けたダメージが酷く

自然とスピードが落ちていき今にも止まりそうだった。


「駄目ね、降りましょう。一旦ベースに戻るわ」

「ベースって、さっきの工場みたいな施設か?」

「あらっわざわざ工場見学に来てくれたんでしょ?

案内してあげるわ、我々の組織"オルガノン"を」


ーTo the next.

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