【2】②
数日後。
学校帰り、あたしは無意識に自宅マンションのエントランスで立ち止まって一哉との過去の出来事を思い返してた。
あんたなんて一人じゃ何にもできない。あたしが助けてやらないと、って押し付けがましい態度取って……。
好意持ってる相手ならまだしも、「家が近くて、縁切りたくても切れない」どうでもいいやつに上から目線で命令されたら鬱陶しいよね。
──あたし、ずっと一哉に甘えてばっかだったんだ。幼馴染みってだけで、特別扱いされるのが当然だと思ってた。彼の気持ちなんて、全然考えてなかった。
一哉が見せた冷たい態度や言葉を思い返し、胸が痛む。
落ち着いて見たら、こんな女嫌われて当然だよ。自分でもそう感じてしまう。
そんなに時間は経ってないはず。いくらなんでも突っ立ったままボーッと一時間、なんてありえないから。
足音と気配に振り向くと、一哉があたしの方へ向かってくるところだった。
マンションの入口はここしかないんだから、あたしがいるから回れ右、ってわけにはいかないよね。
どうしよう、と迷ったのは一瞬。
「一哉、ちょっとだけいい?」
あたしは咄嗟に、無言でこちらに目線も寄越さず通り過ぎようとした彼に声を掛けてた。
一哉は少し驚いた表情を見せたけど、無視はせずに足を止めてくれる。
表情は強張って不機嫌そうだけど、ここで振り切ったっていつ顔合わせるかわかんないもんね。
「ごめん。言いたかったことがあって……」
「何?」
素っ気ない呟き。でも返事してくれることが嬉しい。
「あたし、一哉に対して本当に失礼なことばかりしてきたと思う。幼馴染みだからって勝手に近い存在だって思い込んで、あんたの気持ちなんて気にしてなかった」
一哉の顔に一瞬、驚きの表情が浮かんだ。急にしおらしくなったあたしに面食らった感じ?
「……うん。すげえ迷惑だしウザかった」
これは一哉の本音なんだ。本当にあたしのこと嫌がってたんだ。
正直、面と向かって突きつけられるのはつらい。
だけどこの間と違って静かな口調は、「ここでやめたらこれ以上悪くなることはない」ってこと、なのかな。
「ホントにごめん。あたし、これからは気をつけるから。……普通に友達としてやり直せないかな」
「友達って『なろう』『やり直そう』ってもんじゃないだろ」
ふと目を逸らす彼に、まだそこまでは難しいんだな、って伝わる。
全部あたしの自業自得なんだ。誰のせいでも、もちろん一哉のせいでもない。あたしだけの。
「そ、そうだよね。うん、わかった。……あ、じゃあね、お先」
あたふたとエレベータに向かうあたしを、一哉は追い掛けては来なかった。
あたしなんてまったく興味もない様子で郵便受けを確かめてる彼を横目に、エレベータの箱に踏み込んでボタンを押す。
閉まるドアに隔てられて視界から消えるまで、幼馴染みは一度もあたしに目を向けることはなかった。