【1】②
「サワ、どうしたの? 渡辺くんと帰るんじゃなかった?」
とぼとぼと自分の教室に戻ったあたしに、一番仲のいい友達の夏穂が心配そうに話し掛けて来た
この子はあたしの一哉への気持ち知ってる。中学の時に打ち明けたんだ。
「なんか、他の子に傘借りるんだってさ」
「……あー、そっか。まあ元気出しなよ。この先何の希望もないわけじゃないし」
「そんな上辺だけのテキトーな言葉なんて意味ないじゃん!」
イライラして噛み付いたあたしに、夏穂がふっと表情を変えた。なんか周りの温度まで下がった気がする。
「わかった。じゃあ遠慮なく本音言っていいんだね!?」
「え、あの──」
普段より低い声。豹変したみたいな友達に戸惑ってるあたしに構わず、夏穂は話を続けた。
「あのさぁ。冷静に考えて、あんたが水島さんに勝ってるとこってなんかある? 外見は置いといても、サワって渡辺くんにツンケン、ギャーギャー突っ掛かって喚いてるだけじゃん。マンガなら『ツンデレ』もありかもしんないけど、実際にはそんなの通用しないから」
文字通り何の容赦もない厳しい台詞。
ショックで涙出そうになった。というか、なんで夏穂が「水島さん」のこと……?
「幼馴染みのアドバンテージなんてそんな絶対的なもんじゃないでしょ。ていうか、そもそも渡辺くんのサワに対する好感度ってマイナスなんじゃないの? あんたは気づいてないみたいだけど」
「──マイナス」
喉が詰まったみたいで、それ以上喋れなかった。
なんで!? あたしと一哉はずっと一緒で、仲よくて……。
仲、ホントによか、った? なんかもう頭の中がぐしゃぐしゃだよ。
「私だって友達にこんな言い方したくないよ。でもあんたは聞きたかったんでしょ? これでいい?」
夏穂は普段からなんでもズバズバ口にするタイプじゃない。むしろ穏やかで優しい子、だと思う。
今だって慰めてくれようとしたんだよね。せっかく気を遣ってくれたのに、あたしがつい余計なこと言っちゃって怒らせただけで。
「ごめん、夏穂。嫌なこと言わせちゃって。でも、なんで一哉と、……あの子のこと知ってんの?」
「何度か校内で二人でいるの見たことあるから。移動教室とか? でも、まだカレカノとかじゃないとは思うけどね。さすがにそこまではよくわかんない」
そんなのあたしは知らなかった。ホントに全然。
水島さんが好きなの? いつから? ……あたし、何も聞いてないよ?
一哉のことなら誰よりも近くで見ててよく知ってる、なんてただの思い込みだったんだってやっとわかった気がした。
ああ、そういえば。
特に中学くらいから、一哉はあたしに笑顔向けてくれなくなってた。気のせいだって思ってたけど、そうじゃなかった?
一緒にいる機会はどんどん少なくなって、話すことも減って……。
それはもちろん気づいてたけど、自然にじゃなくて一哉があたしと会わないようにしてたのかな。
考え始めたら次々面白くない事実が浮かび上がってくる。今までいろんなこと、必死で見ない振りしてだけだったの?
それでも長い時間掛けて築いた二人の関係は、何があっても変わらないと思ってた。あたし、『幼馴染み』に甘えてたのかもしれない。
だけどまさか嫌われてるなんて、いくらなんでもそんなわけないよね?
だってそんな、そんなの、──どうして。