第四話
「来客数はどの程度を見込んでいる?」
軍務大臣の北角透からの質問である。数によっては新たに警備兵を送る必要があるからだろう。
「そうですね。最初こそ話題になるでしょうからそれなりには来ると思いますが、動物園と違ってここには恐竜しかいませんので一過性と考えております」
「ふむ。追加で警備兵はいらんということか」
「見学料もそれほど取れません。大人は五百円、子供は半額、就学前の子供は無料、団体は二割引きといったところでしょうか。なのに警備兵の派遣料なんか出せませんよ」
さらに日中ずっと恐竜たちを厩舎の中に閉じ込めておくわけにはいかない。状況によっては遠目に姿を眺めることしか出来ない可能性もあるのだ。そんな状況では高い料金は設定出来ないだろう。
実は最初のうちはもっと高額にするつもりだったが、スパとは違って恐竜を見るためだけにわざわざ遠方から来るとも思えないし、来たとしてもリピートは期待出来ない。
だったらスパを利用したついでとか、小中学校の野外授業などで気軽に来てもらえる方がいい。
野外授業か。遠足などで子供が伸び伸び走り回れる環境を整えてもいいかも知れないな。恐竜の飼育地の周りにある雑木林を買い取って公園として整備すればそれも可能だろう。
周囲を柵で囲って熊などの野生動物が入り込めないようにすれば完璧。将来産まれてくるであろう俺と美祢葉の子供の教育にも役立つはずだ。自然の中での子育てなど俺の元いた世界では考えにくいことだった。
『ハラル、広さはどの程度が妥当かな』
『五千坪もあれば十分だと思いますが、一万坪を手に入れて半分か三分の一を雑木林のままにしておくという手もあります』
『土地は空いてる?』
『問題ありません』
『じゃ頼む……手続きは佐々木さんにお願いしておいてくれるか?』
『かしこまりました、マイマスター』
ハラルとの念話終わり。
「すみません。今思いついたことなんですが」
俺は公園計画の説明を始めた。
「恐竜の一般公開に合わせて、小中学校単位での見学も受け入れようと思います」
「確かに子供たちの方が喜ぶかも知れませんね」
和子様が笑顔で応じる。
「ただ、それだけだと飽きるでしょうし、ここまで来て恐竜を見るだけで帰るとなると得られるものは少ないでしょう」
「悩ましいところですね」
「そこで飼育地の周囲の雑木林を整備して公園にしたらどうかと思ったわけです」
観光バスが何台も停められる駐車場はもちろん、食事自体は提供しないが休憩スペースとして大きな建物を建て、猛暑や荒天時の避難にも対応する。土産物屋を置けばそこそこの収益にも繋がるだろう。とは言え採算が合うとまでは考えていない。
「それだけの規模なら子供たちだけではなく、広く一般に開放してはどうかね?」
「猪塚閣下の言われることも分かりますが、一般開放するとゴミを始めとする様々な問題が起こりますから当面は考えられません」
「それはあるね。ゴミのポイ捨てに罪の意識すら持たない者も少なくないか」
「はい。その点学校単位なら引率の教員に指導を任せられますし、子供たちが問題を起こしても学校に苦情を言えばいいだけですから」
「何なら大戦で活躍した戦車や一式をいくつか展示するかね?」
一式とは第二次大戦時の大日本帝国陸軍の戦闘機である。
「よろしいのですか、猪塚閣下?」
「ただ倉庫にしまってあるだけだからね。実は解体するのも忍びないという意見があって扱いに困っているんだよ」
「しかしそうなると休憩スペースの建物も考えているよりさらに大きくしないといけませんね」
「なーに、雨晒しで構わんさ。今の兵士たちは当時の兵装を知らんからね。清掃などは出張所の者にやらせれば勉強にもなるだろう」
「では公園については軍も了承頂けるということでよろしいですか?」
「うん。休憩スペースの建築も通常の手続きを済ませてくれればいい」
「公園の完成式などを行うなら私も出席させてもらいましょう。前梶君、構いませんよね?」
「はっ! ヨウミさん」
「はい?」
「陛下はお忙しい方なので、日程は半年前までにはお知らせ頂けると助かります」
「連絡は島森次官にすればいいですか?」
「レイヤさん、私にくれればいいですよ」
「和子様……そう言えばご学友とのことでしたね」
秘書官の前梶が一瞬驚いたような表情を見せたが、聞いていた関係を思い出したのか自己完結したようだ。違うんだよ、念話で連絡してこいってことなんだよ。もちろん表面上を装うためにスマホの連絡先は交換してはいる。
それにしてもやることが増えてきた。新規事業に関しては高尾信用金庫から引き抜いた佐々木さんに任せる方針だが、これからも増えるだろうし彼女に負担がかかりすぎるのはよくない。事務所にずっと一人だと寂しいだろうし近いうちに面談でもするとしよう。
「杉浦総理、我が陸軍としては恐竜施設の一般公開と公園運営を全面的にバックアップしようと考えておりますが、政府としてはいかがですかな?」
「猪塚殿、大日本帝国政府も同じです。もちろん議会を通す必要はありますが問題はないでしょう」
「ふむ。何せ陛下が完成式典にご出席なされますからね」
「ええ、陛下がご出席ですから」
つまり広報は任せろということだ。ありがたい。
「しかしヨウミさん、政府や軍がただ一個人の施設の宣伝をするというのはあまりよろしくない。出来ればそれなりの道義づけが欲しい」
「簡単でしょう。絶滅に瀕した恐竜の生態の研究及び保護の実態の把握、万が一の安全確保などの理由で事足りると思いますよ」
「うん。それなら軍のバックアップも当然だね」
「政府も単に国内だけではなく、絶滅危惧種の保護を世界にアピール出来るチャンスだな」
こうして恐竜飼育施設の公開はテレビやインターネットを通じて、政府と軍により広く宣伝されることが決まった。
収益どころか大赤字覚悟だったのに、多少は来客が見込めるかも知れない。それでも黒字になることはないと思っている。恐竜は食いしん坊だからだ。
加えてあれやこれやと権利を主張されることになるであろう、政府からの金銭的な援助は受けるつもりがない。
その後間もなく質疑応答は終了したのだった。




