第十五話
夏の陽射しが照りつける中、夢の葉学園では終業式が執り行われた。入学式の時とは違い、この日は全校生徒が講堂に集まっている。その代わりに父兄の姿はない。
校長と教頭の講話が終わった後、俺とハラル、ルラハの三人がこれまでの礼を述べて舞台の袖に消える。最後まで残っていると揉みくちゃにされかねないとの学園の配慮によるものだ。
すでに寮から荷物は運び出してあったので、講堂の裏口で待っていた校長と担任の伊秩瞳花教諭に改めて礼を言ってから、職員用の駐車場に向かう。
特別に許可されて停めてあった自動車に乗り込むと、後は日出村の家に帰るだけだ。
「満足したか?」
「わがままを叶えて下さりありがとうございました」
「欲を言えばもう何人か苗床を確保したかったところでしたが、成果はあったので満足です」
車内には俺たち三人しかいないので無振動モードで車が走り出す。それでも狭い空間の圧迫感はどうにもならない。これで家に着くまでハンドル操作をしているフリをしなければならないのだから、正直苦痛以外の何物でもないのである。
カーブの際に左右に振られる感覚も気持ち悪い。
「レイヤ様、今後の日程です」
「うん」
「三日後の週明け月曜日に恐竜飼育地の視察団が来ます。時間は午前十時の予定です」
「メンバーに変更はない?」
「ありません。それに合わせて恐竜の成体は厩舎に入れておきます」
「幼体と卵は?」
「幼体は無用な刺激を与えないようにとの理由で見せません。卵は監視映像を観てもらう予定です」
「陛下は実物を触りたがっていたんじゃなかった?」
「いつ孵化するか分からないので危険だとして諦めて頂きます」
「触ってる時には孵化してガブリとやられた日にはたまらないもんな」
「その代わりに孵化した後の卵の殻を差し上げるということでご納得頂けるようお願いしました」
和子様経由で話が進んでいるというわけか。
「昼食は陸軍の日出村出張所でご用意頂けるとのことです」
「それは辞退出来ないのか?」
「そう言われると思いまして確認しておきました。天皇陛下がレイヤ様とお会いするのを楽しみにされているとのことで、辞退は出来ないそうです」
「和子様の思惑が感じられるのは気のせいかな」
「レイヤ様がいなくなると老人や中年男性の中に一人取り残されることになりますからね。間違いないでしょう」
「だよなあ」
「昼食後は質疑応答となります。ただ捕獲の経緯や運搬については島森軍務次官より、あらかじめドイツの国家機密に当たるため質問しても答えられないと伝えられているそうです」
「意外に律儀な人なんだな」
「好奇心を満たしたのがよかったかと」
「で、視察団を見送って終わりでいいのか?」
「はい。ですが和子様はそのまま残られます」
「夏休みが終わる頃までいるんだっけ?」
「はい。美祢葉さんも泊まりに来られますし、楽しい毎日になりそうです」
美祢葉が来る理由は花嫁修業だ。しかも父親の在原太確氏も了承済みとのこと。和子様にしても護衛なしで同年代の友達(?)と過ごせるのだから、目的は別として楽しみであることは間違いないだろう。
ちなみに彼女の側衛官(皇族の護衛官)は新たに自宅の敷地内に建てた、二階に住宅として使用可能な2DK三室を備える事務所棟の方に滞在することになっている。
温泉ではないが内風呂とキッチンもあり、今後はビジネスを進める上で雇った人材から要望が上がれば社宅として利用する予定だ。
むろん和子様と離れることにかなり抵抗されたようだ。しかし俺が彼女以外の家への立ち入りを許さなかったのと、またも本人の強権発動により渋々だが従わざるを得なかったというのが経緯である。
「その件について陛下は何も言わなかったのか?」
「側衛官側も進言したようですが、陛下は和子様に従いなさいと言われたようですね」
「実際は和子様が陛下におねだりしたんだろうな」
「よくお分かりで」
「あのお姫様ならやりそうって、ハラルたちは繋がってるんだったか」
「私とルラハはレイヤ様だけではなく全員にフルアクセスですよ」
そりゃそうか。脳内チップの権限設定や各種ドローンの制御はハラルとルラハに委ねられている。正確に言えばその上に俺がいるのだが、現在この世界の人に埋め込んだチップは敵として処刑した者を除けば全部で四つ。
順にジェームズ、猪塚陸将補、美祢葉、和子様の四人だ。この全てを監視するのは面倒だし、チップがあるとは言え生身の俺では演算が追いつかない。よって宇宙船の頭脳であるハラルとルラハに任せているというわけだ。
「そう言えばメディアの方はどうなった?」
「夕日新聞と読買新聞がヘリを飛ばす準備をしていますね」
「やっぱりそうきたか」
「表向きは陛下と和子様がご一緒に行動されるということで、その取材という形を取ってます」
「帝国政府は上空からの取材を規制したんだよな?」
「聞く耳を持たず、といったところですね」
俺の所有地上空は恐竜を怯えさせないためとの理由で飛行禁止区域に指定されたが、それすら守るつもりはないらしい。かと言って威嚇のために軍にヘリを出させるにも所有地上空を飛ぶ必要が出てくるため、その案もNGなのである。
「撃ち落とすか?」
「墜落させて死者が出ると面倒なことになります。それよりもヘリを制御不能にすれば済みますよ」
「カメラを壊すってのもアリだな」
「ですが取材陣とヘリのパイロットの記憶には残ります。そう考えるとやはりヘリを近づけさせない方がよろしいかと思います」
「分かった。なら対応は任せよう」
「はい、マイマスター」
そうして俺たちは視察の当日、月曜日を迎えるのだった。




