第十三話
――まえがき――
昨日と一昨日はリアル多忙だったため更新出来ずすみませんでした。本日は夕方以降にもう一話公開予定です。
美祢葉が名づけた恐竜シルバーに乗ってヒャッハーした翌日の夕方、学園から帰寮したタイミングで軍務次官の島森大夢が俺を訪ねてきた。もちろん護衛の憲兵を伴ってのことだが、学生寮の部屋の広さは十分だ。
ところが部屋には彼一人が入室し、憲兵たちには扉の外で待機するよう命じたのである。どうやら前回の在原海運でのことが効いているようだった。
「前にお会いした時には不思議でしたが、そちらのハラルさんはヨウミさんの護衛だったのですね」
ローテーブルを挟んで俺と島森次官が向き合って座る。そこにハラルが茶を運んできて俺の隣に座ったところで、彼は緊張した様子を隠さずにそう言った。
「猪塚陸将補から聞かされたんです。決して調べたわけではないですよ」
「まあ、そのくらいなら構いません。それよりも次官殿が直々に学生寮に来られるとは思いませんでした」
「下手な者を伺わせて、万に一つも粗相があってはいけませんから」
「なるほど。ではご用件を伺いましょう」
「はい。すでにご存じかとは思いますが、恐竜の視察についてです」
メンバーはハラルからの事前情報通り、内閣総理大臣の杉浦爽治、軍務省の北角透大臣、陸軍の猪塚駿陸将補、軍務次官の当人、島森大夢がまず挙げられた。
むろん初めて聞いた雰囲気を出すために驚いて見せる。
「総理大臣ですか!?」
「はい。それとですね……夏篠宮聖仁天皇陛下と第三皇女の和子殿下もご同行されることになりました」
「て、天皇陛下ぁ!? あ、和子殿下は先日学園の合同合宿でお言葉を交わさせて頂きました」
「そうなんですか? あの方は気さくですからね」
ただのじゃじゃ馬だよ。
「まあ、視察は構いませんよ。何のおもてなしも出来ませんが」
「いえ、それは問題ありません。もっとも陛下は恐竜を保護するに至った経緯をお聞きしたいと仰られているようです」
「視察の後にですか?」
「はい」
「どこで捕まえてきたとかどうやって運んできたとか、そういった話は出来ませんよ」
「私も知りたいところですが、ドイツの国家機密ということで誤魔化して頂ければと。それでも陛下がご無理を仰るようなら私がお諌めしますので」
「ふむ。そこまでご協力頂けるなら島森次官殿にだけは事実をお知らせしてもいいと思いますが、聞きたいですか?」
「命に代えても他言はしません!」
俺は○国が恐竜を戦争に利用するために飼育していたこと。その施設を潰し恐竜を保護したことを伝えた。
「○国が……」
「現在はそういった施設が他にないことを確認済みですので安心して下さい」
「ははは……これを誰かに話したところで信じる者はいないでしょうね」
「それでも他言無用ですよ」
「分かっておりますとも! しかし私は事実を知ることが出来て幸せです!」
そこで次官は茶を一口啜って襟を正した。
「実はもう一つご相談があります」
「聞きましょう」
「猪塚陸将補閣下からは絶対に許可を頂けないと言われたのですが……」
申し訳なさそうに島森次官が口にした言葉に、俺は声を荒げずにはいられなかった。
「はあ!? ヘリで上空から視察したいだって!?」
「て、天皇陛下や皇女殿下、総理大臣までいらっしゃるので安全確保のためとのことです」
「恐竜が音に怯えます。許可は出来ません」
「そ、そうですよね……」
「これは絶対に譲れませんよ。それでもヘリでの視察を強行されるのでしたら」
「強行したら……?」
「撃ち落とします」
「そ、それはマズい! 何とか説得しますので撃ち落とすのはどうか……」
「次官殿、簡単なことですよ。ヘリで来なければいいだけです」
そこで島森のスマホに着信が入った。
「失礼。無視出来ない相手からの着信です」
「どうぞ、ご遠慮なく」
すると間もなく彼は驚いたように声を上げた。
「て、天皇陛下が!? は、はい、はい、分かりました。はい。それでは失礼致します」
スマホを背広の内ポケットに入れてから、彼はホッとした表情で茶を啜った。
「北角軍務大臣からでした。ヨウミさん、ヘリでの視察はなくなりました」
「そうですか、安心しました」
「陛下の鶴の一声があったそうです」
「陛下の?」
「恐竜を怯えさせることになる。ヘリでの視察はならんと」
「さすが、生物学を研究テーマにされているだけのことはありますね」
「ははは……私は胃薬を飲まなくて済みそうです」
天皇陛下や総理大臣まで含んだメンバーを説得しなければならなかったのだ。胃痛で済むような生やさしいプレッシャーではなかっただろう。
実はハラルがこれまでの会話を念話で和子様に知らせ、彼女が陛下に進言してくれたらしい。たまたま傍に陛下がいたとのことだが、実は陛下がヘリに乗るのを好まないことも幸いしたようだ。
災害などで被災地に赴く際には使命感から一言も文句を言われないそうだが、今回は興味からの視察参加である。その対象が怯える可能性があるのだから、鶴の一声は当然と言えるだろう。
「それでは、視察の日程は改めてご連絡致します」
「ああ、今週末から来週の水曜日までは学園の期末試験がありますので、来週末以降でお願いします」
「もしかして和子殿下も同じですか?」
「ええ。夢の葉女学園も日程は同じはずですよ」
「分かりました。それで予定を調整します」
島森軍務次官が憲兵を伴って寮から出ていく姿を、寮生たちが興味深そうに窓から眺めるのだった。




