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第十一話

「ハラル、これは一体どういう状況なんだ?」


 ()()()と共に恐竜の飼育地に呼ばれた俺は、異様な光景を前に立ち尽くす他なかった。美祢葉は俺の腕にしがみついてガタガタとふるえている。その目の前に恐竜の成体が四頭、まるで平伏すかのように顎を地につけていたのだ。


「調査の結果、恐竜の成体は人間の十歳程度の知能を持っていることが分かりました」

「はぁ!?」


「直接言葉を交わすことは出来ませんが、チップを通してある程度の意思疎通を可能にしました」

「お、おい……可能にしましたって……」


「レイヤ様と美祢葉さん、それに私とルラハは彼らからすると(むれ)のトップとなります」


「群……それにしても平伏すなんておかしいだろ」

「教育の賜物(たまもの)です」


 おそらくチップを使ってかなり脅したんだと思う。


「美祢葉さん、大丈夫ですから頭を撫でてやって下さい。喜びますよ」

「えっ!? 私ですの!?」

「はい」


「れ、レイヤぁ……」

「重力シールドを纏っていれば大丈夫だよ」


 美祢葉が俺を盾にするように押しながら恐竜の一体に恐る恐る近づく。そしてそろそろと手を伸ばして頭に触れ数回撫でると――


「グルルルルル……」

「ひゃうぅっ! あ、あら? なんだか嬉しそうな感情が伝わってきましたわ。え? もっと撫でてほしい? わ、分かりましたわ」


 俺の後ろから出てさらに恐竜に近づき、美祢葉はしゃがんで頭を撫でる。すると恐竜は心地よさそうに目を閉じ再び鳴き声を漏らした。


「グルルルルル……」

「そう、気持ちいいんですの。え? それはもしかして私を乗せて走りたいということですか?」

「グルル!」


 実際に恐竜が言葉で伝えてきたわけではない。美祢葉を背に乗せて走るイメージを送ってきたのである。そしてどうやらこちらの言葉は理解しているようだった。


「ハラルさん、鞍があるのですか?」

「はい。私たちを乗せて走れるように調教も済ませてあります。速いですよ」


「私は乗馬では襲歩(しゅうほ)(馬が全速力で走る際の歩法)でも乗りこなせますが……」

「全速ですと時速百キロは出せるようです」


「馬の襲歩はだいたい時速六十キロほどですから、それよりも速いということですわね」

「そうですね」


「ハラルさん、この子は何という名前なのですか?」

「いえ、名前はありません」


「では私が名づけても? あら、よろしいみたいですわね」


 美祢葉が名づけ親になるイメージが伝わったのだろう。恐竜が嬉しそうに彼女に頭を擦りつけてきたが、さすがにバランスを崩して尻もちをついてしまう。


「きゃっ!」

「こらっ!」

「グルルーン……」


「ハラルさん、大丈夫ですわ」


 ハラルに怒られて悲しそうな声で鳴いた恐竜の頭を撫でて立ち上がると、美祢葉はすぐに鞍を用意してほしいと言い出した。さっきまで怯えて震えてたのにその度胸はどこから湧いて出た?


「念のために乗馬、ではなく乗竜(じょうりゅう)? の際には重力シールドの展開をお忘れなく。それとこちらがヘルメット、手綱を握るための革手袋、ブーツです」

「重力シールドがありますのに必要ですの?」


「政府や軍の方が視察に来た時に、それらを身につけていないと不自然に思われますから」

「やっぱり来るのか?」


「間違いなく来ます。現在メンバーを決める会議が開かれているところです」

「分かりました」


「まあ、実際乗ってるところなんて見せるつもりはないけどな」


 美祢葉の出で立ちが白地に水色のストライプシャツと、ひだが多い膝丈のプリーツスカートだったためいったん家に戻って着替えてきてもらった。


 その間に鞍を用意し、他の三頭を俺とハラル、ルラハに割り振って名前をつける。


「レイヤ様は四頭の中で最も身体能力の高いそちらの個体をどうぞ」

「ならハラルと名づけようか」


「レイヤ様!」

「冗談だって」


「わざわざ恐竜に私の名前をつけなくても、乗りたければ私に乗ればいいのです!」

「またお前は……ところでコイツはオスか? それともメスか?」


()()()さんが名づける個体以外は三頭ともメスです」


 恐竜はオスよりメスの方が凶暴とのこと。もっとも脳内にチップを埋め込まれた彼らが人に危害を加えることはない。


「うーん、テーゼってのはどうかな」

「意味は何ですか?」

「何となく」


「その子も喜んでいるようですし、いいと思います。では私はヴァンにしましょう」

「意味は?」

「何となくです。ルラハはどうします?」


「リオンにしようかと。何となくですけど」


 全員何となくで名づけてしまったが、恐竜たちはそれぞれの主を得て満足したようだ。そこに美祢葉が戻ってきたので、すでに俺たちは名づけを終えたことを知らせた。


「貴方の名前はシルバーにしますわ」

「グルルルルルーッ!!」


「それでは参りましょう! ハイヨーシルバー!!」


 鞍に跨がり手綱を握った美祢葉を乗せたシルバーが颯爽と走り出す。シルバーの太く力強い脚が地面を蹴り、やがて頭から尻尾の先まで横一文字の体勢になるとトップスピードに達した。


 さすがに馬を襲歩(しゅうほ)で乗りこなすだけあって美祢葉も危なげない。上体を低くし、シルバーと一体となって駆け抜けていく様は見とれるほど美しかった。


 美しかった。そう、確かに美しかったのだ。彼女が突然上体を起こし、右の拳を挙げて雄叫びを上げるまでは――


「ヒャッハーですわーっ!!」

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