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第三話

 合宿地は河口湖畔に建つレイクサイドグランデという高級ホテルだった。とは言ってもこの世界の高級だの超高級だのという文句は俺には通用しない。建物も部屋も確かに他とは一線を画しているようだが、快適さは居住用ポッドと比べると月とすっぽんだ。


「あのお部屋を知ってしまうと、私もレイヤと同じ気持ちになりますわ」


 学園の寮の部屋にも不満があるようで、休日前や週末になると()()()は必ずと言っていいほど俺の家に泊まりに来ていた。


 加えてどうしても俺と過ごしたくて我慢出来ない時は、平日でも光学迷彩スーツで姿を不可視にし、移動用ポッドで寮の俺の部屋に迎えに来て日出(ひで)村の家で一晩過ごすのだ。


 あらかじめ念話での呼び出しが来るが、俺はそれを今まで一度も断ったことがない。甘えてくる彼女が愛しくてたまらないからである。


 ということだが、さすがに合同合宿中は控えるべきだろうと美祢葉には言い聞かせておいた。


 合宿では午前中はホテルのロビーで通常の授業が行われる。現在このホテルには学園の生徒と関係者しか泊まっておらず、いわゆる貸し切りとなっていたため広いロビーは生徒たちで埋め尽くされていた。


 いつもは一クラス三十名程度の授業が、およそ百六十人である。教師の声はマイクで天井のスピーカーを通して届けられることになるが、育ちがいい生徒たちはほとんど雑談もせずきちんと授業を受けていた。


 しかし俺たちは念話で絶賛雑談中だ。


『レイヤ、チップがあれば授業を聞かなくても知識が得られますのよね?』

『もっと言うと試験の回答も全て分かるぞ』


『それは卑怯……倫理的にどうかと思いますわ』


『すでに話は聞いていると思うけど、俺が学園に通っているのはハラルとルラハがこの世界の学校に興味を示したからなんだ』

『だから勉強は不要と言われるのですね?』


『しなくてもだいたいのことは分かるからな』

『中間試験ではわざといくつかの答案を間違えたのですわよね?』


『まあな。トップを取った()()()はすごいと思うぞ』

『はあああ……私の努力は一体何だったのかしら』


『愛してるぞ、美祢葉』

『なっ!? ななな、何をとちゅぜん!!』


『あ、噛んだ』

『『噛みましたねぇ』』


「も、もう!」


 思わず声を上げてしまった美祢葉が一気に注目を集めてしまい、異変に気づいた教師が授業を止めてマイクで尋ねてくる。


「あー、在原(ありはら)さん、どうかされましたか?」

「な、何でもありませんわ。失礼致しました」


 そして涙目になって俺を睨みつけてきた。


『帰ったらお仕置きですわよ!』

『ふーん、お仕置きしてほしいんだ』


『ち、ちがっ!』

『楽しみにしておくよ』

『レイヤのいじわる!』


『仲がいいですね』

『ほんとですね、ハラル』


『ハラルさんもルラハさんも何か言って下さい!』

『ではレイヤ様の弱点をお教えしましょうか?』

『え? じゃ、弱点!?』


『はい。お仕置きする側とされる側が入れ替わると思いますよ』

『ハラル、やめろ!』


『だめ! 聞かせて!』

『ハラルが止められましたので私が』

『ルラハ!?』


 美祢葉が真っ赤になりながらも勝ち誇った笑みを浮かべている。待て、俺に弱点なんてねえよ!


『ふふふ。では、そういうことにしておいて差し上げますわ』


 この時、俺の美祢葉に対する色々なアドバンテージが崩れ去ったのだった。



◆◇◆◇



 午後は何人かのグループに分かれてディスカッションが行われる。テーマはあらかじめ決められた中から選択する形だ。その場で選んで参加するが、三人に満たないテーマを選んだグループは解散させられる。


 そんな中、俺たちが選んだテーマは"恐竜"だった。俺が元いた世界でははるか昔に絶滅した生物。それがこちらでは未だ生きているのだから色々と意見を聞いてみたいと思うのは当然のことだろう。


 偵察型ドローンで実物の映像は確認していたが、個体数が少ないので捕獲などは行っていない。アマゾンにはこれを捕らえて食料にしている部族もあるようなので、生態系を維持する意味でも今後も捕獲などはしないつもりだ。


 ちなみに俺たちのグループは俺とハラル、ルラハに美祢葉で、他のいつものメンバーは参加していない。代わりというわけではないが第三皇女の()()殿下が加わり、彼女とハラルたちに釣られて下心見え見えの男子十数人が入ってこようとしていた。


「和子様は確か生物学の一環で恐竜の研究をなさっておいででしたね」

「はい。ヨウミレイヤさんはよくご存じですね」


「フルネームじゃなくて苗字でも名前でも、好きな方で呼んで下さい。知っていたのはたまたまです」

「ではレイヤさんと呼ばせて頂きますね。たまたまですか。私に興味を持って頂いたとか?」


「答えにくい質問をなされますね」

「あら、そうですか?」


「ないと言えば失礼になりますし、俺にはハラルとルラハ、美祢葉がいますので、あると言ってしまうと彼女たちも怖いんですよ。それはいいとして、君たちはどうしてこのテーマを?」

「えっとそれは……」


 十数人の男子全員がしどろもどろになっている。参加は自由だが女子目当てというのは邪魔でしかない。


「殿下が目当てなら悪いけど他に行ってくれ。俺たちは真面目にディスカッションしたいんだ」

「お、俺たちだって!」


「そうだよ! ヨウミ君にとやかく言われる筋合いはないと思うけど?」

「このグループのリーダーは俺だ。で、いいですよね、和子様?」

「はい」


「美祢葉たちも、いいよな?」

「「「もちろん!」」」


「というわけで俺たちのグループは和子様で締め切りとする。恐竜をテーマにしたければ新たにグループを作ってくれ」


「横暴だ!」

「参加は自由のはずだ!」


「あのー、すみません」

「どうした、ハラル?」


「そちらの皆さんの視線がいやらしく感じられますので、私は生理的に受け入れられません。もし参加されるなら私は抜けさせて頂きます」

「「私も」」


「「「「「「なっ!?」」」」」」


「でしたら立場上殿方の中に一人になるわけには参りませんので、私も抜けさせて頂かなくてはなりません」


 ハラルの言葉にルラハと美祢葉が同調し、和子様が乗っかった。それにしてもハラル、生理的に受け入れられないってのはかなりキツいと思うぞ。


「だそうだ。彼女たちがいなくても俺とディスカッションするか? 恐竜について話し合いたいんだろ?」

「「「「「「くっ……」」」」」」


「どうするんだ?」

「き、君と仲良くするつもりはない!」

「そうか。ならどっか他に行ってくれ」

「ふんっ! 覚えてろよ!」


 捨てゼリフを吐いて男子たちは去っていった。カッコ悪いなあ。


「あの方たちの素性を調べて懲らしめた方がよろしいですか?」

()()様のお手を煩わせるわけにはいきませんので、何かしてきたら自分で対処しますよ」

「そうですか」


「まあ、目を引く美少女たちに囲まれてるんですから多少は恨まれても仕方ないと思ってますし」

「あら、その中に私も入っていますか?」


「答えにくい質問第二弾ですね。ノーコメントとさせて下さい」

「ざーんねん!」


 そう言ったお姫様は本当に楽しそうに笑っていた。

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絶滅といえば、現実世界では既に途絶えている皇族“有栖川家”は残っているのかな?
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