第十八話
休日であっても外出する際には制服着用との学園の決まりがあるが、あらかじめ申請して認められた場合はその限りではない。
これは夢の葉学園の生徒の多くが軍の士官候補生であり、家柄にも名門が多く在学中に見合いなどが行われることが珍しくないからだ。そのため遊び目的以外の申請は通りやすく、見合いまではいかなくても両家の顔合わせ程度の理由でさえ前日申請で許可が下りる。
そんなわけで寮から出てきた美祢葉は肩出しの白いミニワンピに、黒い肩紐を覗かせる扇情的な姿で現れた。これまであまり気にしたことはなかったが、胸の膨らみは大きめのリンゴがくらいあり腰はキュッと締まっている。
ヤバい、可愛すぎる。
「あ、あの、レイヤ、おはようございます」
「お、おう、おはよう」
「わ、私、何か変でしょうか?」
いかん、あまりにガン見してしまったため美祢葉が萎縮してしまっている。
「ごめん。私服姿なんて初めて見たし、その、あまりにも可愛くてつい……」
「え!? か、かわわわ……」
「あのー、ここでイチャつかれますと寮の皆さんのいい見世物になりますけど」
「もうなってますけど」
ハラルとルラハに言われてハッと建物を見ると、多くの窓からニヤニヤした顔で見られていた。
俺は慌てて自動車のドアを開け、助手席に美祢葉を乗せる。秘密裏に彼女を連れ出すつもりでいたのに、週が明けたら質問攻めにされることだろう。
これまでもクラスでカップルが成立すると二人を並べて記者会見のようなものが行われていたので、次は俺と美祢葉ということになる。
「新聞部、潰そうか」
「レイヤ様、私、新聞部に入ろうかと思います」
「やめろ、ハラル」
「私は放送部に入ります」
「ルラハは中継しようとするな!」
俺たちのやり取りに目を見開いて聞いていた美祢葉がたまらずクスクスと笑い出した。少し緊張していたようだが何とかほぐれたようだ。
「美祢葉、今日は帰さないけど大丈夫か?」
「レイヤ様、その言い方ですととてもエッチに聞こえますよ」
「は? いや、そういう意味ではなくて……」
「両親にはレイヤのところに泊まらせて頂くと伝えてありますわ。ハラルさんとルラハさんもいらっしゃるから心配ないと……で、いいのですわよね?」
「もちろん! いいよな、ハラル、ルラハ」
「夜は二人きりにして差し上げても構いませんよ」
「ハラル!」
「は、ハラルさん!?」
「うふふ、冗談です」
『私たちとするところを見物してもらいましょうか』
『やめなさい!』
とんでもない念話が飛んできたので、俺はルームミラー越しにハラルを睨みつけた。
「美祢葉、これから行くのは高尾だ」
「あら、先日訪れた陸軍の出張所もスパも高尾でしたわよね」
「うん。実はあの近くに俺の家があるんだよ」
「そうなんですの? どんなお宅なのかとても楽しみですわ」
「普通に二階建ての家だよ。一階はリビングダイニングとキッチンに風呂、あとトイレ。二階には三部屋あるけど自慢は風呂かな」
「お風呂が?」
「檜造りで天然温泉。しかも源泉掛け流しなんだ」
「まあ! ご自宅に温泉が!? 羨ましいですわ!」
「皆で一緒に入りましょうか」
「えっ!?」
「ハラル!」
「レイヤ様、もちろん水着を着てですよ」
「水着……あ、ああ、そうか、それなら……」
「あの、レイヤは普段お二人と一緒に入られたりされてましたの?」
「は? い、いや、その……」
「レイヤ様のお世話をするのが私たちの役目ですから当然です」
「ルラハ!」
「えっと、それは水着を着てですか?」
「いいえ。レイヤ様のお体を洗っていると元気になられますので、そのままお相手出来るように全裸です」
「い、いや、美祢葉、そんなこと聞かなくても……」
「そ、それなら私も水着はいりませんわ! 今夜は私にレイヤのお世話をさせて下さい!」
『ハラル! ルラハ!』
『いいではありませんか。美祢葉さん、レイヤ様とお付き合いを始めたその日から大変だったようですし』
『大変? 何が?』
『レイヤ様のお名前を呼びながらご自分で……』
『えっ!?』
「何か言って下さい! いたたまれないではありませんか!」
「ごめん、その……美祢葉、自分で言った意味分かってる?」
「と、当然ですわ!」
『経口避妊薬の準備は出来てますよ』
「マジか……」
俺よ、箍が外れてしまわないように本気で注意すると誓ったあれは何だったんだ。思いっきり期待しているじゃないか。
「あー、でも美祢葉、そういうことは結婚してからじゃなかったのか?」
「私、あれからいろいろ勉強しましたの」
「何の?」
「男女が恋人同士になったらどういうことをするか、ですわ」
「へ?」
「世間では結婚する前からお互いの相性を確認する意味で、体を重ねるのが普通だと知りました」
おいハラル、まさかその知識を得るように仕組んだんじゃないだろうな。
「ですがさすがに妊娠は困りますので、ちゃんと避妊されているハラルさんにご相談したところ、経口避妊薬というものがあるとお聞きしました」
やっぱりハラルか。仕組んだんじゃなくて直接植えつけただろ。
『レイヤ様、美祢葉さんの母胎は未熟ですが、行為自体は問題ありませんよ』
『いやいや待て待て。相手はまだ十五歳の未成年じゃないか』
『あら、彼女は先日お誕生日を迎えたので十六歳になってます』
『それでも未成年なのは変わりないだろ!』
『こちらの世界では女性は十六歳になったら結婚出来るので問題ありません』
『そうなんだ』
念話終わり。
「もしかしてレイヤ、私では不満なのですか?」
「不満は全くありません!」
「でしたら今日、私をレイヤのものにして下さい!」
これはもう逃げられないヤツだ。腹をくくるしかなさそうである。どうしてこんなことになった?
俺はハラルとルラハが小さくガッツポーズしているのに気づいて負けたことを覚るのだった。




