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第七話

「レイヤ君は反対か。一応、理由を聞いても?」

「不愉快な思いをさせられた相手と仲良くしたいと思えないってだけのことさ」


 俺は(みなと)に顔を向けた。


「もっとも昼食だけなら二人を加えても構わないというのは湊君と同意見だ。ただし――」

「ただし?」


「俺とハラルたちは常にここで昼食を摂るわけではないから、俺たちがいない時に限りという条件をつけさせてもらう」

「「なっ!?」」


 昼食に同席出来る可能性が出た時点で表情を崩した石原(いしはら)奥田(おくだ)だったが、俺が出した条件に怒りとも驚きともとれない顔つきになった。


「これでも食事時くらい孤立は可哀想だと情けをかけたつもりなんだけどな」

「あのー」


 そこで手を挙げたのは海運大手の社長令嬢、(あり)(はら)()()()だ。


「二人がランチに加わるのも、全員の同意が必要なんですわよね?」

「そうだね」


「なら私と木納(きのう)(しおり)さんは反対ですわ」

「「……!!」」


「理由を聞いてもいいかな?」


「石原君と奥田君とは仲良く出来そうにありません。それが理由ですの」

「あ、(あり)(はら)さんに嫌われる理由はないはずだが?」

「僕もわけが分からないよ」


 (しおり)が反対するのは予想がついていた。特にこれといった特徴のない家柄の彼女に対し、石原と奥田は常に威圧的な態度で接していたからである。これもまたクラスメイトたちが二人を避ける原因の一つだったのだが、彼らは理解出来ていなかったらしい。


 ()()()が同調したのは意外だったが。


「つまり(しおり)ちゃんに対しては身に覚えがあるということですわね?」

「そ、それについては謝るし今後は改める!」

「僕も謝るよ!」


「だからいいよな、木納(きのう)!」

「木納さん、今後は家柄など関係なしに仲良くしてあげますよ」


「レイヤ様、発言してもよろしいでしょうか」

「ハラル、許す」


「私も木納さんと同じ女性として、石原さんと奥田さんの参加には反対させて頂きます」

「なっ!?」

「ハラルさん!?」


迦陵(かりょう)君、何とかしてくれ!」

「そうだぞ迦陵! お前から俺たちを仲間に加えると言うんだ!」


「僕は皆のリーダーではないからね。そんな権限はないよ」

「じゃ、誰がリーダーだっ!?」


「うーん、さっきも言った通り立場に上下はないんだけど、強いて言うならレイヤ君かな」


「そうだな、レイヤ君だ」

「うん、レイヤだ」

「私もそう思いますわ」

「わ、私も……」

「当然、レイヤ様です」


「待て待て、どうして俺がリーダーなんだ?」

「だってそもそも私たちはレイヤさんたちと仲良くなりたくて集まったんですもの」


 皆一様に納得した表情で肯いた。そこまで言われたのなら仕方がない。


「どうやら俺がリーダーになるらしい」


「そ、そうか。君はさっき自分たちがいないところなら一緒に食事をしても構わないと言ってたよな」

「僕も聞いた!」


「奥田君、石原君、最初に(みなと)君が仲間に招き入れるのは全員の同意が必要だと言ったのは覚えてるよな。そして結果は(あり)(はら)さんと木納(きのう)さん、それにハラルからの同意が得られなかった」

「「くっ……!」」


「さ、話は終わりだ。悪いが他所(よそ)へ行ってくれ。昼休みの時間がもったいない」


 いつの間にか周囲で耳をそばだてていた者たちも、成り行きにクスクスと笑い声を上げていた。ただ、彼らの学園での孤立もそう長くは続かないだろう。


 何故ならまず自由民権党の議員、石原劉護(りゅうご)の禁止薬物所持が明るみに出るからだ。(ゆめ)()学園は名門と(うた)われるだけあって、親が犯罪者となった生徒は退学させられるのである。


 続いて大日本帝国陸軍中佐、奥田竜良(たつよし)は息子が木納(きのう)(しおり)をイジメていた事実を猪塚(いのづか)陸将補に知られ(俺がチクった)、自主退学を余儀なくされた。


 陸将補には俺たちが学園に通っていることを知らせてあったが、あちらはあちらで単なる酔狂と解釈したようだ。余計なちょっかいをかければ即自分たちに跳ね返ってくることを知っているせいで、特に詮索もされなかった。


 それから数日と経たないうちに二人は学園を去り、俺たちは中間試験を受ける準備に取りかかることになったのである。


「せっかくだし週末泊まりがけで皆で勉強会をするのはどうかな?」


 とは(みなと)の発案だ。どうやら彼は他のグループではなく、俺たちと勉強したいらしい。もっとも俺はハラルとルラハから解答を念話で受け取れるので、不自然にならない程度にわざと間違いを混ぜて答案用紙を埋めるだけだから、勉強会に参加する意味はない。


 しかも泊まりがけなど面倒である。俺は休日はハラルやルラハと一日中イチャイチャして過ごせればいいのだ。


『いいではありませんか、レイヤ様』

 念話を飛ばしてきたのはルラハである。


『ルラハは賛成なのか?』

『科目は現代日本語、数学、帝国社会学、基礎化学、軍学は陸、海、空から一科目選択。この中で私は軍学というのに興味があります』


『英語はないんだな』

『こちらでは世界共通言語が日本語ですから英語は地方言語。必須科目ではありませんよ』


『ああ、そうか。むしろ同盟国のドイツ語やイタリア語が推奨されているんだった』


『外国語は学期末試験に組み込まれます』

『まあ、ルラハが興味あるなら泊まりがけの勉強会にも参加してみるか』


(みなと)君、場所はどうするんだ?」


「それなんだけど、うちの別荘は国内だと遠くてね。誰か近場で皆が集まってゆったり過ごせる別荘なんか持っている家はないかな?」

「近場という条件がキツいね」


 とは大手都市銀行頭取の次男坊、弓倉(ゆみくら)弘達(ひろよし)


在原(ありはら)家の別荘は海外にしかございませんの」


 とは海運大手の社長令嬢、在原美祢葉(みねは)


 他のメンバーも別荘はあるものの、週末に一泊二日というスケジュールでは利用しにくい場所にしかないとのことだった。


 仕方がない。ここは一肌脱ぐことにするか。


「じゃ、確約は出来ないけど俺が何とかしてみるよ。二、三日時間をもらえるかな」


 場所の候補を挙げた瞬間、驚愕した全員の視線が俺に集まるのだった。

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