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第十三話

 九州からの一行が到着したその日は試合がない。午前中は全員陸軍の日出(ひで)村出張所へ。午後は女性兵士たちは道場の見学とスパ周辺の散策、いわゆる午後休のようなものだ。


 これは遊びに来たわけではないとは言え、多少は旅行気分を味わうのもいいだろうとの付き添い士官の配慮による。その士官たちは引き続き出張所に滞在し、午後は部屋で寛ぐなり温泉に入るなどして過ごしていた。


 試合の様子は道場に設置した四台の定点カメラと一台のテレビカメラで撮影され、出張所の大会議室にある大型モニターと居住用ポッドのモニターにも中継される。カメラで録画したデータは軍にも提供する予定だ。


 このことは女性兵士たちも了承している。なお、テレビカメラはルラハが操作し、解説はハラルが担当することに決まった。二人はレンズにマジックミラーを使った眼鏡とマスクを着用し、ダボッとした道着を着て顔やスタイルを晒さないようにする。


 光学迷彩で姿を消すわけにはいかないし、撮影データを編集して二人の姿そのものを削除することも考えたが、不自然になるのでやめたというわけだ。


「レイヤ様、今夜はバーベキューをやりたいとの要望が上がっておりますが許可されますか?」


「構わない。食材は十分に用意してやってくれ」

「かしこまりました」


「ハラルとルラハも参加するのか?」

「いえ。誘われましたが辞退しました」

「どうして?」


「レイヤ様のお世話がありますから」

「俺を優先してくれてありがとう」


 あっちはあっちで楽しんでくれたらいい。


 ちなみに全試合が終わるまで、彼女たちに飲酒は許されていない。可哀想だが決勝戦が行われる金曜日の夜は宴会が予定されているので、そこでたっぷり飲めるだろう。


 その翌日の土曜日は丸一日フリーで、九州組が帰るのは日曜日だ。羽を伸ばす時間は十分にある。今日もスパ周辺の屋台などを巡って楽しんでいたと聞いた。


「そう言えば重田(しげた)村長が、村の外からも屋台をやりたいって人が来たって言ってたな」

「はい。屋台をやっている村民にどこに許可を取ればいいか聞いたようです」


「村人なら村役場って答えるか」

「こちらに直接来られても困りますけどね」


「どんな相手か調べてあるか?」

「焼き芋屋さんです」

「焼き芋屋?」


「何人かで有限会社を設立して、キッチンカーでの移動販売なども手がけているようですね」

「ふーん。これから暖かくなっても売れるのかね。焼き芋って冬に食うんじゃないのか?」


「そうでもないですよ。確かに夏場は売れ行きが落ちますが、人気は底知れません」

「そんなもんか。どうしたらいいと思う?」


「許可されたらいかがですか? 村にも場所代が入ると思いますので」


 村民が営む屋台の土地使用料として、俺には一台につき一日一万円プラス売り上げの十パーセントが支払われている。


 村がこれに上乗せするとすれば同じだけ、つまり村外から来る屋台は一日二万円プラス売り上げの二十パーセント程度を支払うことになるのではないだろうか。俺に入ってくる額は変わらないが特に問題もないと思う。村が儲かるならいいことだ。


「その他にはなんかありそうか?」

「天然温泉スパリゾート日出村の名はあちこちで知られています」


「ルラハ、有名って言いたいんだよな?」

「はい。その焼き芋有限会社のキッチンカー……」


「焼き芋有限会社って……」

「社名は"(べに)あずまーる"です、ルラハ」


「お前ら繋がってるんじゃないのかよ」

「レイヤ様サービスですよ。ボケ担当がルラハで、ツッコミ担当が私です」


「俺はハラルにツッコミたいよ」

「えっちな意味でですか?」

(ちげ)ーよ!」


 ちょいちょいそういうの入れてくるよな。


「こほん。話を戻してもよろしいですか?」

「あ、ああ、頼む」


「紅あずまーるのキッチンカーや屋台で、天然温泉スパリゾート日出村で販売しているのと同じなどと宣伝に使われる可能性があります」

「スパ名で商標権は取ってあるんだよな?」


「村の名前が入ってますから、村の方で取得されてますね」

「俺に権利はないってことか」


「そうなります。そもそも運営自体が日出村で行われておりますので」

「それじゃ村長が相談に来たら、勝手に名前使われないようにって注意だけしようか」

「それがよろしいかと」


 村長が事務員の山岸(やまぎし)琴美(ことみ)を伴って俺の家を訪ねてきたのは夕方になってからだった。俺は二人を家に迎え入れる。もちろん居住用ポッドではなく、村の自警団が建ててくれた方だ。


 ルラハがテーブルにお茶を五つ並べて席に着く。俺を真ん中に右側がハラル、左側がルラハである。向かい側には向かって右に村長、左に琴美が着席した。


「忙しいところを済まないね」

「いえ、お気遣いなく」


「レイヤ、久しぶり」

「ああ、琴美久しぶり」


「ハラルさんとルラハさんも」

「「お久しぶりです」」


「話は村の外から来た屋台の件ですね?」


「うむ。有限会社紅あずまーるという焼き芋の屋台やキッチンカーを営んでいるところじゃ」

「村としては受け入れる方向ですか?」


「レイヤ君の許可が取れればの」

「条件は?」

「山岸君、説明してくれ」


「はい。まずレイヤに支払う土地の使用料は今ある村の屋台と同じよ」

「ふむ」

「それと同じ額を村も請求しようと思うの」


 あまりに予想通りの展開に少しびっくりしてしまった。


「あっちはそれで納得しそうなのか?」

「売り上げの二十パーセントは世間では相場ね。場所代の二万円は高い方だけど、スパのネームバリューと現在の客足を考えれば高いとは言えないと思う」


「俺としては村がよければ反対するつもりはないよ」

「ホント!?」


「ああ。てか琴美、やけに乗り気だな」

「えへへ。私焼き芋大好きなの」

「そういうことか」

「レイヤ、ありがとう!」


「あははは。ところで村長」

「なんじゃ?」


 俺はそこで先ほどルラハが言った商標について注意を促した。名前を使うならそっちの使用料も忘れずに取れというわけだ。


「分かった! 相場を調べてみるね!」


「すでに調べたよ。まだ売り出し中とは言えこっちは是が非でも宣伝してほしいわけじゃないから、割と強気に売り上げの三パーセントでいいんじゃないか?」

「有限会社全体のってことよね?」


「そうだ。払いたくないと言うなら商標の使用を認めなければいいだけさ」


「ありがとう! 村長、それで調整しましょう!」

「そうじゃな」

「じゃ、この話は終わりね」


「うむ。それではレイヤ君、ワシらはこれで……」

「あ、ちょっと待って下さい、村長」


「なんじゃ? 他にもまだあるのか?」


「ねえ、レイヤ、檜のお風呂に入りたいんだけど」

「却下だ」


 ぶーたれる琴美を追い返すのはめちゃくちゃ面倒だった。着替えまで持参してきたのにとか知るか。


――あとがき――

現在は2006年5月に施行された会社法により、有限会社の新規設立は出来なくなっています。しかし本作の舞台はパラレルワールドですので、その辺りが違うのだとお考え下さい。

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