31.砂漠の街ミラージュ陥落
超古代文明の遺跡を後にしたエイジたち一行は、いくつかのオアシスを経由して砂漠の街ミラージュの近くまで迫っていた。
突然、遠くの空に煙が立ち昇るのが見える。
一行はラクダワゴンを止めて様子を伺う。遠すぎて解らないが、かすかに地鳴りと揺れを感じた。
「あの方角はミラージュがある方ね。」リリスが心配そうに呟く。
とにかく進んでみようと、ラクダを走らせようとした瞬間、何の前触れもなく行く手の空間に真っ黒い球体が出現し、その中から一人の男が姿を現した。
男は何かの曲を口ずさみながら、ゆっくりと立ち上がる。
『デンデデンデデン‥デンデデンデデン‥チャラリ~↑♪チャ~リラ~↓♪』
エイジがいち早く突っ込んだ。「お前!ナイトウだな!」
「いかにも!アイルビーバーック!ナイトウー!!フォォォオオオ!!!」
Yの字のポーズをとって叫ぶナイトウ。
いちいちキャラが違うが『騒がしい男』という点で共通している。
「なんでお前がここに!っていうか、どうやって現れたんだよ!?」エイジは素で驚いている。
「主殿、今のはまさか、空間跳躍‥瞬間移動では‥‥」執事も驚きの表情を隠せない。
リリスだけは余裕のある笑顔で「あなたたちがやることにイチイチ驚いてたら身がもたないわよー」と強がって見せるが明らかに動揺している。
「ヴァレンシアを出るとき、ベル師匠から何か預かっただろぉ~う?」ナイトウは『俺だけはタネを知っているぜ』とアピールするようにドヤ顔を見せる。
「(ジー、あいつを吹き飛ばしちゃってくれ‥)」「(主殿‥流石にそれは‥)」
「ベルさんからの預かり物って、コレのことかしら?」リリスが首からさげたネックレスを指さす。
ペンダント部分に小さく光る青色のクリスタルが埋め込まれている。
「そう!まさにそれサ!そいつがある場所へ、ボクはどこからでも瞬時にワープすることが出来るのサ!女神様の力で、ネ!」鼻につく喋り方とドヤ顔がエイジの神経を逆なでする。
「ジー、やっぱりあいつを吹き飛ばしちゃってくれ‥」「そうしましょうか‥」
殺気が向けられたのに気づき、ナイトウは態度を改める。
「い・いや、ごめんなさい!調子に乗り過ぎました!大事な用があって飛んできたのですよ!」
「‥‥‥。何の用だよ。」
「砂漠の街ミラージュからの連絡が途絶えたって、ベル師匠が‥。」
「え?」「は?」「なんと!?」「‥‥」
リリスが目を真ん丸にして聞き返す。「途絶えたって‥どういうこと?」
「そのままの意味でして‥‥えーっと、数時間前にミラージュのギルマスからベル師匠に緊急の遠話が入ったんです。『アビス』が出たって。」
「でも、ミラージュには‥炎の覇王と氷結のフローズンが居るでしょ!?」
「それが、フローズンさんには特別な調査任務があって、街を留守にしていたそうなんです。炎の覇王が単独でアビスに挑んだ‥と聴いたところで遠話が切れてしまったと。」
「それで、今ミラージュに向かっているボクたちのところへ飛んできたってワケか。」エイジは真剣な表情に戻っていた。
「それは心配ですな‥。あの煙も気になりますゆえ、急ぎましょう。」
一行はラクダを走らせた。
「‥ナイトウはもう帰っていいよ。」
「いや、僕も同行します。」
「(‥なんか鬱陶しいんだよなー)ナイトウにはヴァレンシアの街を護ってもらいたいんだよなー。」
「ダメです。」ナイトウは真剣な表情で進行方向‥ミラージュの方角を見つめたまま続ける。
「‥そのペンダント、1個しかないので。帰れないんです。こんな場所に置いていかれたら僕、死んじゃいますよ。」
「ぁー‥そう‥‥」「主殿、致し方ありませんな‥。」
一行はラクダを走らせた...。
太陽が傾き始め、空が茜色と紫色に染まっていく頃、一行はミラージュがあったはずの場所へと到着した。
正確な場所は最早わからない。
今、その周辺‥見渡す範囲に街の影は無く、巨大なクレーターが口を開けていた。
「うそ‥ここが‥ミラージュ?」リリスが青ざめる。
執事がクレーターを覗き込む。
「あ奴が街を?」
見ると、クレーターの中央に炎を纏った巨大なドラゴンがうずくまっている。
「街ひとつ‥跡形も無く‥‥」リリスは震えながらエイジの腕を掴んだ。
エイジの顔から笑みが消えていた。
「なんてヤツだ‥。ここまでやられちゃうと笑えないね。ジー、メイ、いくよ。リリスはここで待ってて。ナイトウ、リリスを頼んだよ。」エイジは短剣を抜いてクレーターを駆け下りていく。執事とメイドがそれに続く。
「ちょ・ちょっと!エイジくん?キミってば‥そんな子どもなのに危ないじゃないか!?」慌てふためくナイトウに、リリスは静かに囁く。
「大丈夫。エイジなら、大丈夫。」リリスは自分を抱きしめるように腕を組み、肩を震わせていた。
・
・
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エイジたちの接近に気付いたドラゴンはゆっくりと立ち上がる。
片翼が千切れているのは、炎の覇王が奮闘した証だろう。
いつぞやのリッチ戦のように、三人並んでドラゴンへと向って歩みを進める。
ドラゴンは咆哮を上げ、口元に炎を集中させる。
「きますぞ!」執事が注意を促すと、メイドと執事は左右に展開する。
「主殿、お気を付けください!」
再びドラゴンの咆哮が響き渡り、同時に炎のブレスが放たれる。
ブレスは地面を焦がし、砂をガラスのように変えながらエイジに迫る。
流石にコレを受けるわけにはいかない。エイジは飛び退いてブレスを避けると、そのままドラゴンに向かって突進する。
巨木のような足を切りつけてみるが、硬い鱗に弾かれてしまう。
「硬っ!」
執事が逆サイドから剣撃を入れるがやはり弾かれる。
「このままでは歯が立ちませんな‥」
メイドがエイジの後ろから飛びあがり、ドラゴンの背中に飛び乗ると渾身の一撃を振り下ろす。
『グギャ!』ドラゴンは少し体をよじったが、ダメージは入っていなさそうだ。
「コイツは、なかなかの強敵だね。」結局、戦いが楽しくなってくるエイジ。口元がニヤけている。
「少しばかり本気を出させていただきます。」執事はそう言うと、手にした長剣に魔力を宿す。
その隙を見逃さず、ドラゴンの尻尾が振り下ろされてくる。
ギリギリ、メイドが尻尾の軌道を逸らすと、執事は魔力を宿し終えた剣で尻尾を切り落とす。
抜群の切れ味だ。
『ギャオオォォオオオ!!!』ドラゴンは悲鳴を上げて転がる。
「じゃ、ボクもちょっとだけ。」エイジはそう言って集中する。
エイジが持つ短剣に雷が宿る。
「んーっと‥‥弱点ぽいところはーっと‥‥腹‥喉?逆鱗とかあるのかな?‥やっぱり目かな?定番としては目だよね!」独り言を呟きながら、ヨロヨロと立ち上がるドラゴンに近づいていく。
ドラゴンは再び炎のブレスを放つ準備をしている。
「させないよ?」そう言った次の瞬間、エイジはドラゴンの鼻の上に飛び乗っていた。
「!?‥お前たち『アビス』が何のために生まれてくるのかは知らないけど‥倒さなきゃダメなんだ。特にお前だけは‥ね。」
眉間に短剣を突き立てる。
『雷刃閃突』
ドラゴンの脳天に電撃が走り、一瞬で白目を剥く。
断末魔の悲鳴を上げるまでもなく倒れ込み、しばらくの間、痙攣していた。
エイジはドラゴンの眼を間近で見た瞬間、何かしらの『意志』を感じとっていた。
それは明確な殺意だったのか、激しい憎悪なのか、人間を殺戮するためだけに生れた‥そんな眼を見て、エイジは遊び心を忘れた。
「(『アビス』‥こいつらはもしかして‥‥)」
執事とメイドが集まってくる。
「お疲れ様でした。流石は主殿です。」「(スン)」
「ん。ジー、メイも、お疲れ。」
クレーターの上から一部始終を見ていたリリスは力が抜けてへたり込み、涙ぐんでいる。
「エイジ‥良かった‥‥。ミラージュの人たちも、これで少しは浮かばれるかなぁ...。」
ナイトウはマイペースだった。
「あっはーー!!凄いよエイジくん!執事さんもメイドさんも!何なんだい?あの三人って‥。僕の本気と良い勝負だよ!!」
日が沈み、先刻の戦闘が嘘だったかのように、辺りは静寂に包まれている。
一行はこれからのことを話し合っていた。
「ナイトウ、遠話ってやつは使えないのか?」
「はい。あれは大きな装置が必要なので、各ギルド支部に備え付けなんですよね‥。」
「そうか‥。お前なら、テレパシーみたいなのをサクっと使えたりするんじゃないのか?」エイジは皮肉交じりに笑う。
リリスが記憶を頼りに呟く。
「一番近いギルド支部はー‥北に向かって二日くらいだったかしら。」
兎にも角にも、今夜はこの場で野宿することになった。
翌日───。
興奮したリリスが大声をあげる。
「みんな起きて!早く!あ・あれ見てよ!!」
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