15.リリスの大冒険
冒険者ギルドが大きくなってくるとギルドハウスの受付嬢も増え、リリスは暇を持て余すようになっていた。
みんなにはナイショにしていたが、見た目は10歳前後の子どもでも、その中身は数十年の経験と知識を持ったエルフである。
「エイジ‥今頃どこで何してるのかなー‥。」
これまで、何人もの屈強な男たちを目にしてきたが、エイジとジーに匹敵するほどの冒険者を見たことはない。
「あたしも強くなって、エイジを追いかけなきゃ!そうよ。こうしちゃいられない!」
リリスはギルドハウスのクエストボードから剥がれ落ちた依頼書を拾い上げた。
『薬草の採取』
「ま、最初のクエストといえば、こんなところね。‥ギルドには話を通しておかないと面倒なことになるかしら‥」
そうしてリリスは、ギルドの許可を取り付け、街の裏門からコッソリと抜け出し、森へ向かった。
彼女は風の魔法を応用して周囲の様子を確認し、安全を確保しながら進んだ。
森は思った以上に広く、迷いそうになるので、樹木に印を刻みながら奥へ奥へと進んでいく。
やがて、小さな清流のほとりで目的の薬草を見つけた。
「やっと見つけたー‥。思っていたより大変なクエストね。」
薬草を採取し始めた時、草むらからガサガサという音が聞こえてきた。
リリスが慌てて振り返ると、そこには小さなウサギがいた。
「なーんだ、ウサギさんか。驚かさないでよぉ。」リリスは笑顔でウサギに話しかけた。
しかし、そのウサギの後ろから、もう一匹のウサギが現れ、その後も次々とウサギたちが集まってきた。
「ぇ?え?何!?」ただならぬ状況に困惑している間に、ウサギたちに囲まれてしまう。
「どーしよー‥」その時、ウサギの群れの中に、明らかにボスのような風貌をした大きな個体がいるのを見つけた。
「あの、あたしは‥この薬草をちょびっとだけ分けてもらいに来ただけでー‥。なんて、通じないわよね...。」
すると、ボスウサギは前へ歩み出て、じっとリリスを見つめた。
「え?どうしたの?‥‥困ってることが‥ある?」リリスは、なんとなくだがボスウサギがそう訴えかけているような気がした。
ボスウサギはコクリと頷くと、リリスを誘うように森の奥へと跳ねていく。
他のウサギたちもボスウサギに続く。
「ぁ、待って!これって、案内してくれている‥のよね。」慌てて追いかけるリリス。
しばらく清流をさかのぼるように行くと、小さな洞窟が見えてきた。
「この中に‥何かあるの?」リリスは洞窟の入り口を覗き込んだ。
その瞬間、洞窟の中から巨大な蛇が飛び出してきた。「ひゃわっ!?ふぇぇぇええええ゛ーーー!!」
リリスは驚いて慌てふためいたが、なんとか落ち着きを取り戻す。
「だ・大丈夫よ、冷静にならなきゃ。ただの蛇じゃない。ちょっと大きいだけの‥。毒とかないわよね?」
巨大な蛇は威嚇するようにリリスに向かって鎌首をもたげた。
黒と深緑の混じった鱗が全身を覆っており、鎌首だけでリリスの身長を優に超えている。
リリスは距離を取って詠唱を始める。
『‥大気の精霊よ、我が呼び声に応えよ。刃の如く鋭き風で、敵を切り裂け‥』
大蛇は洞窟から這い出て、リリスに向かってくる。
「ウインドカッターーー!!!」
リリスから放たれた疾風の刃は、大蛇の首を鮮やかに切り落とした。
「あ‥あはは‥ふっふっふっー!ほらね!あたし強い!やればできる子なのよ!」リリスはボスウサギに向かって勝利をアピールする。
ボスウサギはリリスを見つめる‥。
「いいのよ、お礼なんてー。」
見つめる‥。
「‥‥わ・わかってるわよ。この死骸をどーにかして欲しいんでしょ?」
コクリと頷くボスウサギ。
「そうは言っても‥流石にこんだけ大きいのは持って帰れないわね‥。触りたくないし‥うぇぇええ‥。」
巨大な蛇の全長は、リリスの身長の三倍以上はある。切り落とした首だけでリリスの上半身くらいだ。
「そうだわ!いいこと思い付いた。あなた達も手伝ってよ?」そう言ってリリスは呪文を詠唱し、蛇の死骸に向かって風魔法を放った。
すると蛇の死骸は少しだけ浮かびあがった。
「地面との間に空気のカーペットを敷いてみたの。これで軽々押せるはずよ。さぁウサギさんたち、町まで押していきなさい!」ビシっと町の方向を指さすリリス。すっかりウサギたちの大ボス気取りだ。
言葉は通じないが意図は通じたらしく、ウサギたちが次々と集まり、蛇の死骸を押し始めた。
「そうよ!その調子!あなた達もやれば出来るじゃな~い。」
順調に町に向かっていたが、次第にペースが落ち始める。
「はぁ‥はぁ‥はぁ‥‥魔力が‥‥持たないわ。ちょっと休憩させて‥‥はぁ‥はぁ‥」
樹木の目印を頼りに戻ってきたが、町まではまだ距離がある。どうしたものかと悩んでいると、ボスウサギが実の付いた木の枝を咥えてきた。
「ん?これ‥この実を食べれば良いの?」リリスはそう言われたものだと確信して、実を頬張った。
すると枯渇しかけていた魔力がみなぎってくるのを感じた。
「あはっ!すごい!魔力が回復したわ!!ありがとう!ガルボ!」リリスはボスウサギのことを『ガルボ』と呼ぶことにした。
キョトンと首をかしげるボスウサギ。
「あなたの名前は今から『ガルボ』よ!さーて、あとひと息!みんな頑張って!」再び呪文の詠唱を始めた‥。
蛇の死骸を町の入り口まで運ばせたリリスはガルボたちにお礼をいって森へ帰らせると、冒険者ギルドから大人たちを連れてきた。
「森の奥で、あたしが狩ってきた大蛇よ!」最初は半信半疑だった大人たちも、死骸を目の当たりにして驚きを隠せない。
「こいつぁでけぇーなー‥どうすりゃこんなにも鮮やかに首を切断できるんだ!?」
「ふふんっ。あたしの魔法に掛かれば、このくらい。」ドヤ顔のリリス。
「ちょっとまて、こいつぁ‥猛毒のヴァイパードレイクじゃねーか!?」
「え゛‥‥‥」急に青ざめるリリス...。
ガストンが慎重に死骸を確認する。
「間違いない。毒袋がパンパンだ。首をハネるのが一瞬遅れてたら‥ヤバかったぞ、リリス。」お咎め混じりの笑顔を向けた。
「慢心は最大の敵!わかってるわよ...。」
「よし!今夜は蛇肉パーティだ!!」「わぁー!!」
「ようよう、さっきウサギの大群を見たんだ。ウサギ肉パーティもいけるかも‥」
「ちょっと!!今後ウサギは食べちゃダメだからねーー!!」
こうして、リリスの初めての冒険は幕を閉じた。
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