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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

骨灰

作者: 藤田ジュリア

高校生の時に書いた小説を供養します。

ハッピーな話ではないです。

 穏やかな昼下がり。

 木漏れ日を背に自室で静かに本を読んでいると、突然着信音が鳴り響いた。


 見知った名前が表示された画面をスワイプして耳に当てる。



「久しぶり」


「どうしたんですか、電話なんて。久しぶりと言ってもこの前飲みに行ったばかりでしょう」


「え、あれ3年前だよな!?それをこの前というのか……?老化を疑った方がいい」


「そんなくだらないことを言いに掛けてきたのなら切りますよ」


「分かった、待ってくれ!いや、ちょっと、聞きたいことがあって」


「はあ、なんですか?」


「いや、瀬戸物って棺の中に入れてもいいのかと思って」


「葬儀屋にでも聞いてください。なにも門外漢の私に聞かなくても良いはずです。むしろプロに聞け。というかこのご時世、グーグル先生とかに聞けばいいんじゃないですか?」


 と言ったのにも関わらず、いや、その、と続ける彼にいつもの相談事かとため息をつき、開いていた本にしおりを挟む。


「面倒ごとを聞かされるのは得意じゃないといつも言っているでしょう。……はぁ。貴方の話長くなりそうなので、コーヒー淹れながらでもいいですか」

 返事を聞く前にハンズフリーにしてキッチンへお湯を沸かしに行く。


「ああ、構わない。話半分でいいさ。聞いてくれ」


 気に入っている白いホーローのやかんに水を注ぎ沸騰するのを待ちながら、続けてとばかりに相槌を打つ。類は友を呼ぶのか、この人の周りではしょっちゅう面倒な出来事が起こる。


「俺の友人が最近死んだって言う話をしただろう、この前。してなかったか?」


「いいえ、聞いていませんよ」


「そうか。なら今からするよ。血のつながりもないのに、兄弟と呼び合っていた森と大田だよ。君も校内で顔くらいはみたことがあるんじゃないか?」


「ああ、背が高い2人組。森さんは、確か眼鏡をしていましたよね。亡くなったんですか」

 若かりし頃の思い出に苦笑しながら、戸棚にしまったコーヒーを物色する。もう夕方に近い時間だ。カフェインを摂るのは良くないとは分かっていても、つい飲んでしまう。


「そうそう、その男たちだよ。卒業後、森は陶芸家になって、大田は公務員になったんだ。あの見た目だったのに、不思議くんと堅物くんだった所為か、今まで彼女のかの字も聞いたことがなかった男だっていうのに、お互い同じタイミングで好きな女が出来たんだ」


「へぇ、大学時代あんなに人気だったのに、いなかったんですね」


「そうだよ、30過ぎてから出来たらしい。兄弟って言っているだけあって、なぜか女の趣味まで似てしまったみたいで、同じ人を好きになったらしい。そこで、まあいわゆる三角関係になってしまったと。大田は親に頼み込んでお見合いをその女としたそうだ。大田は本家のお坊ちゃんだったからな。強制的にその三角関係に終止符を打ったと」


「ふん、ありきたりな小説みたいな話ですね。でも、あなたが巻き込まれて今話しているっていうことは、それで終わりじゃないんでしょう?」


「ああ。まあそうなんだけど、なんか嫌な信頼だな。この後もっと小説みたいなことが起きたよ。

 そのあと、当然だけど二人は疎遠になったらしい。気まずさで。それでこの間まで絶縁状態だったが、その女がすい臓がんであっけなく亡くなってしまった。俺たちと同い年だ。死ぬのにはまだ若いのに気の毒な話だ。それで、大田が森を一応付き合いがあったということで葬式に呼んだと。……俺が思うに、これが間違いだったと思うんだ」


「なるほど。続けてください」


「その後また復縁した。森はというと、大田に敗れてからずっと独り身で芸の道に突き進んでいた。それがどうだ。葬式の半年後くらいの話だ。『つま』が出来たと夕食に誘ったらしい。大田を」


 ケトルがシューシュー音を立てて沸騰を知らせた。少し集中して話を聞こうと、コンロの火を止め、ケトルを一旦鍋敷きの上に置く。


「へぇ。……妻、ねぇ」


「ところがどっこい、大田が森の家を訪ねたはいいが、『つま』と呼ぶような者は誰もいないんだ。ご丁寧に結婚祝いまで持っていったっていうのにな。あるのは奴が作っているらしいチャイナボーンだけ。森は器用な奴で料理も上手で、素敵な料理を作ってもてなしたんだ」


「いい話じゃないですか」


「うん。俺にも『最近の楽しみは〝つま〟と飯を食べることだ』って言っていたよ、あいつは。

昔から変な奴だったが、奥さんはいないと聞いていたからいよいよ頭がおかしくなったかと思っていた。そんなこんなしているうちに、まあ奥さんを亡くしたのがよっぽど堪えたのか、健康で病気知らずだった大田も風邪をこじらせて肺炎であっけなく死んだ」


「この歳で、ですか?……ご愁傷様です」


「あいつの親はすでに鬼籍に入っていたから、俺にお鉢が回ってきた。死ぬ前に「死んだ妻と同じ骨壺に入れてくれ」と俺に頼んできていた。同じ墓に入れるのは出来るが骨壺に一緒に入れるのはあんまり聞いたことがないと思いつつ、仕方ないから骨壺を開けようと動かしたら妙に軽かった。骨がなかったんだよ、中に。大田が妻の骨壺だといっていた仏壇に上げられていた壺と奥さんの葬式で見たものと違っていたし、大田もあれから精神にも来ていたから仕方ないと、忙しさでなあなあになってその場は終わりにしたよ。その後すぐ、森まで体調を崩したんだ。」


「はあ、仲が良いというか、なんというか。不謹慎ですが言いたくなります」


「そうだよな。三人仲良く彼女の後を追うように死んでった。それで森のやつは天涯孤独だったんだよ。一番仲が良かった大田は先に逝ってしまったし、本人の頼みもあって俺が喪主も遺品整理もしたんだ」


「立て続けになんて、大変でしたね」


「ああ、本当に大変だった。やつのまあまあ汚いアトリエと家を片付けしていたら、やけに大切にされた皿があったよ。立派な桐箱に入っていた。なんだ、箱入り娘っていうのかあれは。箱入りだけに?」


「ふっ」


「それくらいの他の作品と比べものにならないくらい大切にされていたんだ」


「高級な皿なら箱に入っていますよ。……箱入り娘ってなんですか」


「ひどいな、渾身のネタだよ。話を戻すが、遺言書にその桐箱に入った皿を棺に入れるか、俺と大田の骨壺に半分ずつ割り入れてくれって書いてあった」


「葬儀場によって変わるそうですが、一応棺に入れられるそうです」


「あ、うん。ありがとな。調べてくれて」


「あっさりしていますね。それが聞きたかったじゃなかったんですか?」


「ああ、悪い。この話を聞いて欲しくて電話したんだよ」


「はぁ、そんなところだと思いました。現在進行形の出来事なら忙しくて長電話なんて無理でしょうから、もう埋葬まで終わったんじゃないです?皿を入れられるかどうかも知っていた、と」


「そうだよ、その通りだよ。……悪かったって。それで、できれば割って半分ずつにしてくれと書いていたから割って入れたよ。とてもきれいな皿だったよ。チャイナボーンの皿って白くて美しいよな」


「そうですね。きめが細かく、つるんとしていて少し青白い」

 食器棚に置かれたお気に入りのカップとソーサーを眺める。


「そうなんだよ。力作も力作で、そこら辺の皿とは一線を画す作品。女の白肌のようなきめ細やかで、とても優美な皿だった。割るのは惜しいなと思ったが、遺言だ。飛び散ったら危ないし袋に入れて割ることにした。割る前に全体を眺めておこうと思って何気なく裏返してみたら森のサインじゃなくて、かの女の名前が彫られていたよ」




「その皿、題名もついていたんじゃないですか」




「『つま』だよ。



……死んだ人を悪く言うつもりはない。


もし、あの空だった骨壺に、本当に骨が入っていたのなら、大田の妻の骨を取っていったのは森じゃないかと俺は思うんだよ」




「馬鹿な」




「チャイナボーンってほら、今はどうだか知らないけれど、昔は牛の骨灰を使って焼くらしい。あんだけこだわって作っていたんだ、昔の技法でやっていたとしてもおかしくはないだろう。だからさ、『つま』っていうのは本当に大田の妻だったんじゃないかっていう話だよ。……分からんが」




「……憶測で物を語るのは、あなたの悪い癖です」





「ああ、そうだね。森の考えていることは、なんだかんだ長い付き合いだった俺でもよく分からない。ずっと飄々としていてよく分からなかったし、口を開いたら大田の話か陶芸の話しかしない。でも、これは俺の憶測で考えた皿の話は関係ないが、本当に心の底から大田と、それから彼女のことを愛していたんだと思う」


「……」


「大田も大田で、死ぬちょっと前くらいに見舞いに行った日に、あいつ俺を引き留めてなんて言ったと思う?


「森を、よろしく頼んだ」だよ。


……はぁ。とんでもない三角関係に巻き込まれたもんだ。

俺の身にもなって行動してくれよと思った」



「葬式続きですしね」



「本当だよ。遠縁の親戚と友人だから、手続きにかなり時間はかかるし。

ご祝儀貧乏だった15年前が懐かしいよ。


……今日は、大田たちの結婚記念日兼彼女の誕生日なんだ。気が向いたらでいいから、地元に戻ってくる予定があったら、あいつらの墓にも手を合わせてやってくれないか?」




「……まあいいですけど。後でお寺さんの名前を教えてください」


「もちろんだ。……ああ、すっきりした!

お、もうこんな時間か。また飲みに行こう。またな」




「そうですね。お元気で」




 すっかり暗くなったキッチンに、私は立ちすくんだまま大学時代のおぼろげな記憶の中の二人とかの女性に向けて静かに手を合わせる。


コーヒーを淹れようとして沸かして置いていたお湯は、鍋敷きの上ですでに冷えていた。

 

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