文化祭 打ち上げ③
お好み焼きを食べ終わって、外の風に当たりたくなって外に出た。
「んー……はぁ」
ぐっと伸びをして脱力する。
肌寒くなった夜風がお好み焼きを食べて少し熱くなった私の身体を冷ました。
「なにやってんの?」
「あ、唯くん」
お店の壁にもたれてボーっとしていると、ガラガラっと戸を開ける音と共に唯くんが現れた。
「どーしたの? 唯くんも夜風に当たりに来た感じ?」
「ん、まあそれもある。あとついでに絢さんの様子を見にきた」
「ついでなんかーい」
柔らかな声でツッコミを入れる私。
本当は様子を見にきたことが本命のくせに。
「で、夜風に当たって少しは気分転換にはなった?」
「なったよー。だから大丈夫大丈夫」
「ふーん。ならいいけど。ちなみに悩んでた理由とか聞いても?」
「本当に深刻な話じゃないんだけどね。ていうか、君が原因だし」
「は? 俺?」
予想外の答えだったのか、驚いたように自分のことを指さす唯くん。
「唯くんさ、私がミスコンに誘われたって聞いた時、自分が誘わなければーみたいなこと考えてたでしょ?」
「……まあ、少しはな」
「ほら、やっぱり。私本当に最初から出るつもりなんてなかったんだよー。それなのに唯くん気にするんだもん。そんな様子見ちゃったらさ、なんでこの人、そんなに気ぃ使いなんだろうなーって思っちゃうよ」
「なんかごめん。つい癖で」
「まあ、唯くんが生きてきた世界のことを知ったら、そりゃ気遣い人間になるよなーってわかるけどね」
自分に厳しく人に優しく。
唯くんはそんな人だ。
でも、あの公園で唯くんの正体を知ったあと少しの間は結構言動固めだった気がするけど。
「そういえばさ、唯くん、私と初めて会った時ってもっと言葉とか態度硬かったよね? 最近は凄く柔らかくなったけど」
「……そうだったかな?」
「そうだよ。内心ちょっとビクビクしてたんだから」
「その割にはグイグイきてた気はするけど?」
「そりゃこれ以上ないくらいのチャンスだったからね。物怖じしてらんなかったし」
正直あの時の私は相当厚かましくて失礼だった気がする。
逆の立場だったら、今の唯くんみたいにそんな相手にここまで親身になれるかと問われると肯定しづらい。
「でも、そんな絢さんだったから本気なんだって伝わってきたし、俺も力になろうって思えたんだと思うよ。正直最初は凄く気を張ってたし、それに厳しい態度で諦めさせられないかなとかもほんの少しは思ってたし」
「うわっ、ぶっちゃけたね」
「そんなこともぶっちゃけられるくらい、君のことを信用してるんだよ」
「……この誑しめ」
事もなげに私にとってのクリティカルを出してくる唯くん。
本当にこれでどれだけの共演者の心を奪ってきたんだろうか……。
多分私だけじゃなく、彼の観察力や地頭の良さで今までもなんとなく相手が求めてる言動をしてきたんだろう。
それが異性だけじゃなく同性相手でも、打算や下心なくやってのけるんだからたちが悪い。
今は前よりも仕事をセーブしているらしいけれど、それでも仕事が舞い込んできてるのは実力はもちろん、業界でも色んな人から好意を持たれてるんだろうなってことがわかる。
そもそも同じグループのメンバーの女装を生で見てみたいってだけで、忙しい仕事の合間を縫って見に来るのも相当メンバーに好かれてるんだろうなってわかった。
あと、普段唯くんがどういう場所に通っているのかっていうチェックもあったんじゃないかなって思う。
チラッとあの卓を見たけれど、値踏みするように教室の雰囲気を確認してたのは印象深い。
最初はなんだろうって不思議だったけど、正体を知った今、そういうことだったんだってわかる。
もし、唯くんにとってよくない場所だって判断された場合、それとなく事務所に報告していたんだろう。
どれだけ愛されてるんだろうな、この人は。
堕とされた私も人のことは言えないんだけど。
「身体も冷えてきたし、店内に戻ろうか。多分そろそろ解散するだろうし」
「ん、そうだね。あ、唯くん、帰り送ってよ」
「元々そのつもりだったけど? 打ち上げあるから学校に自転車置いてきたんでしょ?」
「あはは、気づいてたんだ」
「たまたまね」
こういうところもさぁ……。
本当にさぁ……。
私は赤くなった顔を誤魔化すように、頬を掻きながらそっぽを向く。
「あ、やっぱりもう少しだけ夜風に当たって戻るから、唯くん先に戻ってて」
「ん? わかった。じゃああんまり身体冷やさないようにな」
「うん、わかった」
唯くんが店内に戻り、私はまた店の壁に寄りかかって、手で顔を扇いだ。
顔の熱が引くのはもう少し掛かりそうだ。




