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体育祭 クラス対抗リレー

リレーって結構盛り上がりますよね

自分も選ばれた時は緊張しまくったけど、今となってはいい思い出です

 昼休みが終わり、午後のプログラムもつつが無く進行していた。

 騎馬戦もなんだかんだそこそこの結果で終わり、その後は応援団があったり、部活対抗リレーに出ていた佐藤を応援したりと体育祭を満喫していた。

 そして、ついにクラス対抗リレーが始まる。


「うっし、ラストの競技だし気合い入れようぜ!」


 四人で円陣を組み、佐藤が鼓舞する。

 俺含めたリレーメンバーもそれに続く。

 アンカーが佐藤で俺は3番手、1番手は陸上部、2番手は野球部のクラスメイトだ。

 正直、佐藤以外のメンバーとはそこまで交流がなかったので、どうなることかと思ったけれど、二人とも気のいい奴ですんなりと溶け込むことができた。


「そういえば、他のクラスのリレーメンバーってどんな感じなんだ? 俺帰宅部だからどのクラスが速いのかわかんないんだけど」

「ああ、そうか。白鳥は部活入ってなかったか。それなら3組と5組に足速いやついるな」


 俺が尋ねると、野球部のクラスメイトが答えてくれた。


「3組と5組ね」

「ていうか、全体的にクラス代表に選ばれてるってことは遅いやつはいないと思うぞ」

「だよね……。俺場違い感半端なくない?」

「帰宅部が入ってるのはうちのクラスくらいかもな。お前と風祭はなんで帰宅部なのにそんなに足速いんだ?」

「なんでって言われてもなぁ……」

「まあ何でもいいけど、ベストは尽くそうや」

「それはもちろん」


 野球部のクラスメイト、大塚くんは俺に向かって握り拳を突きつけてくる。

 俺も同じように拳を作ってグータッチをした。

 そして、各々がストレッチをしたり軽くジャンプをしながら身体を温めたりとウォーミングアップを始める。

 俺も足首を回したり、アキレス腱を伸ばしたり身体を温める。


「よし、じゃあ行ってくるわ」

「うん、頑張って」


 大塚くんはおうと返してスタート位置に向かった。

 反対側の佐藤と陸上部のクラスメイト、四谷くんも大塚くんに向かって声援を送っていた。

 スタートが始まる前の緊張感が漂う。

 俺も早くなる心臓を落ち着けるように胸に手を当てて数度深呼吸をした。

 そして遂にスタートの合図がグラウンドに響き渡った。

 6クラスの第1走者が一斉に走り出す。

 グングンと加速する6人。

 やはり代表に選ばれただけあってみんな速い。

 大塚くんは2番手の位置に着けていた。

 そして全員あまり差はないまま2番手の走者にバトンが渡る。


 次は俺の番か……。

 ライブの時並みに緊張してきた……。


 白熱する展開に周りのテントから大きな声援が響く。

 トップを走る青いハチマキの5組の男子に追いつかんとする勢いの四谷くん。

 そしてその四谷くんを追い掛ける白いハチマキの3組。


「よう、白鳥。次はお前に負けねーかんな」


 ふと声を掛けられた方を向くと、100メートル走で一緒に走ったサッカー部の男子がいた。


 ああ、この人5組だったのか。

 100メートル走でもギリギリだったのに、第2走者がトップを走ってるなら結構厳しいかも……。


「俺も負けないよ。お互い頑張ろう」

「おう!」


 そして俺とその男子、そして白いハチマキの男子が各々のレーンに立ち、バトンを待った。


「わりぃ! 頼んだ!」


 ギリギリ追い越せなかった四谷くんはそう言いながら俺にバトンを渡してくる。


「うん!」


 俺はバトンを受け取って加速する。

 青いハチマキを見据えながら、懸命に腕を振り、足を動かす。

 それでもなかなか差は縮まらない。

 それどころか後ろからもこっちを追い越そうとする圧を感じる。


 走れ走れ走れ!!!


 歯を食いしばり、到底アイドルがしていい表情じゃない顔で全力で走る。

 ほんの少しずつ差が縮まってきた。

 しかし、佐藤にバトンを渡すまで追い越せるかどうかはわからない。


 くっそ、追い越せねぇ……!


「唯くん、頑張れーーーー!!!!」


 周りの歓声で賑わう中でハッキリと絢さんの声が聞こえてきた。


 本当に声出るようになったじゃん。


 その声に背中を押され、今までより足が軽くなった……ような気がした。

 前との差は縮まって、とうとう前の男子と並ぶ。

 そのことに気づいた男子もスパートを掛ける。

 そして、ほぼ同時にアンカーへとバトンが渡った。


 あー、くっそ、追い越せなかった……!


 コースを出て、息を切らしながら悔しさで顔を歪ませる。


「お疲れ! めっちゃ頑張ってたな!」

「お、大塚くん……」


 大塚くんが俺の背中を叩きながらねぎらいの言葉を掛けてきた。


「あとは佐藤を信じようぜ!」

「……そうだね」


 息を整えてアンカーの佐藤を見る。

 佐藤は普段のおちゃらけたような表情は何処へやらと思えるくらいに必死な形相で5組のアンカーと競っていた。


「佐藤ーー! 頑張れーー!!」

「いけーーー!! 佐藤ーーーー!!」


 俺と大塚くんは声の限り佐藤に声援を送る。

 1組と5組のデッドヒートに周りも盛り上がり、声援が飛び交っていた。

 追い越そうとする佐藤と抜かせまいとスパートを掛ける5組のアンカー。

 そして決着の時を迎える。


「あーーーー!! くっそおおおおお!!!」


 佐藤よりもほんの少し早く5組のアンカーが先にゴールテープを切った。

 二人がゴールした後に続々と他のクラスのアンカーがゴールする。

 全力を出し切って、息を切らしながら悔しさで叫ぶ佐藤。

 佐藤の近くにいた四谷くんは佐藤の肩に手を置いて慰め、俺と大塚くんも佐藤のところへと向かった。


「お疲れ佐藤。惜しかったな」

「まじでギリギリだったし、誰もお前を責めねーよ」


 俺と大塚くんも佐藤に労いの言葉を掛ける。


「……ああ、サンキュ。でも……くっそ、まじで悔しい!」


 座り込んで自分の太腿を殴る佐藤。


 その気持ちは凄くわかる。

 だって俺もめちゃくちゃ悔しいから。

 今までまともに体育祭に参加したことのない俺が、初めてみんなと一緒に出られた体育祭だ。

 だからこそ勝ちたかった。

 最初は目立ちたくないなって思っていたけれど、まさかこんなに燃えるなんて思ってなかった。


「みんなー! お疲れー!」

「カッコよかったよー!」

「佐藤ーー! 落ち込むなー! ナイスファイトーー!!」


 テントからクラスメイトたちが俺たちに向かって温かい言葉を送ってくれる。


「ほら、胸張って帰ろう。俺らの仇は女子が取ってくれるさ」

「……そうだな。うっし、後は応援頑張るか!」


 佐藤は一度両手で自分の頬を叩いて気持ちを切り替えて立ち上がる。

 こうして俺の初めての体育祭は心地よい疲労感と少しの悔しさを抱えながら幕を閉じたのだった。

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