体育祭 お昼休み
近くの机を合わせて4人分のテーブルを作る。
俺と佐藤の隣の席のクラスメイトも各々の部室で食べるようで、先に断って使わせてもらった。
弁当の包みを解いて、手を合わせて食べ始める。
「こういう時の弁当ってなんかいつもよりも美味い気がするよな」
佐藤がからあげを摘みながら言う。
「あー、それわかる。私、コンビニのお弁当だけど普段より美味しいもん」
「まあ、1日中身体動かしたり声出したりしてるわけだからな。あとは雰囲気とか」
味は変わんないはずなのに、雰囲気や気持ちで普段より美味しく感じるんだから人間って不思議だ。
「和くんも絢ちゃんも白鳥くんも活躍してるもんね。身体がカロリー欲しちゃってるのかも」
「運動が苦手な香菜は置いておいて、確かに俺ら何だかんだ全員1着取ってんだよな」
佐藤も障害物競走で一着を取ってたっけ。
こいつが身体能力が高いのは知ってたし、さほど驚きもなかったけども。
「どうせなら出る競技全部で1着取りたいよね、ここまで来たら」
さらりと強気な発言をする絢さん。
「えーっと、残りって男子は団体競技の騎馬戦で私達女子は綱引きがあるんだっけ?」
「そうそう。そして最後にクラス対抗リレーだね」
「忘れてたかった……」
箸を置いてため息を吐く俺。
「なんでそんなに嫌そうなんだよ、唯。お前足めっちゃ速かったじゃねーか」
「あんまり目立ちたくないんだよ」
正直ちょっと手遅れな気はするけれども、できることなら目立つことは避けたい。
少しでもバレるリスクは減らしたいし。
「そもそも絢ちゃんと手を繋いでゴールしてたところで結構目立ってたけどな」
「えっ、なんで!? みんなあんな感じでやってたじゃん!」
俺よりも驚く絢さん。
あれはまあ目立つよな……。
特に絢さんは人気がある女の子だし、そんな子が地味な男子の手を引っ張ってたんだから。
「絢ちゃんって意外と自分のことに対しては鈍いところあるから」
「ちょっと香菜!? 別に私鈍くはないもん!」
「いや、鈍いのはわかるわ」
「唯くんまで!?」
絢さんはううーと不満そうな顔をする。
「で、でもさ、唯くんだって鈍いところあるもん! 人のこと言えないもん!」
彼女は反撃というように俺を指差してそんなことを言ってくる。
「は? 俺?」
「そう! 唯くんも鈍いところあるよ!」
「いやいや、俺は結構自己評価とかきちんと把握してるほうだろ」
「いや、唯も鈍い」
「佐藤……。何を以ってそう言われるのかわかんないんだけど」
絢さんに同意するように頷く佐藤に非難の視線を向ける。
「唯って人の機微には鋭いし、結構人のことを見てるけど、変なところで鈍いところあるよ」
「うん、私も和くんに同意……かな」
「神崎さんまで……。じゃあ例えばどんなところが鈍いんだよ」
「それは……」
俺が尋ねると、ちらりと絢さんのほうに視線を向ける佐藤。
俺も佐藤に続いて絢さんのほうを見ると、絢さんは顔を真っ赤にしてぶんぶんと顔を振っている。
それを見て苦笑する佐藤と神崎さん。
俺は何がなんだかわからずに首を捻るしかなかった。
「まあその内わかるさ」
「なんか釈然としないんだけど」
詰めたところで話さないんだろうなと思ったので、俺もこれ以上追求することはしなかった。
「てか、唯、騎馬戦お前騎手だしどっちみち目立つんじゃね?」
「あー、そうだった……。忘れてた」
クラスメイトと組む騎馬戦。
俺は騎手を務めることになっていた。
その理由は一番軽そうだっていうことらしいが……。
「ぶっちゃけ人選ミスったよな。お前その見た目で意外と重いのは詐欺だろ」
「うっせ……。馬やるって言ったのにお前らが満場一致で騎手にしたのが悪いだろ」
俺は結構鍛えてるからそこそこ筋肉で体重はあるほうだ。
でも、見た目は地味で細めだし、軽そうだと思われるのは仕方ないことだけれど。
「唯くん、意外と筋肉ついてるもんね」
「そうなんだよなー。なんで運動部でもないのにそんなに身体作ってるんだよ」
「運動不足にならないために軽く筋トレはしてるからな」
嘘は言ってない。
ただ少しだけ控えめに言っただけ。
「それはいい心掛けだけど、普通にアスリートの体型してんだよな」
「お前に比べれば大したことはないよ」
「そりゃ帰宅部と唯とがっつりサッカー部で鍛えてる俺が負けたら俺の立つ瀬がねーよ」
苦笑いしながら突っ込む佐藤。
それから俺たちは弁当を平らげて、時間までのんびりと駄弁っているのだった。




