レコーディング帰り 龍と優斗は
今回は龍と優斗のメインです
「なあ、優斗」
「なに?」
レコーディングが終わって雪月花のメンバーで晩飯を食ったあと、家が離れてる雪と店前で別れて、俺と優斗はタクシーに乗って家路に着いていた。
近くのマンションに住んでいる優斗とは何度もこうして相乗りして、現場や事務所から帰っている。
ちょっと優斗と話したいことがあったので、マンションから少し離れた場所でタクシーを降りて、優斗と二人ゆっくりと歩く。
「なんか雪、前までとちょっと変わったよな」
「ん、言いたいことはなんとなくわかる」
今日のレコーディングで雪の歌を聴いて、優斗も俺と同じ考えに行き着いていたようだ。
あいつは俺等よりも何倍も芸歴が長くて、歳上の俺なんかよりも達観していて落ち着いている。
そして芝居の実力は俺なんかと比べ物にならないくらいだし、歌だって曲をリリースするごとに毎回上手くなっている。
あいつはよく俺らのことを凄いと尊敬の言葉を述べてくれるが、それはこっちのセリフだ。
どんな仕事でも貪欲に何かを吸収しようとする姿勢、コツコツと積み重ねている途方もない努力、欠かさない周りへの気遣い。
この業界で長く活躍していて天狗になってもおかしくないはずなのに、驕る様子が微塵もなく、ずっと精進の身と言わんばかりに謙虚な人間性も尊敬している。
だから今回のレコーディングも前よりも上手くなってるんだろうなと信頼していたけれど、想定していたのとは少し違っていた。
「雪、なんか表現力が増したっていうか、説得力が出てたよな」
「うん。今までも歌の技術はあったし、表現力もなかったわけじゃないけど……」
「どっちかっていうと技術で感情を作ってた感じしてたけど、今日は心からの感情を歌に乗せてた」
「雪くんに何があったんだろうね……」
あいつは元々子役で、雪月花を結成してからも舞台や映像作品メインの活動をしてた。
だからその応用で感情を作って歌に乗せていたけれど、今日のあいつの歌は技術で作った感情ではなく、心からの気持ちだと伝わってきた。
「今回の曲、僕がメインだけど、もしかしたら雪くんに食べられちゃったかもしれないなー」
「そう言いながら優斗、お前なんか嬉しそうだな」
「んー、悔しいなとは思うよ。でも、それ以上に楽しいんだ。僕よりも凄い人が近くにいるのがさ」
ウキウキした様子で上機嫌にそう答える優斗。
なんでもすぐに吸収し、頭も良く、天才という言葉は優斗のためにあると思えてしまうほどの才能の持ち主。
しかし、それ故に飽き性、そして人とのコミュニケーションがあまり得意ではなく、このグループを結成した時も苦労したものだ。
歌もダンスも芝居も、一度お手本を見聞きしてしまえばほぼ完璧にトレースしてしまう優斗は、最初は芸能活動もやる気はなく適当に熟していた。
けれど、雪の芝居や熱量を目の当たりにし、雪のことを認めて慕うようになった。
あと、何故か俺にも懐いてくれている。
まあ、しつこく俺が構い倒していたからだろう。
「俺だって次は負けねぇようにまた鍛え直すわ。雪ばっかり見てると、次は俺に喰われちまうぞ優斗」
「やれるものならどうぞ。そうなったら龍くんも雪くんと一緒にまとめて僕が食べちゃうから」
俺がわざとらしく挑発すると、優斗は不敵な笑みを浮かべながらそう返してくる。
やっぱこのグループはおもしれぇ。
雪も優斗も目を離した隙に別人のような成長しやがる。
そんな二人に負けねえ為に、俺のトレーニングにも熱が入るってもんだ。
一人だけダセェやつがいるなんて思われたくねぇからな。
「おう、期待してるぜ天才」
「思う存分期待しててよリーダー」
そんな臭いやり取りに二人吹き出してしまう。
一応周りに響き渡らないように、笑いを噛み殺しながら。
「うっし、帰ったら筋トレすっかな。身体が疼いて仕方ねぇ……。優斗もどうだ? たまには一緒しねぇか?」
「えー、嫌だ。龍くん、筋トレ中暑苦しいんだもん」
「筋トレしてたら熱くなるのはしゃーねぇだろうが」
「まあ、気が向いたらね。じゃあ、僕こっちだから」
「おう! いつでも歓迎するぜ! じゃあな!」
優斗は手をふらふらーっとさせながら俺に背を向ける。
そんな優斗の姿を見送り、俺も自分の家への道を歩いていくのだった。




