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実写映画の撮影 叶の過去

遅くなりましたぁ!!!

 お昼の繁華街でのシーンが全て撮り終わり、夕方に撮影するロケ地までロケバスで行き、日が傾くまで演者は休憩となった。

 スタッフは撮影の準備やら打ち合わせやら忙しそうだが。


「お疲れ様です。福岡での最後の撮影ですね。あ、隣いいですか?」

「……叶さん、どうぞ。まあ、スムーズに撮れれば……ですけど」

「雪宮さんとハジメくんのシーンですし、一発オーケー間違いなしですよ!」


 ロケバスでゆっくりしていると、叶さんが外から戻ってきて俺の隣に座った。

 そう、残りは俺とハジメくんの喧嘩のシーン。

 そして俺がアヤメへの気持ちをハッキリと自覚、吐露する重要なシーンだ。

 これを夕方から夜に掛けて何回かに分けて撮影する。

 殴り合いになるのでその都度怪我のメイクを追加しながらになるので、なかなかに大変だ。

 でも、叶さんの言う通り、俺はともかくハジメくんなら上手く熟してくれると思う。

 俺も気を引き締めないとな。


「そういえば、さっきの喫茶店に入る撮影の時、知ってる人が野次馬の中にいたんですよね」

「え、それは凄い偶然ですね……」

「まあ、私が一方的に知ってるだけなんですけど。ただ、その子がああいうところにいるのが気になっちゃって」

「あんまり映画の撮影とか芸能人に興味がない人なんですか?」

「えっと、私が中学の時にバスケやってたって初めて会った時に話したじゃないですか。その子は全国大会の一回戦の対戦相手の一年生エースだったんです。だから今頃高校の部活で忙しいはずと思って……」

「高校では部活辞めちゃったんじゃないですか?」

「そんなはずないです! 一年なのにそのチームの誰よりもテクニックもスピードも視野の広さもあって、そして凄くバスケを楽しそうにやってた子なんです! だから、バスケを辞めるなんて考えられません……」


 そう熱弁する叶さん。

 彼女のそんな姿を初めて見たので、相当思い入れのある人なんだろうなと伝わってくる。


「なるほど。じゃあオフの日とかなんじゃないですか? そしてたまたま撮影現場を見掛けて覗いてみたとか」

「そうなんですかね……。でもたまたま見たにしては撮影を見る視線が凄く真剣だったような気がして……」


 映像作品の撮影現場が珍しいからとか、芸能人がいたからとかの興味本位の視線じゃなくて、視線の先の相手にすら伝わるような真剣さか。

 なんか引っ掛かるな……。


「うーん、それは気になりますね。俺も喫茶店内から外見てたから野次馬も見えてたんですけど、何か目立つような人でした? 身長が高いとか」

「身長は特別高いわけじゃないですね。あ、でもスタイルはよかったし、見た目もすっごく可愛い子です! 芸能界でも通用しそうなくらいの!」

「へえ、そんな人がいたんですね……。でもそういう感じの子いたかなぁ……」


 俺は記憶を遡っていく。

 一応絢さんはいたけれど、絢さん以外に目を引くような容姿をした子は記憶に残っていない。


 ん、バスケ……真剣な視線……目立つ容姿……年齢差……。

 あれ? これもしかして……。


「あの、亜麻色の髪をして前列にいた可愛い女の子です!」


 あ、これはもう確定だ……。


「あー、はいはい。思い出しました。いましたね」

「凄く可愛い子じゃないですか!? 私の推しなんです!」

「推しって、一般の人なのに……」

「芸能人とか一般人とか関係ないです! あんなに可愛くてあんなにバスケ上手くてチームを引っ張れるカリスマ性もある。2歳も歳下なのに、才能やスキルの差に絶望するどころか憧れてしまうくらいに凄い子なんです! ああいう子がバスケでもっと上にいけるんだなって思ったから、私は未練なくバスケを辞めて、新しい世界に飛び込むことができました。私の人生を変えてしまった子なんですから、推しになるのは当然です!」


 絢さんの存在が叶さんに相当な影響を与えたことをこれでもかというくらいに思い知らされる。


 もし絢さんが俺のクラスメイトでバスケを辞めたことを知ったらどう思うだろうか……。

 これは黙っておいたほうがいいのかも知れないな……。


「そうなんですね。じゃあその子に感謝だ。その子がいなかったら叶さんとこの作品を作ることができなかったし、こうやって刺激を貰えることもなかったと思いますから」

「そ、そう言ってもらえるのは恐縮です……。私も雪宮さんに凄く刺激をもらっているので……」


 叶さんは照れくさそうに頬を染めながら俯く。


「ん、なんの話してるんすか」

「あ、ハジメくん」


 そんな叶さんを微笑ましく見ていると、前からロケバスに乗ってきたハジメくんが話しかけてきた。


「ああ、叶さんの知ってる人が昼の撮影を見てたらしくて」

「へぇ、そうなんすね! 都内ならわかるっすけど、地方のロケでそれは凄い偶然じゃないっすか!」


 それは本当にそうだ。

 絢さんが福岡出身で帰省していなければ、そしてこのロケが福岡じゃなければ、その出会いはなかったはずだ。

 まるで運命のような偶然……。


「あはは。だからちょっとお昼の撮影は気合い入っちゃいました」

「知り合いが観てるとテンション上がるっすよね! 俺も彼女や友達が舞台観に来てくれる時はめっちゃ気合い入るっすもん!」

「俺はそういう人いないからわからないなぁ……」


 厳密に言えば今日が初めてその状態になったんだけど、どっちかというと気恥ずかしさのほうが勝ってしまった。

 だから余計なことは言わないでおこう……。


「ていうか、唯くん! 次のシーン、ようやくサシでがっつり掛け合いできるっすね! 大体桜ちゃんと三人でとか、一言二言くらいの掛け合いだったんで、めっちゃ楽しみっす!」

「それはそうですね。しかもそのシーンが喧嘩なのがまた……」


 そう、ヤマトとタケルはそもそも仲が良いわけじゃなく、カナがいるから繋がっている関係性だ。

 そしてこのシーンでようやくヤマトとタケルが本物の友達となる。

 そうなるためにはお互いが本気で熱量をぶつけ合わなくてはならない。

 俺がハジメくんの熱に負けてしまったら、そのシーンは破綻してしまう。

 逆もまた然り。


「俺、本気で行くっす。だから唯くんもガチで来てください!」

「ええ、俺もハジメくんに負けないくらいぶつかっていくんでよろしくお願いします」


 俺とハジメくんはガッチリと握手をする。

 そしてそれから時間まで3人での話を続けるのだった。

次は唯とハジメのシーン

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