実写映画の撮影 最終日の午前
実写映画編、思った5倍長くなってる……
まずは朝のシーンを撮影するロケ地へと向かう。
朝早いこの時間、人は少なくスムーズに撮影の準備が進む。
ロケバスで制服に着替え、まずは朝の登校シーンの撮影。
数十メートルを歩くだけ。
シーンによっては叶さんが話しかけてきたりもするので、それを纏めて撮る。
スムーズにシーンは撮り終わり、撤収作業を済ませてロケバスで別のロケ地へと向かう。
今日のロケ地は全部そんなに距離は離れてないのですぐにロケ地に到着し、テンポよく撮影を始める。
そして時間は過ぎていき、お昼の繁華街での撮影が始まった。
どこから情報が漏れたのか、既に野次馬で溢れており、そのせいか少し撮影が遅れそうだ。
休日に偶然にアヤメとお昼を食べるために寄った喫茶店で出会い、成り行きで一緒に食事と買い物をするシーンの撮影。
なので俺は先に撮影で使う喫茶店に入りスタンバイする。
その前に叶さんが喫茶店に入るまでのシーンの撮影が入るので、それまで窓際の席でゆっくりしながら撮影を眺めることにしよう。
ロケバスも乗り心地いいわけじゃないから、なんか凄くリラックスできるなぁ……。
叶さん、頑張れー。
座り心地のいい椅子の背もたれに寄りかかりながらだらーっと脱力しながらガラス越しに外を見る。
そういえば絢さん、今日は見にくるって言ってたけど野次馬の中にいるかなー。
スタッフによって撮影の邪魔にならないように整理されている野次馬に目を向ける。
その中で見知った姿を探してみると……。
「あ、見つけた」
野次馬の群れの前の方に亜麻色の髪の見慣れた女の子が、じーっと真剣に撮影の様子を眺めている姿があった。
相変わらず真面目だなぁ。
その姿に微笑ましさを感じつつ、親しい友達が撮影風景を見ていることに不思議な感覚を覚える。
東京でロケをしている時にもしかしたら小学校中学校のクラスメイトが見ていたことがあったかもしれないけれど、特別仲が良いわけでもなかったし、そもそも意識すらしていなかった。
だからこんな気分になるのは初めてだ。
まあ、撮影に入ったら全部意識の外に放り出すんだけど。
意識の切り替えは、この長い芸能生活のなかで身体に身についている。
というか、身に付けないとやっていけない。
長いバラエティの収録でテープチェンジの間の休憩があるけれど、ずっとスイッチが入った状態だとその後の撮影にも影響が出るし、オフにしたスイッチを入れられないまま撮影してしまうとバッサリカットされたり、他の演者にも迷惑を掛けてしまう。
この業界ではスタッフや共演者とのコミュニケーションや印象が一番大事だ。
そこで悪い印象を与えてしまうと簡単に干されてしまう。
そういう世界で10年以上生きてきたのだから。
「雪宮さん、リハ始めます」
「はい、わかりました。よろしくお願いします」
叶さんのソロのシーンの撮影が終わり、喫茶店のシーンに移る。
俺がサンドイッチと飲み物を注文して待っていると、アヤメが入店してきて俺の姿を見つけ、しれっと同席する。
そこから品物を持ってきた店員に注文して雑談に入るまでが一連の流れだ。
よし、意識を切り替えるか。
一度深呼吸をして意識を切り替え、リハに臨んだ。
リハも順調に熟し、本番へと移る。
そして本番の撮影のカチンコが鳴った。
「いらっしゃいませー」
店員役のエキストラの声が店内に響く。
ふと入口の方を見ると、アヤメと目が合ってしまった。
「あ、待ち合わせしてるので」
そう店員に言って俺の席まで来るカナ。
は? 待ち合わせ?
「ヤマトー、偶然だね! ということで失礼しまーす」
「おい、他にも席空いてるだろ」
「まあまあ、友達だしいいじゃん! それにもう待ち合わせって言っちゃったし」
「強引すぎんだろ……」
俺はテーブルに肘をつきながら思いっきり迷惑そうにため息吐く。
「お待たせしました。アイスコーヒーとサンドイッチです」
店員が注文した品物を運んで、俺の前に置いた。
「あ、店員さん、注文いいですかー?」
「はい、承ります」
「この人と同じサンドイッチとアイスティーのレモンお願いします!」
「畏まりました。ミックスサンドとアイスティーのレモンですね」
「はーい! お願いしまーす!」
店員さんは伝票を持って、一礼して去っていく。
「で、ヤマトはなんでここいるの?」
「あ、さっさと出てけって言ってる?」
「え、あ、いや違う違う! 私よくここに来るけど、初めて会ったから珍しいなーって思っただけ! むしろ嬉しいんだから!」
「……声でけぇよ……。別に気まぐれ」
「ふーん。何か用事でもあったの?」
「用事っつーか買い物」
「そうなんだ! 私今日暇なんだよねー」
「……だから?」
「暇だからヤマトに付き合うね!」
唐突にそんなことを言ってくるカナ。
俺はその発言に思考が停止してしまう。
「は?」
「うん、だから今日はヤマトの買い物に付き合うねって。デートしよう、デート!」
「いや、だからなんでだよ。そのまま飯食ったらさようならでいいじゃねぇか」
「そんなのつまんないじゃん! せっかくヤマトと会えたんだし、もっと一緒にいたいもん!」
「……はぁ。一緒に来てつまらなくても文句言うなよ」
とてつもない好意を伝えてくるアヤメに俺は根負けして、もう一度ため息をついて降参の両手を上げる。
それを見たアヤメは満面の笑みを浮かべて「うん! ありがとう!」と言ってきた。
そしてカットの声が入りシーンが終わる。
チェックの間にスタッフさんが持ってきた水を貰って喉を潤した。
「ふぅ……」
叶さんが水を飲み、一息ついていた。
「お疲れ様です。叶さん、今日出ずっぱりで疲れてないですか?」
「肉体的には全然ですけど、精神的にはもうすっごく疲れてます。3日間ずっと撮影しっぱなしですし」
「あはは、ですよね。でも結構慣れてきたんじゃないですか?」
「初日よりは慣れてきましたけど、それでもずっと緊張しっぱなしです」
「確かに撮影の緊張っていつまで経っても慣れませんよね」
「雪宮さんでもそうなんですか?」
「そりゃそうですよ。撮影してる時は集中してるからそうでもないですけど、カチンコ鳴る前は緊張しますね」
撮影のカチンコが鳴る前、舞台の幕が上がる前、ライブで奈落から上がってきたり、袖から出る前、未だに心臓の鼓動は早くなり、落ち着かなくなる。
多分これは一生治らないものだ。
だから俺は本番前に深呼吸をして脱力をする。
じゃないと身体が固まってしまうから。
「凄く意外です……。今回の撮影でも落ち着いてたし、周りにも気を使ってたのを見てたから、てっきり全然緊張しないものかと……」
「そう振る舞ってるだけですよ。表に出しちゃうと他の人にも伝染しちゃうかもしれないので」
「なるほど、それは確かに……。でもまだ私にはできそうにないです」
「まあそこはおいおいで。あ、そろそろチェック終わるんじゃないですか?」
俺は水をスタッフさんに渡し、監督のほうに視線を向ける。
そして監督からのオーケーを確認し、次のシーンの準備に備えるのだった。
次は久々のハジメくん登場……のはず




