実写映画の撮影 乱される心
方言に関してはちょっとあやふやかもしれません
地元にいると喋れるけど、書くとなったらちょっと自信ないので……
翌日、私は遅い時間に起床した。
「うわっ、目元腫れてる……」
顔を洗いに洗面所へ行き鏡を見ると、目元が真っ赤に腫れていて人前に出られないような顔をしていた。
水を出して目元を冷やすように手で水をかける。
それも焼け石に水なんだろうけど。
今日は家出られないなぁ……。
どっちみち今日は外出しないつもりだったけどさぁ。
顔を洗って歯磨きしてからリビングへ向かうと、お母さんがキッチンで洗い物をしていた。
「おはよー」
「おはよう。絢、あんたどがんしたとねその目」
「あー、夜映画観とって泣いちゃって」
「なんね、そがんよか映画だったとね。でも、ちゃんと冷やしとかんといかんばい」
「はーい。お母さん、ご飯はー?」
「あと少ししたらお昼ごはん作るけん、それまで我慢しときなさい」
ソファーに座ってお母さんと会話する。
案の定目の腫れをお母さんに指摘されて誤魔化した。
元々、映画やドラマ、アニメで思いっきり泣いて目が腫れることはあったし、すぐに納得してくれた。
リビングのテレビを点けて、ぼーっと流れる情報番組を見る。
内容は全然入ってこないけれど。
今頃唯くん、撮影してるんだろうなー。
昨日みたいに息をするように凄い演技をして、周り魅了して……。
また昨日みた光景が浮かんでくる。
簡単で普通のシーンに見えても、それを雪宮唯としてじゃなくて、ちゃんと役としてそう見せるのはいったいどれだけの技術を擁しているんだろうか。
少し演技を齧った程度の私でもそう思ってしまうのだから、もっと深く演技に親しんできた人たちはどう思ってしまうんだろう。
多分、私が気づいていないような細かい技術も感じとってるはずだ。
それを私はわからない。
そのことが凄く悔しくて仕方がない。
「絢ー、暇してるなら今のうちに宿題ばしとかんねー」
洗い物が終わったであろうお母さんが、キッチンで手を拭きながらそう言ってくる。
あー、宿題……。
なんか勉強する気起きないけど、気分転換にはいいのかなー。
「はーい。あ、お母さん、ジュースあるー?」
「冷蔵庫ん中に入っとるやろー?」
ソファーから立ち上がって冷蔵庫の中を見る。
「お母さーん。ジュースなかよー」
「あらそうね。じゃああんた買ってきてくれんね?」
「えー、私今日家出たくなーい」
「そがんこと言わんと。あんた暇しとっとやろ。近場のコンビニでよかけん。ほら、お金」
お母さんは1000円を私に渡してくる。
これはもう強制だ……。
まあ、私も飲むし仕方ないか。
私はお母さんからの1000円を受け取って、部屋で着替えて家を出る。
「うっわ、あっついなぁ」
涼しかった家を出ると日差しが肌を焼いてくる。
昨日はまだ気温が上がりきってない時間に家を出たし、夕方まで店の中にいたからそこまでキツくなかったけれど。
しかも朝ごはん食べてないし。
自転車のスタンドを倒して漕ぎ始める。
一応歩いていけなくもない距離だけれど、重いジュースを持って帰りたくはない。
ゆっくりと自転車を漕いで数分で目的地のコンビニに辿り着く。
コンビニに入るとクーラーの冷気が身体を冷ましてくれた。
雑誌コーナーの前を通ると、そこで一冊の雑誌の表紙が目に飛び込んできた。
「唯くんだ……」
その雑誌の表紙は雪宮唯が単独で写っているものだ。
雑誌を手に取って捲ってみると唯くんのインタビューが載っている。
雪月花のことや新曲のこと、そしてお芝居に関すること。
どれもしっかりと自分の考えを持ってインタビューに答えているのを感じさせる内容だった。
「本当に凄いな唯くんは……」
同い年で友達のはずなのに私なんかと全然違う。
夢のためもあるけれど、地元から逃げた私と、自分の責任も全うして自分の願いを叶えている彼。
そんな人の時間を私が奪ってしまっている。
あ、駄目だ。
また泣きそう……。
私は雑誌を戻して、目当てのパックのミルクティとオレンジジュースを買って店を出る。
店員さんに顔が見られないように顔を俯けて。
レジ袋を自転車の籠に乗せて自転車を漕ぎ始める。
人に今の表情を見られたくなくて、行きよりも早く自転車を走らせた。
家に着いて目元を拭う。
こんな顔をお母さんに見られたくないから。
「ただいまー」
「おかえりー!」
お母さんは洗面所にいるようで、私はお母さんと顔を合わせる前にマグカップにミルクティを注いで、買ってきたものを冷蔵庫に入れて自室へと向かった。
机にマグカップを置き、クーラーを点けてベッドに倒れ込む。
「気分転換のつもりだったのになぁ……」
うつ伏せのままそう言葉を溢す。
寝て少しは晴れた気分は、またどん底に叩き落された。
別に唯くんが悪いわけじゃない。
私の勝手な自己嫌悪のせいだ。
こんな状態で勉強なんてできないよ……。
悔しくて悲しくて情けなくてどうしようもない。
長くやっていたプロと駆け出しの自分を比べるなんて烏滸がましいにも程があるのに。
「ダサいなぁ私。本当にダサすぎ」
ただ見学しただけでこんなにショックを受けるなら、もし自分が彼と演じる側になったらどうなってしまうのだろう。
ていうか、そもそもそんなビジョンすら思い浮かべられない。
それほど遠くに彼はいる。
そんな人が私の元まで降りてきて色んなことを教えてくれることに申し訳なさを感じてしまう。
「でも、それでも、唯くんを手放したくない」
唯くんといる時間は心地良い。
自然体の私でいられる。
私に親身になって、色んなことを惜しみなく教えてくれる。
そんな時間を自分で手放すなんて馬鹿なことはしたくない。
彼にとっては実りのない無駄な時間かもしれないけれど、友達としても先生としても彼のことが大好きだから。
「あー、もう! 落ち込んでる暇あるならやれることやれ、私!!」
ガバっと起き上がって顔を両手でパンパンと叩く。
「よし、とりあえず課題終わらせよう」
さっきまで勉強する気起きないと思っていたけれど、このままグダグダと腐っているよりはマシだ。
私は持ってきていた課題をキャリーケースから取り出して勉強机に座る。
そしてお母さんからお昼ご飯の用意ができたと声を掛けられるまで課題に取り組むのだった。
次は主人公視点に戻ります
たぶん




