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実写映画の撮影 自主練

2回に分けようかと思いましたが、少なすぎて1ページに纏めました

 地面にへたり込む絢さんに近くの自販機で買ったミネラルウォーターを手渡す。

 それを受け取り、勢いよく飲み始める絢さん。


「ん、ん、ん、っぷはぁ……。あー、生き返るー!」

「休憩なしでずっとやってたもんな。お疲れ様」

「体力もそうだし、頭がもう……。フラフラする」

「そりゃずっと頭働かせてたからな。あと酸素も足りてないんじゃないか? ずっと喋りっぱなしだったし」


 ずっとシチュエーションを想像しながら芝居してたんだ。

 しかもこれが初めてなら尚更疲れるだろう。


「でも、すっごく楽しかった! こんなに思いっきり演技したの初めて!」

「夏が終わったら今やってる基礎は自主練でやってもらって芝居の割合増やすから、その楽しい気持ちは忘れないようにね」

「はーいせんせー!」


 何個かの設定で演じてもらって、この子は感情演技のほうが得意なんだということがわかった。

 特に自分の中で感情を作ることにセンスを感じる。

 あとはそれを表現できる技術が身について、さらに自分の中の感情を膨らませることができたら、売れるかどうかは別として充分役者としてはやれるんじゃないかと思う。

 もしちゃんとこのまま成長していけたら、俺から事務所に話を通してもいいかもしれない。

 まあ、そのレベルまで行くにはいつになるのかはわからないけれど……。


「とりあえず、今日はここまでにしようか。流石にもう時間だし、これ以上は頭も喉も限界だろうし」

「うん、もうこれ以上は無理……。死んじゃう……」

「じゃあ汗拭いて帰り支度しようか」


 とは言っても俺はタオルとスマホ以外何も持ってきてないし、絢さんも持っていたノート等をリュックに仕舞うだけなんだけど。

 絢さんはリュックに物を仕舞って立ち上がる。


「よーし、帰ろっか」

「……あのさ」

「うん?」

「絢さんは叶桜ってタレント知ってる?」


 俺は昨日知った女性のことを絢さんに尋ねてみる。

 モデルをやっていた子だし、それなら同年代の女子なら何かしら情報を知っているだろうと思ったからだ。


「あー、叶ちゃんかー。ファッション誌に載ってるの見たことあるし、普通に好きなモデルさんだよ。めっちゃ可愛いよねー」

「女子に人気なのか?」

「そうだね。同年代の子は彼女のファッション真似したり、SNSでも結構フォロワーいるよ。ほら」


 そう言って絢さんはスマホを操作して叶桜のSNSのアカウントを見せてくる。


 なるほど……。

 結構有名人なのか。

 同じ役者や歌手ならアンテナを張ってるけど、流石に女性モデルまでは手が回らなかった。


「でもいきなり叶ちゃんのことを聞いたりしてどうしたの? あ、まさかこういう子がタイプなの!?」

「あー、いやそうじゃなくて、仕事関係でちょっとな」

「あ、そういうこと。でも男の子ならこういう子が好きなんじゃない?」


 確かに黒髪ロングで綺麗さと可愛さを併せ持つ清楚系な顔立ち。

 こういう子が人気が出るだろうなというのは理解できる。


「それは人それぞれだろ。まあ、男ウケは良さそうだとは思うけど」

「じゃあ唯くんも……」

「俺は違う。そもそも会ったことのない人間を好きになりようがないだろ」

「ふーん。じゃあ唯くんはどういう子が好みなの?」


 そう言いながら絢さんは俺の顔を覗き込んでくる。


 俺の好みか……。

 そもそも初恋すらまだだしなぁ……。

 でも強いて言うなら……。


「何事にも一生懸命な子は魅力的だと思うよ。どれだけ可愛くても綺麗でも内面が伴ってないと無理だな」

「なるほどなるほど……。でも、確かに内面って大事だよね。結局お付き合いするなら性格が合わないと長続きしないだろうし」

「だろ?」


 美人は三日で飽きるなんて言葉もあるくらいだし、見た目だけで選んでも長く続くのは一握りだと思う。

 芸能人同士の結婚でも、ルックスだけじゃなく共演して深く接した結果惹かれたってことが多いし。

 まあそれでも別れる人も多いけれど。


「逆にさ、絢さんはどんな人が好みなの? 俺だけが暴露するのは不公平じゃない?」

「えー、私ぃ? うーん、そう言われると難しいな……」

「じゃあ漫画とかでこういうキャラ好きになるとかは?」

「そうだなぁ……。あ、ヒロインのことを支えてくれるキャラは好きになりがちだなー。落ち込んだ時に優しさで包んでくれたり励ましてくれたり、その子の夢を応援してくれたりするキャラ! まあ、大体負けヒロインならぬ負けヒーローになりがちなんだけど」


 今度俺が出演する作品だと、俺のライバル役みたいなキャラか……。

 俺の役はどっちかっていうと主人公に支えられるキャラだしな。


「なるほど。確かにそういうキャラは魅力的だよな。読者からすると、絶対こっちとくっついたほうが幸せになれるのにと思うくらいには」

「そうそう! でも女の子だって追い掛けられるよりも追いかけたいって子が多いのかもね。男の子だって高嶺の花に憧れたりするでしょ?」

「あー、まあ確かに……。でも憧れは憧れでしかないし、身近にある小さな花を大切に愛でるほうが幸せになれると思うけどな」

「おお、ポエミーだ」

「……忘れろ。変なこと言った」

「えへへ、やーだよー」


 そう言って絢さんは逃げるように駆け出していく。

 そして公園を出る前にくるりと振り向いて「じゃあね! ミスターポエムー!」と叫んで帰っていった。


 あんにゃろ……。


 俺は赤くなった顔を手で抑えながら熱が引くまで立ち竦むのだった。



 あれから少しして家に帰りシャワーを浴びたり、朝食を食べたりして時間を潰し、スポーツショップへと向かう。

 そこで安いサッカーボールとトレーニングシューズを買って河川敷へと向かった。

 最初は朝の公園でやろうと思ったけれど、あそこはボール遊び禁止だったので、付近である程度の広さとサッカーボールを蹴っても問題ないところを探すと河川敷しかなかったのだ。


「よし、やるか……」


 リュックを置いてスニーカーからトレーニングシューズへと履き替える。

 そして足でサッカーボールを掬い上げた。


「よっ、とっ、ふっ……あっ」


 数回ボールを蹴ってリフティングを試みたけれど、10回以上続かない。

 それに体幹もブレブレだ。


 サッカー観るのは好きなんだけど、自分でやるのは本当に違うんだな。

 すげぇわ、プロって……。

 佐藤に教えてもらうのが一番手っ取り早いかもしれないけど、事情を説明するのも面倒だしな……。


 一度リフティングを止めてスマホを操作する。

 動画サイトを開いて、リフティングの動画を検索した。


「リフティングコツは……あ、これとかいいかも」


 俺は目に止まった動画をタップして再生する。


「……なるほど、蹴るイメージじゃなくて当てるイメージなんだな。そしてボールの中心を捉える……。ポンポンポンっていうかトットットって感じか」


 動画を停止してスマホをリュックの近くに置いてもう一度リフティングを始めた。


 中心を捉えて当てる……。

 バランスは手でとって……あ、右足だけだときっついな……。

 リズムよく……あ、10回いけた!


 ちょうど10回目でボールが転がっていく。


「ふう……。結構神経使うなぁ……。でも、なんとなくコツはわかってきたかも」


 元々運動神経には自信あったし、体幹もずっと鍛えてきた。

 だからか、なんとなくリフティングするときの身体の使い方はわかり始めてきた。

 しかし、それを違和感なくできるようになるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。


「でも、このまま続ければリハまでにはある程度はできそうだな」


 流石に100回続けられるようになるとか、両足でできるようになるとかはまだまだ先の話だと思うけれど、練習したら観られても違和感がないくらいの仕上がりにはできそうだ。


「よし、今の感覚忘れないように続けよ……」


 俺は転がったボールを取りに行ってまたリフティングを続けた。

 何度も何度も続ける。

 それは昼が過ぎてお腹の虫が鳴くまで続けたのだった。

リフティングのコツって言っても感覚なので言語化するの難しかったです

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