ファミレスでテスト勉強②
最近ファミレス行ってないな
昔はよく行ってたのに
「ふう、ちょっと休憩するか」
「賛成ー。もう疲れたぁ……」
「もう、文字も数字も見たくねぇ……」
ぐでーっとテーブルに突っ伏す絢さんと佐藤。
まあまあな時間集中していたし、疲れるのも仕方ないよな。
俺は勉強は嫌いじゃないので二人ほどの疲労はない。
神崎さんも勉強するのに慣れているのか、疲労困憊の二人を微笑ましそうに見ている。
「とりあえずポテトでも頼んでシェアしようか。小腹空いてきただろ?」
「小腹どころか普通に腹減ったわ!」
「私もー。なんで運動してないのにこんなにお腹空くのー」
「頭使うのもカロリー消費するらしいからね。でも、食べ過ぎちゃうと夕ご飯が入らなくなっちゃうからほどほどにだよ?」
「運動部の男子の胃袋舐めんなよ? なんならハンバーグセット食っても夕飯余裕で食えるわ!」
すげぇな佐藤……。
俺は絶対に無理だ……。
でも、よくご飯を食べるのは体力を作る上でも大事なことだし、俺も少しずつ食べる量増やしていこうかな。
「とりあえず、ポテト頼むぞ。他に何かあるなら言ってくれ」
呼び出しボタンを押して店員さんを呼び、ポテトを注文する。
その後、佐藤と神崎さんが俺と絢さんのコップを一緒に持ってドリンクバーへと行ってくれた。
「あー、本当に疲れたー」
「お疲れ様。でも、結構順調だったんじゃない?」
「うん、一人でやるよりも全然捗ったよ。ていうか、教え方上手だね。朝の時にも思ってたけど」
「そうか? 神崎さんのほうが丁寧だったと思うけど」
「確かに香菜も教え方上手だよね。和樹くんが進学するときもよく面倒見てたらしいよ」
あまり勉強が得意ではない佐藤がそこそこ偏差値のあるこの高校に進学できたのは、彼女の尽力も大きかったんだろう。
「なるほどな。なんか教え慣れてるなとは思ったから凄く納得だわ」
「唯くんも教え慣れてそうだと思うけど?」
「簡単なアドバイスをすることはあっても、人にきちんと教える経験なかったぞ」
「うーん、なんていうか、コツを抑えるのが上手いのかな? こういう覚え方だと頭に入れやすいとか、覚えるべきところとそうじゃないところの判断とか。あとノートもわかりやすいし」
そこはもう忙しい中で効率的に知識を頭に叩き込むことが必要だからってのと、本当に慣れっていうのが大きいんだろうな。
ていうか、時間のない中でセリフを覚えないといけない時もあるし。
余裕ができたら絢さんにもやり方教えておくか。
「おまたせー。ほい、コーラ」
「ああ、ありがとう」
「はい、絢ちゃん。オレンジジュースだよ」
「わー、ありがとう香菜!」
話しているとドリンクバーに行っていた佐藤と神崎さんが戻ってきた。
「なんのお話してたの? 楽しそうだったけど」
「唯くんの教え方上手だねーって話してたんだよー」
「確かに白鳥くん、凄く上手だよね。私も色々教えてもらったけど、凄くわかりやすかったもん」
「俺としては神崎さんのほうがわかりやすかったし、理解度も高いなって思ったんだけどな」
「えっ、いやいや、そんなことないよ!」
俺の感想に照れたように手を振って否定する神崎さん。
別に事実だし、謙遜することはないと思うけれど……。
そういえば神崎さん、最初はぎこちなかったけれど、だいぶ慣れたようで一安心だ。
「まあ、香菜の指導力は俺のおかげで向上したからな! 感謝してもらってもいいくらいだぜ!」
「それは誇れるところじゃないだろう。むしろお前が神崎さんに感謝しとけ」
「和くんもちゃんとしたらもっと成績上がるのに……」
威張るように胸を張る佐藤にツッコミを入れる俺とため息を吐く神崎さん。
確かに勉強を見てた感じ、佐藤の地頭は悪くないと思う。
教えたことはきちんと理解して実行できていたし、後半からは俺たちに質問することも減っていった。
毎日少しでも予習復習したら、テスト前にこんなに慌てて勉強をしなくてもある程度の成績は取れそうなもんだけどな。
「部活した後に勉強なんて疲れてできねーよ」
「まあサッカー部なんてずっと走ってるもんなぁ」
「強豪校に比べると楽なはずなんだけどなー。てか、唯、お前も結構バイト入れてるのによく勉強する体力あるよな」
「俺だって最初のうちはキツかったけど、無理矢理に習慣化させたんだよ。少しでも教科書読んだり、机に向かう癖つけとけば逆にやらない日が続くとモヤモヤするし」
ランニングも勉強も最初はダルかったし、やりたくないと思ってばかりだったけれど、少しの時間だけでもほぼ毎日やるようにしたら自然と習慣と化していた。
流石にライブだったり、長丁場の現場がある日はやらないけれど。
「確かに習慣化させるのは大事だよね。和くんも白鳥くんを見習って習慣化させよう?」
「優等生たちの会話だ……。なあ絢ちゃん」
「私はなんとなくわかるかも」
「まさかの裏切り!?」
確かに絢さんも今は俺が教えたことを毎日実践している最中だ。
朝、練習を見るときにも毎日少しずつ腹式呼吸や滑舌が上達しているのがわかるし、毎日努力しているんだろうなと感じる。
まあ、自主練を蔑ろにしていたら、すぐに見切っていたと思うけれど。
「まあ習慣化させるコツは無理しない範囲から始めることだな。最初は10分でも5分でもいい。その日に習った範囲のノートを見返すとか教科書を読む。それを毎日続けていけば勝手に習慣になっていくさ」
「うぇぇぇ、気の長い話だ……」
「それが習慣化だからな。なんなら、神崎さんが毎日連絡して確認してやればいいんじゃないか?」
「えっ、私!?」
「あ、それいいね! 香菜帰宅部だし、幼なじみだし丁度いいじゃん!」
「絢ちゃんまで!?」
俺の提案に絢さんまで乗ってくる。
口実さえあれば連絡もしやすいだろうし、距離も縮めやすいだろう。
その俺の思惑を絢さんも理解してくれたようだ。
「確かに俺だけなら絶対に忘れてるだろうしな。じゃあ香菜、俺が帰宅した時間くらいに連絡してくれよ」
「和くん……。うん、わかった。じゃあ今日からするね」
「えっ、いや、今日はもうめちゃくちゃ勉強したし、やらなくてもいいんじゃないかと……」
「だーめ! せっかく私と白鳥くんが色々教えたのにすぐに復習しなきゃ忘れちゃうでしょ?」
「スパルタだ……。じゃあ勉強するから話し相手になってくれよ。アプリで話すなら無料だし」
「えっ!? その、和くんがいいなら私はいいけど……」
こいつ、まじで無意識で言ってるのか……。
女子にそんなことをお願いできるなんて俺には無理だ。
幼なじみだから気楽に言えるってことなのか?
普通そんなもんなのか?
そこまでの中の幼なじみなんていたことないから俺にはわからない世界だ……。
「おまたせしました。こちらご注文のポテトです」
佐藤のコミュ力に慄いているとちょうど注文していたポテトが届いた。
店員さんにお礼を言ってポテトを摘む。
「あー、めっちゃうめぇ……。生き返る」
「本当に腹減ってたんだな」
「そりゃそうよ! 俺の日々のカロリー消費舐めんなよ?」
「流石運動部」
「ていうか、唯はもっと食えよ。お前ヒョロっちいんだから……って、意外と筋肉あるな」
ポテトを摘んでいない左手で俺のお腹を触ってきた佐藤が驚いたようにそのままお腹を擦ってくる。
「擽ったいやめろ」
「なんていうか、バキバキってわけじゃないけど、引き締まってんな。お前なんかスポーツでもやったりしてるのか?」
「運動不足解消に家で筋トレしてんだよ」
「ふーん。筋肉付きやすい体質なのか?」
「その逆。筋肉付きづらいんだよ。本当はもうちょい太って筋肉付けたいんだけど、太りにくいから諦めてるわ」
龍みたいにバキバキの腹筋とか俺よりも一回り大きい腕とか憧れるんだけど、俺の体質的にそれは無理そうなんだよな。
ジムで負荷強めの筋トレしてもなかなか理想的な肉体になれない。
もっと脂肪が付きやすい体質ならよかったんだけどな。
いや、仕事的には付きづらいほうがいいのかもしれないけれど。
「唯くん、全国の女の子を敵に回したね」
「えっ、そんなに酷いこと言ったか?」
「日頃からカロリーに気をつけて努力して太らないように気をつけてる女の子の前で太らないなんて禁句も禁句だよ!」
「うん、私もズルいなって思った」
「神崎さんまで……」
まさかここまで反感を買うとは……。
絢さんも神崎さんも別に太ってないと思うんだけど……。
「唯、お前はもっと女心ってやつを勉強したほうがいい」
「佐藤だけには言われたくないな」
「はあ? 日頃から彼女作るために努力している俺に向かってなんたる言い草だ」
「……そういうところなんだよなぁ」
チラッと神崎さんのほうに視線を向ける。
俺のその視線に気づいた神崎さんは顔を赤らめて俯いた。
「私から言わせてもらうと、本当にどっちもどっちなんだけどね」
最後に絢さんがズバッとツッコミを入れて、俺と佐藤は撃沈したのだった。
これで勉強会は終わりです
喋ってばかりだけど、一応書かれてないところでちゃんと勉強している……はず……




