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初めてのデート(仮)帰り道

これで初めてのデート(仮)編は終わりです

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 ちょっと変な雰囲気になりつつも、あれからまた色んな話をして店を出た。

 空は昨日と同じように紅く染まっている。


「あー、楽しかったー!」

「そうだな。でも、ずっと喋ってただけだけどな」

「お喋りするの楽しいじゃん! 私も時々ファミレスで友達と喋ってるだけの時あるし!」

「ドリンクバーだけで?」

「ポテトもセットで!」

「まあ、摘めるものは欲しいもんな」


 正直、1時間2時間くらい喋って解散かなと思ってたけど、まさか4時間以上もずっと喋ってるとは思わなかった。

 でも、あっという間に時間が過ぎていったと思うのは、それだけ楽しくて心地良い時間だったんだろうな。


「次こそはカラオケ行こうね! 私にももう慣れたでしょ?」

「カラオケかぁ……。まあいつになるかはわからんけど、時間が合えばな」

「お、言質とったよ? オフの日わかったらちゃんとメッセで教えてよね」

「忘れてなかったらなー」

「いいもん、定期的に私が聞くから」

「わー怖い怖い」

「てきとーだなー」


 彼女ともこんなふうに軽口を叩ける仲になった。

 正直プライベートで女の子と二人で過ごすってことに緊張はあったし、楽しませる自信なんて微塵もなかったけれど、それでもちゃんと楽しんでもらえたようで安心した。

 というか、彼女のコミュニケーション能力が高くて楽しませてもらったというほうが正しいんだけれども。


「まあでも、絢さんは無理に気を使う必要もないってわかったし、カラオケくらいならフリーの日にいつでも付き合うよ。流石に人目は気にする必要はあるけど」

「今の格好なら唯くんが雪宮唯だって気づかれないと思うけど?」

「いや、それもそうだけど、それ以上にクラスメイトと鉢合わせしたときに変な勘違いされたら面倒だろ?」

「あー、私と唯くんが付き合ってるんじゃないか的な?」

「そうそう、そういうやつ的な」


 ぶっちゃけ絢さんは人気があるし、彼女のことが好きだって男子もいるだろう。

 そこで変な勘違いされたら、彼女の高校生活に支障をきたしてしまう可能性もある。

 今は彼氏がいないかもしれないけれど、彼女に好きな人ができた時に俺が障害になってしまったら申し訳がないしな。


「私は気にしないけど? なんなら今私の好感度が一番高いの唯くんだし、変に言い寄られることがなくなったり、男子に遊びに誘われることがなくなるなら逆に助かるんだけどな」

「……本当にさらっとそういうこと言うよな絢さんは」

「だって本当のことだもん」


 本当に反応に困る……。

 そう言ってもらえることは嬉しいけれど、もう少し手加減してほしいものだ。


「友達として好いてもらえてるのはありがたいけど、この先絢さんに好きな人ができる可能性だってあるだろ? まだまだ高校生活は長いし。そしたら俺の存在がノイズになる可能性だって普通にあるんだから、その時はちゃんと言ってくれよ。きちんと距離取るから」

「好きな人かぁ……。でもそれで唯くんと距離ができるなら出来てほしくないなー。唯くんと話すの凄く心地良いんだもん」


 俺も彼女と話すのは居心地がいいし、できることならいい女友達としてこれからも付き合いが続けばいいと思う。

 でも、恋愛するっていうことは彼女が役者を目指す上で大事な経験だ。

 俺が持ち得ることができなくて苦労している要素なのだから、多分誰よりもそのことをわかっていると思う。

 だから、きちんと伝えなくちゃな。


「絢さん、好きな人はできることならちゃんと作ったほうがいい。恋愛経験のない俺が言っても説得力はないけれど、人を恋愛として好きになるってことは役者を目指す上で大事なことなんだ」

「……それはそういうシーンを演じるために必要ってこと?」

「それももちろんあるけど、色んな感情を知ることは芸事において必要不可欠だと思ってる。だから恋愛ってたくさんの感情を知れるものだと思うんだ。好きな人の一言で嬉しくなったり、照れたり、嫉妬したり悲しんだり。ちょっとしたことで感情が動いてしまう。それは友達とは違う種類の感情だ。だから、出来てほしくないとは思わないでほしい」

「でもさ、そんなの作ろうと思って無理に作るものじゃなくない?」

「そうだな。無理に作る必要はない。でも最初からその気持ちを持つことを排除するのは違うと思う。だから、もしいつかいいなって思う人ができたら、俺のことなんて気にせずにちゃんとアタックして欲しいな。それが成就するにしてもしないにしても」


 まあ、絢さんくらい顔立ちが整ってて明るい性格なら、すぐに彼氏はできるだろう。

 そしたら朝の練習のことはまた考え直さなきゃいけなくなるし、俺の秘密のこともお願いし直さなくちゃいけないけれど、そこはもう仕方がない。

 ただ、少し寂しいなとは思ってしまうけれど。

 まともに話したのなんて昨日からのはずなのにここまで絆されるとはな……。


「……じゃあさ、もしそうなった相手が唯くんだったら……どうするの?」


 立ち止まり顔を伏せてそう告げる絢さん。


「俺だったらか……。それは全然考えてなかったな」

「多分この先、少なくとも高校の間は一番関わる男の子って唯くんだと思うし、そしたらその可能性が一番高くなる可能性だって……その、ないわけじゃないと思うん……だけど」


 徐々に声が小さくなって、それと共に身体も縮こまっていく絢さん。

 確かにこの関係を続けていくなら、俺と彼女は一番接する時間が長くなるとは思う。

 でも、雪宮唯としての俺ならまだしも、白鳥唯としての俺が、絢さんに恋愛感情を抱かせるとは思えない。

 龍や佐藤みたいに相手を引っ張っていけたり、話を盛り上げられるわけでもないし、優斗みたいに可愛げや構ってやりたくなるような人間でもない。

 普通の友達付き合いをしたことのないような白鳥唯に、魅力なんてあるとは思えないから。


「絢さんが雪宮唯として俺を見るなら可能性はあるかもしれないけど、その時は俺を思う存分利用して肥やしにしてくれ」

「それどういうこと?」

「アイドルとして見ない限り、俺のことを好きになるなんてあり得ないからな。普段の俺は野暮ったいし、面白みもないし、好きになってもらえる要素がない。でも、雪宮唯なら人に好かれるように立ち回ってる自覚はあるからその可能性は否定はしないけど、そしたら付き合うことはないから、その感情を芸の肥やしにしてくれたらと思う」

「はぁ……。唯くんって結構面倒くさい性格してるよね」

「唐突に暴言を……」


 さっきのしおらしい様子から一変して、絢さんは驚くほど深いため息を吐いて顔を上げジロリと俺を見てくる。


 え、俺そんな面倒くさいこと言ったか?

 普通にアドバイスのつもりだったし、客観的な目線で話したと思うんだけど……。


「暴言じゃなくて真実だよ。それに唯くんは自分のこと全くわかってない」

「いやいや、ちゃんと把握してるからこその言葉だったんだが?」

「変なところで自己評価が低い。それは雪宮唯じゃなくて白鳥唯のことを好きな人に対する侮辱だと思う」

「それは……」

「私は雪宮唯だから一緒にいて楽しい、居心地がいいと思ってるんじゃなくて、白鳥唯と一緒だからこんなに楽しかったんだよ?」

「それはその、ごめん。でも、それはただの友達としての感情で、恋愛として好きになるかはまた別問題だろ」

「確かに今は友達としての感情だよ? でも、その友達として魅力的だと思ってるのは事実だし、そんな人を好きになるかもしれない可能性だって0じゃないじゃん」


 拗ねるように口を尖らせ、少し強めに言ってくる彼女。

 そりゃ友達から始まる恋愛もあるけれど、その相手がイコールで俺に繋がるとは考えたこともなかった。

 でももし、そういうことになったのなら……。


「わかったわかった。じゃあ仮に0じゃないとしよう。でも、もしそうなったとしても俺は軽い気持ちでは返事はできないと思う」

「それはアイドルだから?」

「違う。アイドルだからとか関係なくても、遊びで交際する気はないってことだ。俺もきちんと相手のことが好きじゃないと相手にとっても失礼だし、肩書きだけの関係なんてお互いにとってもいい時間にはならないだろ」


 そりゃ付き合ってから相手のことを好きになるパターンだってあるし、そのことを否定する気はない。

 恋愛なんて人それぞれだから。

 でも、もし俺が誰かとお付き合いするのなら、きちんと相手に対して真摯な気持ちを持っていたい。

 多分そうじゃないと仕事の忙しさにかまけて相手を蔑ろにしてしまうかもしれないし、自分の時間を優先してしまうと思うから。

 それは相手の貴重な時間を奪ってしまう行為だ。

 先がないのに俺と付き合ってしまったら、もっといい出会いを不意にしてしまう可能性だってあるし、無駄な期待や希望を抱かせてしまったら相手の心に浅くない傷をつけてしまう。

 そんなの俺は絶対に嫌だ。


「それはそうだけど……」

「だろ? それにやらなきゃいけないことが多すぎて俺には余裕がないからな」

「じゃあ唯くんはこれから先好きな人を作る気はないの?」

「いや、俺だっていつかは素敵な相手が出来ればいいなと思ってるさ。でも今はそういう相手がいないし、そもそも出会いがないからな」

「美人なタレントさんたちとあれだけ共演してるのに出会いがないは世の男性から一斉攻撃受けそうだけどなー」

「共演した人は仕事の相手としてしか見れないからなぁ」


 共演する人なんて大体が今人気な人たちばかりだし、マネージャーさんががっつりガードしてるから、そもそも気軽に関係を持つことが難しい。

 変なリスクを犯すような真似をする気もないし、最初から仕事仲間として見ておくのが一番平穏に収まる。

 だから恋愛対象として最初から外れてるんだよな。


「難義な性格してるというか面倒くさいというか。本当に恋愛のことを語る説得力皆無だよね唯くんは」

「だから言ってるだろ? 説得力はないけどって。まあ、そっちは自由に恋愛して惚気けてくれたらいいよ。俺も勉強になるからさ」

「はーい。勝手に好きになりますー。でももし私が唯くんを落としちゃったら、その時はちゃんと告白してね? きちんと返事してあげるから!」


 俺が絢さんを好きになるねぇ……。

 全く想像つかないな。

 いい子だとは思うし魅力的な子だとも思うけれど、今は手の掛かる教え子、一番仲のいい女友達としての印象しかない。

 そもそも恋愛をしたことがないし抱いたことがないから、どういう過程を経て好きになるのかがわからない。

 だからもし、彼女を好きになってしまったのなら、その時はきちんと振られよう。

 その経験も俺にとって掛け替えのないものになると思うから。


「はいはい。その時はしっかり振られますよ」

「……ホント、めんどくさいなー」


 ボソッと何かを呟いた声は俺の耳には届かない。

 何か言ったか聞き返そうかと思ったけど、おそらく彼女ははぐらかすだろう。

 その証拠に彼女は話題を変えて俺の隣を歩き出す。

 それは今月の期末テストのことや明日の練習のことやあと少しでくる夏休みのこと。

 お互いに会話は尽きなくて、結局彼女の家の近くで別れるまでそれは続くのだった。

次は学園ラブコメ王道のテスト勉強

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