初めてのデート(仮)①
ようやくラブコメらしくなってきた……かもしれない
咲さんの電話の後、時間まで映画を観たり動画サイトで流行りの動画を漁ったりして時間を潰して家を出た。
あの喫茶店まで15分ほどの道のりを歩く。
天気は晴れているのはいいけれど、そのせいで日差しが痛いほどに肌を焼いてくる。
日焼け止めちゃんと塗っててよかった。
額から流れてくる汗を拭いながら歩き、ようやく目的地に到着。
店の扉を開けると、クーラーの心地良い冷気が熱された身体を冷ましてくれる。
サッと店内を見渡すと、昨日と同じ席にすでに風祭さんがいて、こっちに向かって手を振っていた。
店員さんに待ち合わせの旨を伝えて彼女の座っている席へと向かった。
「ごめん、待たせた?」
「ううん、今来たとこー」
ニコニコと笑いながら手を振る風祭さん。
俺も椅子を引いて彼女の対面へと座った。
「なんか、会うたびにこのやり取りしてるよね」
「あー、確かに。なんかついつい言っちゃうんだよな」
「わかるー。私も相手が先に到着してたら言っちゃう。別に遅刻してるわけじゃないのにねー」
「だよな。もっとバリエーション増やさなきゃ……」
「あはは、変なところで真面目だなー。別にいいんじゃない? 変なこと言ってるわけじゃないんだし」
「まあそれはそうかもしれないけど、なんとなくワンパターンだと思うところもあるしな。ところで、もう何か注文した?」
「いや、まだだよ。何頼もうかなーってメニュー見てただけー」
「そっか。俺もメニュー見よっかな。そんなにお腹空いてないし、軽めのものを頼もう」
もう一つのメニューを手を取って眺める。
朝ごはんもちゃんと食べたし、映画観ながら紅茶飲んでたし、流石にがっつりとしたものを食べるほどお腹に空きはないからなぁ。
それにここは軽食も美味しいし悩みどころだ……。
「ん、私は決めたよ! 白鳥くんは?」
「ちょっと待って……。うーん……よし、決めた」
お互いにメニューを閉じて机に置くと、ちょうどいいタイミングで俺のお冷とおしぼりを店員さんが持ってきた。
「ありがとうございます。ついでに注文いいですか?」
「はい、承ります」
「えっと、ミックスサンドとアイスコーヒーで」
「私はカルボナーラとアイスティーのレモンでお願いします!」
「かしこまりました。ご注文を繰り返します。ミックスサンドを一つとアイスコーヒーを一つ、カルボナーラ一つとアイスティーのレモンを一つですね?」
「はい、お願いします」
店員さんは注文を聞いて一礼して去っていった。
「白鳥くんあんまり食べないんだね?」
「俺はそんなに大食漢ってわけじゃないからなぁ。朝ごはんはちゃんと食べたし、元々お昼はがっつり食べないんだよね。頭重くなるし」
「なんかがっつり頼んだ私が大食いみたいで嫌なんだけど」
「別にいいんじゃない? いっぱい食べる人って魅力的だし」
「んっ、なんか白鳥くんってさらっとそういうこと言うよね」
風祭さんは軽く頬を染めてジトッとした視線を向けてくる。
「え? なにが?」
「自覚なしなのがまた……」
「いや、別に変なことは言ってない……よな? 気に触ったのなら謝るけど」
「大丈夫だから! 別に嫌なこと言われたとかじゃないから気にしないで!」
「うん? それならいいんだけど、もしかして照れてる?」
「照れてない! 気にしないでって言ったでしょ! はい、この話はおしまい!」
彼女はそう言うとパンと手を叩いた。
そしてお冷を飲み干す。
まずいな。初っ端からやらかしてしまったみたいだ。
でも彼女はこの話を蒸し返してほしくないみたいだし、謝るのも違うよな。
気まずい空気になって、気を取り直すために俺もお冷を口にする。
氷でキンキンに冷えたお冷がスーッと喉を潤して頭を冷やす。
咲さんは普段の俺でいいって言ったけど、その普段の俺でいったらこんな空気になっちゃったんだけど、本当にこれでいいのか?
もっと気を利かせたりしたほうがいい気がするんだけど……。
「おまたせしました。お先にアイスコーヒーとアイスティーのレモンです」
またしても丁度いいタイミングで店員さんが飲み物を運んできてくれた。
ありがたい、これで空気が変わってくれたらいいんだけど。
店員さんにお礼を言って、ガムシロップとミルクを入れる。
風祭さんもシロップを入れてストローでかき混ぜていた。
「んー、美味しい!」
「ここのはミルクティーも美味しいぞ」
「え、そうなんだ! 今度頼んでみよー。ていうか、白鳥くんは今日はブラックじゃないんだね」
「あー、ちょっと糖分欲しかったしな。甘いものも好きだし」
普段もコーヒーを飲む時はブラックだったりブラックじゃなかったりする。
本当に気分次第だ。
俺はまだコーヒーの味の違いを楽しめるほど、舌が肥えてるわけじゃないし。
「白鳥くんは豆の味がーみたいな拘りがある人だと思ってた」
「いや、だから俺のイメージってどんなんよ……」
「あはは、ごめんごめん。でも、ちゃんと話してみるまでここまで話しやすい人だとは思ってなかったからさ。私と変わらない同い年の子なんだってわからなかったよ」
「まあ学校だと佐藤とか近くの席の人くらいしか喋ったりしないし、それ以外だとまああんな感じのイメージだろうしなぁ」
佐藤と話すようになったのも席が前後だったからだし、席から離れてる人にわざわざ話しに行くのもハードル高いしなぁ。
席替えもまだだから両隣は女子だから、話す話題もないから用事がある時以外は喋りかけずらいし。
だから基本的には佐藤と喋っていて、時々後ろの席のやつが混ざってくる感じだ。
「そうそう。見た目みたいな感じで暗い人とは思ってなかったけど、落ち着いた人なんだなとは思ってたよ」
「野暮ったいのは自覚してるし、元々そんなに元気にはしゃぐタイプでもないからな」
「その格好、今の時期なんて大変じゃない? 前髪とか汗でひっつきそうだし」
「それはもう慣れるしかないね。大変だし前髪上げてぇ……って何回も思ったけど、それで人にバレたらこの生活も終わっちゃうし」
「ていうか、本当に普段と今の姿ってかけ離れてるよね。眼鏡掛けて髪型変えてるだけなのに」
「眼鏡と髪型って結構人の印象変えるからな。極論髪型や髪色が印象的な人がいきなりスキンヘッドとかに変えたら、全く別人に見えるし。それに俺の眼鏡そこそこ度が強いから目元とかちょっと変わってるしね」
「あー、よく漫画である、眼鏡外したら実は美少女でしたーとか、髪を切ったらイケメンだったーみたいな?」
「そうそう」
まあ、漫画とかアニメだったら眼鏡してても美少女、髪伸ばしててもイケメンやないかーいってツッコミは入るんだけど。
ただ、現実だと眼鏡の度が強い場合目が小さく見えるから、コンタクトにしただけで一気に印象変わるんだよな。
「なんか変装のイメージだとウイッグ被ったり、ベリベリーって剥がすマスクみたいなあれを想像してたよ」
「ウイッグは近くで見たら結構わかりやすいし、ミステリー漫画で見るようなマスクなんてフィクションの世界のやつだからなぁ」
正直最初は俺もウイッグ被ろうかと思ったけれど、あまりにもあからさま過ぎたし、それにめちゃくちゃ蒸れるんだよなあれ。
「えっ!? あのマスクってフィクションなの!?」
「あー、ちょっと語弊があったわ。一応、現実にも似たようなものはあるにはあるけれど、あれをするには技術と時間とお金がめっちゃ掛かるんだよ。だから漫画みたいにポンポン簡単にできないからフィクションだって言ったんだ」
「あー、なるほど、そういうことね。正直あれちょっと憧れあるんだよね。なんかカッコいいし」
「まあ、その気持ちはわからなくはない」
「でしょ!? ていうか、白鳥くんはあれやったことあるの? 結構詳しいけど」
「昔バラエティでちょっとな……」
前にお爺さんがいきなりプロレベルのダンスを踊りだしたら……って企画でやったことがある。
あれはなかなかに大変だった。
最初は漫画みたいな変装ができるのかとワクワクしてたけど、メイクするのに何時間も掛かったし、そんだけの時間と労力が掛かったのに正体をバラす時は一瞬だしで、あの虚無感はもう味わいたくないものだ。
仕事が来たらやるしかないんだけれど。
「えー、いいなー! 羨ましい!」
「まあ……な」
ここで彼女の夢を壊すようなことを言う必要はないしな。
余計なことは言わないでおこう。
「おまたせしました。カルボナーラとミックスサンドです」
話しが一段落したところで注文していた昼食が届く。
店員さんにお礼を言って、俺たちは目の前の昼食に舌鼓を打つのだった。
お互いにデートの認識はないです。
多分、おそらく……




