ホワイトデー 絢へのプレゼント
「じゃあ、俺もう帰るな」
「おう。バイト頑張れよ」
放課後になり、教室を出ようとする前に佐藤に声を掛ける。
深くは語らないけれど、エールの意味を込めて軽く言葉を交わしてから別れを告げた。
教室を出て、校門を抜ける。
「やっほ、唯くん」
「ごめん、ちょっと待った?」
「んーん、全然」
「そっか」
抜けたところで、校門の側の壁に寄りかかってる絢さんに声を掛けられた。
まあ、帰る前にメッセージで待っててって伝えてたから、ここにいるのは知っていたけれど。
「じゃあ駅前まで行こっか」
「うん。今日もお仕事?」
「いや、事務所のスタジオでレッスン」
「そうなんだ。私もバイトだよ」
「お互いに忙しいね」
「唯くんと比べられるほどではないけどね」
俺たちは歩きながら他愛のない会話のキャッチボールをする。
普段と変わらない会話のやり取りのはずなのに、空気だけはお互いにふわふわとしている。
これは佐藤に当てられたせいだろうか。
ただ友達にお返しをするだけのはずだったのに、昼にあんな話をされれば嫌でも意識してしまう。
俺だけではなく、絢さんも少し落ち着かなさそうなのも、もしかしたら絢さんも今日のことを聞いたのかもしれない。
「なんか、こうやって待ち合わせて下校するって意外と新鮮だよね」
「確かに。大体唯くんがすぐに帰っちゃうもんね」
「仕事やレッスンがあるとね。それになるべく早めにスタジオには着いておきたいからさ」
「でも今日は一緒に帰ってくれるんだね」
「ま、今日は絢さんに用事あったしね」
「ふーん。ってことは、期待してもいいのかな?」
「さあ? ご想像にお任せします」
「ふふっ。じゃあ勝手に期待しとくね」
そう言って微笑む絢さんはとても可愛らしくて、柄にもなくドキッとしてしまう。
なんだこのむず痒い空気は……。
なにか話題を変えないと……。
「そういえば、今日の昼、珍しく別々に食べたよね」
「あー、ちょっと香菜から二人で話したいって誘われてたから……」
「多分その内容、俺わかるかも。佐藤から相談されたし」
「そうなんだ。……上手くいくといいね」
「きっと上手くいくさ」
「そっか。そうだよね」
深くは話さないけれど、お互いに思ってることは同じだとわかる。
そして、お互いの友達の幸せを願っている気持ちも。
「じゃあ、唯くんはここから電車だよね?」
それから俺たちは言葉少なに歩き、駅前へと到着した。
改札から少し外れたところで立ち止まり、別れる前の会話をする。
「うん。絢さんはそのままバイト先?」
「そうだね。バックヤードで出勤時間まで宿題でもやってるよ」
「そっか」
なんか、すっごくぎこちない。
出会った時以上のギクシャク具合だ。
あー、こんなの俺らしくないな。
俺はふう……と息を吐いて、カバンの中に手を突っ込み、綺麗に包装されたプレゼントを二つ差し出した。
「これ、バレンタインのお返し」
綺麗な青が一つ、高級感のあるブラウンが一つ。
その二色の包みを重ねて、彼女に渡す。
「二つも……。ありがとう、唯くん。すっごく嬉しい!」
絢さんはそれを受け取り、嬉しそうにぎゅっと胸に抱きしめた。
その姿を見て、顔が熱くなる。
本当に柄じゃない……。
「青いほうがバスソルトの詰め合わせで、茶色いほうがマカロンだから」
「わー、どっちもすっごく嬉しい!」
「ん、喜んでくれたのならよかった」
「うん! 本当にありがとう! えへへ、やったぁ」
満面の笑みで噛み締めるように呟く絢さん。
ダメだ、照れくさすぎて居心地悪い……。
「じゃあ、俺そろそろ行くね」
「あ、うん、そうだよね。レッスン頑張って! 後でまたメッセージ送るね!」
「……うっす」
俺はヒラヒラと手を振って、改札を通る。
そしてチラッと後ろを見ると、プレゼントを抱えながら、絢さんがニコニコと手を振って俺を見送る姿があった。




