クリスマス カフェデート⑤
「ミュージカル? ……えっ、私が!?」
思考が追いついていなかったのか、少し間が空いて反応する絢さん。
「そう。絢さん、結構映像作品観てるよね? なら、ミュージカルの要素が入ってる作品も観てると思うんだけど。例えばディズニーの作品とか」
「それはもちろん! 他にも実写でミュージカルが入ってる洋画とかも観てるよ」
「なら、その中で自分が好きな作品のミュージカルのワンシーンをやってみるのはどうだろう? それなら演技と歌の両方を魅せることもできるし、他の人とも差別化できるんじゃないかな?」
演技のみ、歌のみの人はたくさんいると思う。
しかし、ミュージカルをやる人は少ないのではないだろうか。
「でも、ミュージカルって相当技術が必要なんじゃない? 私、そこまでの技量はないんだけど……」
「そこはもう練習しかないよね。絢さんは他の人よりも情報アドバンテージもあるし、それにミュージカル経験のある俺が教えるんだから、挑戦してみる価値はあると思う。オーディションまで時間はあるしね」
正直、数ヶ月の時間と俺が教えても完全に高クオリティのミュージカルは難しいとは思う。
しかし、作品のワンシーン、そしてオーディションになるであろう会場もそこそこ声が響くところだろうし、そこだけを突き詰めれば人に見せられるくらいのクオリティには持っていける自信はある。
それに絢さんに歌の技術も仕込めるしな。
芝居には音感やリズム感も必要になるし、それも同時に稽古できるのは一石二鳥だ。
「そっか。なら、ミュージカルの稽古お願いしてもいいかな?」
「オッケー。オーディションまではその対策を重点的にしよう。じゃあ早速だけど、どの作品のどのシーンを抜粋するか決めようか」
「うん! ……でも、ふふっ」
「ん? どうかした?」
元気よく頷いたかと思えば、突然笑い出す絢さん。
なにか変なことでも言ったっけ?
「いや、せっかくのクリスマスなのに、甘酸っぱい雰囲気じゃなくて、こういう話になっちゃうの、私たちらしいなって思っておかしくなっちゃった」
そう言いながら、クスクスとおかしそうに笑う絢さんに俺は確かにと納得してしまう。
普通ならフリーの男女がクリスマスに喫茶店にいるなら、もうちょいデート感あるもんだよな。
でも、絢さんの言う通り、こういうのが俺たちっぽいのは間違いない。
俺も絢さんにつられて笑いが込み上げてくる。
「くくくっ。確かにね。じゃあこれから甘酸っぱい話でもする?」
「んー、凄く魅力的な提案だけど、作戦会議続けよ。それが私たちでしょ?」
「うん、そうだね。じゃあ話を戻すけど……」
それから俺達は気がすむまで、みっちりとオーディションの対策会議を続けるのだった。




