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マネージャーへの報告

今回で長い1日が終わります。

「お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。ありがとうございました」


 収録も無事に終わり、共演者の方々やスタッフの方々に挨拶をして楽屋へと戻る。

 そしてすぐに帰る準備をして2人と一緒にテレビ局を出た。


「あー、腹減ったな。なんか食って帰るか?」

「ごめん! 俺今から事務所行かないといけなくて」

「え、これから何か打ち合わせとか?」

「いや、ちょっと咲さんに用事がな」


 咲さんとは俺たちのマネージャーだ。

 普段は現場に着いてきてもらうことも多いけれど、今日は別の仕事が入っているらしく、珍しく俺たちだけでの現場入りだった。


「俺たちも一緒したほうがいいか?」

「いや、個人的な用事だから」

「そうか。ならここで解散すっか」

「別に2人でご飯食べに行けばいいのに」

「まあそれもいいけど、どうせなら雪も一緒がいいしな。優斗もいいか?」

「ん、僕は別にいいよ」

「なんか気を使わせて悪いな。今度またゆっくりご飯行こう。その時は俺が奢るよ」

「おう! 期待してるぜ!」

「美味しいところでよろしくねー」


 龍と優斗に別れを告げて、タクシーを捕まえて事務所へと向かう。

 2人に気を使わせたのは少し心苦しくはあったけれど、時間も時間だし要件も要件なので先を急がせてもらった。


 事務所へ到着し、メッセージアプリに記されている会議室へと向かった。

 収録に向かう前に事情を軽く咲さんには伝えておいたので相談のセッティングはもう済んでいるようだ。

 会議室に着き、ドアをノックすると中から「どうぞ」と返事が聞こえたのでドアを開け、中へ入る。


「お疲れ様唯。今日はごめんなさいね、収録付き添えなくて」


 声の主、俺たちのマネージャーである『中野咲』さんが微笑みながら小さく手を上げて俺を迎え入れる。


「いや、それは全然。咲さんもお疲れ様です」

「収録のことも聞きたいけれど、とりあえず先に本題に入りましょうか」

「ですね」


 咲さんは長い黒髪を耳にかけて居住まいを正した。

 俺もリュックを床に置いて彼女の対面に座る。


「それで、正体がバレたって本当なの?」

「はい。実は……」


 俺は今日あったことを詳細に伝える。

 一応メッセージアプリで簡単には伝えていたけれど、バレた経緯やその後の対応などを記すことができなかったからだ。


「なるほどね……」


 詳細を伝え終えると、手を口に当て難しい表情をする咲さん。

 自分の不注意で余計な問題を抱えさせて申し訳なく思うが、もし風祭さんが約束を破って俺の正体をバラしてしまった場合のことを考えると報告をしないわけにはいかなかった。

 報連相を怠っていいことはないからな。

 もしもの時の対応も、前もって準備をしておいたほうがその後の問題解決もスムーズにいくし。


「その子は本当に信用に足る子なの?」

「流石にまともに話したのが今日だけですし、簡単に信用できる……とは言えませんね。ただ、一応向こうの秘密も握っているし、彼女の夢の手伝いもすることになっているから、余程の馬鹿じゃなければそんな機会を不意にするようなことはしないとは思いますけど」

「貴方の正体を知った上で向こうから教えを請うほどだものねぇ」


 小さい頃から色んな人間を見てきたから、同年代の人間以上に人を見る目は養われていると思っている。

 だからあそこまで真剣に教えを請うてきて、さらに自分の夢を秘密にしてきて欲しいと不安そうに言ってきた風祭さんが、簡単に約束を反故にするようには思えないが……。

 しかし、何かのきっかけで心変わりをしてしまう可能性だって決して0じゃないのも事実。

 深く彼女を知っているならば信じることもできるけれど、俺たちはほぼ繋がりのないただのクラスメイトでしかないからな。


「唯、貴方はどうしたいの?」

「そりゃもちろんこのまま今の学校に通いたいです。今の誰も俺のことを知らない高校生活は居心地がいいですし、友達もできましたし、それに出来ることなら彼女との約束も果たしたいですし」

「そう」

「でも、余計な混乱と迷惑を招く前に早めに転校しろと言われるのならそれに従います。バレてしまったのは俺の不注意だったので文句を言う資格はありませんから」


 そう伝え終えると沈黙が場を支配する。

 咲さんは悩むように眉間に皺を寄せて目を閉じている。

 俺も下される沙汰を待ち、視線をテーブルに移した。


 どれくらいの時間が経っただろう。

 数分か、それとも数十秒か。

 体感的にはとても長く感じた。

 そして沈黙を破り、咲さんは口を開く。


「わかりました。この件はとりあえず私が預かっておきます。一応どうなってもいいように準備だけはしておくけれど、今はその子のことを信じましょう」

「え、本当にいいんですか?」


 あまりにも呆気ない返答に俺も呆けて聞き返してしまう。

 正直険しい表情から悪い予想をしていたのだけれど……。


「まあ、そもそも転校なんてそんな急にできるものでもないのよね。それにずっと頑張っていた貴方が初めて言ったお願いだもの。もしかしたらという不確定要素だけで、その願いを摘んでしまうのは気が引けるわ」

「それは、そうですけれど……」

「だから今のところ保留で。もしその子が怪しい素振りを見せたり、学校の雰囲気が変わったらきちんと報告すること。その時は覚悟を決めてもらうわ」

「……わかりました。その時は事務所と咲さんの指示に従います」

「じゃあこの話はこれでおしまいにしましょう」


 咲さんはパンと手を叩いて笑みを見せた。

 どうやら本当に話は終わったようだ。 

 緊張が途切れて一気に疲れが押し寄せて、ついつい大きいため息が漏れてしまう。

 その俺の様子を見て、可笑しそうに笑う咲さん。

 

 やっぱりこの人には敵わないな……。


「さて、もういい時間だし帰りましょうか。送っていくわ」

「いや、流石にそこまでご迷惑を掛けるわけには……」

「いいのよ。私ももう仕事は終わって帰るだけだし、ついでに車内で今日の収録の様子とか聞かせてもらえれば手間が省けるわ」

「あー、それならお言葉に甘えさせてもらいます」

「はーい。じゃあ、駐車場にいきましょうか」


 そう言って椅子の上に置いていたバッグを手にとって席を立つ咲さん。

 俺もそれに続いて床に置いたリュックを持ち、会議室を出る咲さんの後に続いて駐車場へ向かうのだった。

マネージャーの咲さんは黒髪ストレートの美人さんです。

大人の女性の魅力っていいですよね。

手のひらの上でコロコロ転がされたい……。

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