クリスマス カフェデート④
絢さんの強みはまずはルックス。
芸能界でも通用するレベルの可愛らしい顔立ち。
そして愛嬌もあり、十全にそのルックスを活かすことができる。
あとは運動神経。
バスケのエースを張っていたくらいの運動神経の良さ、そして体力も男子顔負けだ。
運動神経がいいってだけで、やれることは格段に増える。
役者としても、アクションができるのは強い。
なんなら殺陣もできるようになればオファーがくる可能性だってあるし。
それにこの業界、体力があるのは何よりも大事だ。
売れてくると休む暇もないくらいに仕事がくる。
今はまだ未成年だけれど、成人したら深夜まで収録なんてざらにある。
朝は日が昇る前から深夜までロケや収録の梯子が続く場合だって日常茶飯事だ。
それだけじゃない。
芝居の稽古やレッスン、それに仕事に関する勉強や情報収集。
休みの日だって人の目を気にした行動を心掛けなければならない。
そもそもまる1日の休みなんて月に一度あるかどうか。
仕事をセーブして貰ってる俺ですら、テストや行事以外では仕事やレッスンで丸一日休みなんて少ない。
正直、肉体的にも精神的にもゴリゴリに体力を持っていかれるのが芸能界だ。
「前に咲さんが言っていたように、絢さんのルックスは抜群にいい。正直、芸能界でも通用するレベルだと思う。あとは絢さんの経歴や体育の授業でわかったけれど、運動神経や体力は相当だよね。その二点はほぼ確実にオーディション参加者の上位に入れると思うし、業界に入ってからも強い武器になると思う」
「うーん、ということはそれをアピールしたほうがいいっていう事かな? でも見た目のアピールなんてよくわからないし……。運動や体力のアピールなら腕立てとかをやればいいのかな?」
「いや、オーディションならそれは止めておいたほうがいいね」
「え、でも、私の強みなんでしょ?」
「それはそうなんだけど、オーディションの趣旨とは外れてるから、大してアピールにはならないね。もちろん自己PRでバスケの経歴や運動が得意で体力があるってことを書いたり伝えたりするのはありだと思うけれど」
絢さんほど体力がある女性は貴重だろう。
しかし、それをオーディションでアピールできるかはまた別だ。
そもそも今回のオーディションで運動ができます! 体力があります! と言っても、それをどう芸能に活かせるかを示さなければならない。
事務所が求めているのはスポーツタレントではなく、芝居や歌やダンスが上手かったり、トーク力があったりするタレントだ。
そもそも運動自慢のタレントは引退したプロスポーツ選手を起用すればいいだけの話だし。
それに絢さんが希望しているのは女優業だ。
ならば、演技力を前面に出すのが正解だろう。
しかし、絢さんレベルの演技力を持ってるオーディション参加者は少なくないはずだ。
ルックスを含めて、ギリギリ所属に漕ぎ着けられるかどうか。
ならば、ルックスと演技力プラスαが必要になる。
楽器を弾けたり、ダンスができたり、歌をうたえたりする志望者も多いだろう。
絢さんもそこそこ歌が上手いのは知ってるけれど、それもどこまでアピールになるか……。
「じゃあどうしたらいいのかな。いっそのこと一人芝居やってみるとか。でも私くらいの演技力の参加者も多いはずだよね。歌も決め手には欠けるだろうし」
絢さんと二人でうんうん唸りながら考える。
演技を軸にプラスαのアピール……。
歌は決め手にはならない……。
絢さんの趣味は映像作品の鑑賞。
ん、映像作品……?
「絢さん、ミュージカルをやってみる気はない?」
俺は今までの絢さんとの会話を思い出して一つの案が思いついた。




