バスケ部時代の叶は
「こんな感じの流れだったかな」
叶さんから俺が席を外している間の話をされた。
「なるほど……。てか、まじで結構早めに勘繰ってたわけか。これは俺にも否があるなぁ」
自分のツメの甘さにため息が出る。
一応距離感とかにも気をつけてたはずだったんだけどなぁ。
「でも、雪宮くんとある程度の付き合いがなかったらわからなかったよ? 初対面から収録くらいの距離感を私は知ってたから、絢ちゃんとは結構関わりあるんだろうなって気づけただけだし」
「慰めの言葉ありがとう。でも、人前だともっと気をつけることにするよ」
まじでこれからはもっと考えないとな……。
「唯くん、本当にごめんね」
「いや、絢さんは気にしなくていいよ。どっちみち叶さん相手にはぐらかし続けることは無理だっただろうし」
叶さんは意外と感が鋭いところがあるから、多分俺がいたとしてもどこかでバレてただろう。
「とりあえず、叶さんが誰にも言わなければいいだけの話だし、本当に信用するからね?」
「もちろん。なんなら誓約書でも書いとく?」
「そこまではしなくてもいいよ。半年くらいの付き合いとはいえ、人が嫌がることをしない人だってわかってるから」
流石にこれ以上疑ったり追求するのは叶さんにも失礼だ。
「じゃあ重苦しい話はここまでにしておいて、なんだかんだ二人、距離が縮まってるみたいだね。よかったんじゃない、絢さんとしては」
「そうだね。モデルとしてもインフルエンサーとしてもファンだし、すっごく光栄だよ」
「嬉しいこと言ってくれるねー。私もこんな可愛い子がファンって言ってくれて光栄だなー」
絢さんはまだ少し固さはあるものの、叶さんは緩くニコニコと微笑んでいる。
「でもなんか不思議な気分だなー。バスケ選手として憧れた子が今は私が憧れられる立場になるなんて」
「それは私もだよ。というか、前にまさか対戦したことあるなんて……」
「私はずっと忘れてなかったんだけどなー。ショックだなー」
およよと泣き真似をする叶さん。
なんか俺達男子と話している時よりもノリが軽い気がする。
やっぱり同性同士のほうが気楽なんだろうな。
「いやいや、本当に綺麗な人がいるなとは思ってたよ! でもまさかあの叶桜ちゃんとは結びつかなくて」
「昔の私は今みたいにロングじゃなくてショートだったから仕方ないよね」
「叶さんのショートって全然想像つかないな。写真とかないの?」
「んーっとね、多分当日みんなと撮った写真あったはず……」
叶さんはスマホを操作して昔の写真を探している。
相当のスピードでスクロールしているのは、それだけ写真が多いからだろう。
もしかして、俺の10倍以上は写真撮ってるんじゃ……。
「あ、見つけた。これこれ。これが中学時代の私ね」
見つけたサムネイルをタップして写真を拡大する。
そして爪でトントンとその集合写真の中の一人を示した。
そこには何となく叶さんだとわかるような女の子が集合写真の中でピースをしていた。
「あー、これはだいぶ印象変わってるし、絢さんが気づかないのも仕方ないよ」
「そりゃ前よりは大人びたかなーとは思うけどそんなに変わってる?」
「正直、叶さんって言われないと俺は気づかないと思う」
確かに昔から顔立ち整ってるとは思うけれど、今の叶さんとはタイプが違う。
髪型だったりメイクだったりとこんなに印象変わるんだな。
「でも私、確かにこの人見覚えある。マッチアップ自体はしなかったけど、凄くプレーが丁寧だなって思ったな。周りをよく見てパスを出してて、人の視線に敏感で視野が広いんだなって印象だったな」
「えーそんなこと言ってもらえるのは嬉しいな。シュートがあんまり得意じゃなかったから、なるべくパスでチームに貢献できればいいなって心掛けてたからね」
「視野が広いのはわかるけど、視線に敏感っていうのはどういうことなの?」
パスに視線っていうのは何かしら関係があるのだろうか。
それが気になって二人に尋ねてみる。
「ああ、それはね、基本的にボール持ってる人に視線って向くでしょ? その時にマークしてた人から視線が切れるからそれでマーク外したり、逆に自分がボール持ってる時はフェイントいれて、自分をチェックしてる人から他の人に意識を向けさせて、その瞬間にパス出したりとか、凄く上手だなって対戦してて思ったんだ。それって人の視線に敏感じゃないとできないからさ」
「なるほど、そう言われたら確かに。だから叶さんは自分がどうカメラに映ってるかにも敏感なんだな」
叶さんのカメラ映りがいい理由はモデルで写り慣れてるから、それが映像にも生かされてると思ってたけど、それ以前にバスケで培われていた能力だったのか。
あれ? でもそのことをきちんと把握できてる絢さんも似たような能力があるのでは……?




