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観劇後 挨拶

「面白かったー!」


 舞台が終わって、絢さんは長時間座って固くなった身体を解すように伸びをしながらシンプルな感想を述べる。


「本当に面白かったよね。流石桜吹雪の舞台。私も勉強になったなー」

「確かに。舞台だからこその演出や演じ方は本当に勉強になったし、ハジメくんも夏の撮影の時よりもいい芝居してたよね。やっぱり本職が舞台役者だし、伸び伸びと演じてて、いつか舞台で一緒したいなって思ったな」


 俺と叶さんもお互いに感じたことを思い思いに語り合う。

 絢さんよりももうちょっと踏み込んだ感想を語ってしまい、少し置いてけぼりにしてしまったかと思ったけれど、俺と叶さんの話を興味深そうにじっくりと聞いていた。


「じゃあ楽屋に挨拶しに行こうかな。叶さんはどうする?」

「私も一緒に行くよ。あ、でも風祭さんは……」

「私はパンフレット買ってから近くにあったカフェで時間潰してますね。なので、ごゆっくり」


 絢さんは手を振ってそう言ってくるので、俺と叶さんは彼女の気遣いに感謝して、席を立って劇場のスタッフさんに話を通してから楽屋へと向かった。

 ただ、絢さんの気遣いに甘えっぱなしでずっと放っておくわけにもいかないので、軽く話してから彼女が待つ喫茶店へ行こうとは思っている。


「そういえば、雪宮くん、変装凄く上手いよね。声聞くまで全然気づかなかった」


 楽屋への道中、叶さんがそんな感想を伝えてくる。


「まあ、気をつけてるからね。それに今日は同行者もいたわけだし」

「あ、それはそっか。彼女じゃないにしても、人気アイドルが一般の女の子と二人で観劇デートなんてバレたら凄いことになりそうだもんね」

「そういうこと……あ、ハジメくん!」


 叶さんと話しながらハジメくんを探していると、舞台の衣装から楽な格好に着替えた彼の姿を楽屋までの通路で見つけた。


「あー、唯くんと桜ちゃん! 観に来てくれたんすね! あざっす!」


 ハジメくんは嬉しそうに手を上げて近寄ってくる。

 今回の劇は幕末が舞台で、ハジメくんはクールな天才剣士を演じていた。

 俺や叶さんと共演した映画とはまた違う役で、普段のハジメくんとは全く異なる人物を演じていたけれど、全く違和感もなく、静かな芝居でも存在感が際立っていた。

 だからこんな大型犬みたいに明るく人懐っこい姿を見るとついつい笑ってしまう。


「ハジメくん、凄くよかったよ。静かながらも迫力があって、殺陣も本当に見応えがあって素晴らしかった」

「うんうん! 本当に前に共演したハジメくんと同一人物なのって思ったもん」


 俺も叶さんも手放しに褒める。

 それくらい完成度も高く面白い劇だった。


「へへっ。二人にそう言ってもらえるとめっちゃ嬉しいっす!」


 照れくさそうに笑うハジメくん。

 でもこれは俺達の本心だ。

 むしろこの舞台に誘ってくれたハジメくんに感謝したいくらいなのだから。


「じゃあ、俺はそろそろ帰るね。ハジメくんもお疲れだろうし」

「あ、私も。じゃあ、お疲れハジメくん」

「ういっす! まあどうせ今度仕事で会うっすから、またそこでいっぱい話しましょ!」


 軽くハジメくんと感想やら舞台についてやら色々と話して、いい区切りでハジメくんに別れを告げる。

 いつまでも絢さんを待たせるわけにもいかないし。

 ハジメくんは楽屋へと向かい、俺と叶さんは劇場の出口へと向かう。


「俺はそのまま風祭さんがいる喫茶店に行くつもりだけど、叶さんはどうする?」

「もしよければ私もご一緒してもいいかな? 風祭さんとはもう少しゆっくり話したいし」

「ん、おっけー。じゃあ連絡する」


 俺は劇場を出て絢さんに電話をした。

 数コール後に絢さんの声がスマホから聞こえてきた。


「もしもし。挨拶終わったからそっちに向かおうと思うけど、どこにいる?」

『えっとね、劇場に来る途中にあった喫茶店わかる? その店の奥の席にいるんだけど』


 劇場に来る途中の喫茶店……あ、あそこか。


「はいはい、わかった。じゃあ叶さんと向かうね」

『え、叶ちゃんも来るの!?』

「もうちょっと話したいって言ってるし、何か不都合でもあった?」

『いやいや、私としては嬉しいけど、まさかすぎて』


 絢さんの嬉しそうな、そしてまだ緊張してそうな声が聞こえてくる。


「ん、問題ないみたいだね。じゃあ後で」

『う、うん、待ってるね』


 通話を切ってスマホをポケットに入れる。


「場所もわかったし、向かおっか」

「うん。エスコートお願いします」

「喜んで」


 そして俺は叶さんと並んで絢さんの待つ喫茶店へと向かうのだった。

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