地獄絵図
会社からの帰り地下鉄の満員電車に乗っている時だった。
突然、身体が、否、乗っている電車自体が大きく搖れる。
地震か?
揺れると同時に電灯が消えて車内は真っ暗になり、冷房も同時に止まったため車内はサウナ風呂のようなムアッとした熱さに包まれる。
揺れが収まると今の揺れの情報を得ようと、電車に乗っていた殆ど全員がスマホを取り出し電源を入れた。
車内の其処彼処で声が上がる。
「あれ? 繋がらない」
「さっきまで繋がってたのに何でオフラインになってるんだ?」
「おかしいな、電話が掛けられないぞ」
地震で停電になったのか車内の電灯が点く気配が無く、車内は乗客の持つスマホの灯りで照らされていた。
数十分程経っただろうか、車両と車両が繋がっているところの扉が開けられ車掌が姿を見せる。
車掌は手をメガホンのようにして話し始めた。
「揺れの後、地上と連絡が付かなくなりました。
ですから、運転手と協議して最寄りの駅まで徒歩で向かう事にします。
全車両のお客様に伝え終え、線路に降りるドアが開けられるまでもう暫くお待ち下さい」
車掌はそう話すと乗客をかき分けて次の車両に向かう。
乗客をかき分け次の車両に移動しようとする車掌に周りの乗客から次々と質問が飛ぶ。
「どうなっているんだ?」
「冷房だけでもなんとかならないのか?」
「復旧は何時だ?」
「すいません、地上と連絡が取れない為、私も何が起こっているのか分からないのです。
ですからもう暫くお待ち下さい」
運転席脇の扉から線路に降り、300メートル殆ど歩くと駅に着いた。
地下鉄の壁や駅のホームの壁には地震でできた物か、大きな亀裂が何本もできていた。
ホームに人の姿は見えない。
階段を上がり改札を抜ける。
え? 地上に出る出入り口に続く地下道の中に、うめき声を上げ助けを求める多数の人が横たわっていた。
身体中にガラスの破片が突き刺さっている人、剥き出しの顔や手足が焼け爛れ着ている服のあちらこちらが焦げ付いている人。
「水、水、水、水をください」
うめき声を上げ、水を求める声を上げて横たわる人たちが力無く手を上げる。
何が起きたんだ?
私は階段を駆け上がり外に出て周りを見渡す。
林立していた沢山のビルは全て倒壊していて、あちらこちらから火が上がり黒煙を上げていた。
倒壊し燃えている瓦礫の間には、全身が焼け爛れている人や全身の皮膚が捲れ垂れさがっている人が横たわり、助けを求めて叫び声を上げている。
まるで地獄絵図を見ているような光景が目の前に広がっていた。
周りを見渡していた目の片隅で、間近でフラッシュが焚かれたような眩い光が迸る。
光が迸った方に目を向けると。
遠く、米軍基地がある方向に巨大なキノコ雲が立ち上がって行くのが見えた。