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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白黒の夢

作者: 紺野智夏

それは幼い時に見た夢だった。



目の前で、母が死んだ。

黒い大型トラックが、引き殺した。何度も、何度も引き殺した。


夢だった。

母は雪のように白く、血飛沫は張り合うかのようにどす黒かった。

私を突き飛ばした母の手は、折れてしまいそうなほど真っ白で、私はその手を掴み損ねて、母は亡き人になった。



色の無い予知夢だった。




はじめて白黒の夢を見た時、私は泣きながら飛び起きて母にすがり付いた。

母が、まるで夢を再現ように、天に昇ったのは、それからたった一週間後のことだった。


しばらくは、その夢を繰り返しみた。母は何度も私を庇って死んだ。


しかしある時、夢が変わった。

その夢には色がついていた。

私は悪夢の終演に、心から安堵した。


新しい夢には、一人の男性が出てきて、私は言葉通り彼に夢中になった。


顔は分からなかった。

夢を見ていた私は、まだ幼くて、年上のお兄さんという存在だけで、なんだか大人になったような気がしていた。


しかし、その夢も長くは無かった。

突然、夢の終わりに、彼が死ぬようになった。その終わりは様々だったが、共通しているのは彼がおぞましく 殺される ことだった。


しかしその夢は白黒ではなかった。


白黒の夢は、時々、近所の犬やペットの鳥の死を私に告げた。

だから、私は、変な夢ばかりみたせいで、少し気持ちが弱っているだけだと、言い聞かせることにしていた。



私は、奇妙な夢と付き合いながら、高校生になった。

始めて、好きな人が出来た。両想いだった。

私は幸せだった。気持ちが落ち着いていると、妙な夢も見なくなった。



ある日、私は彼氏と喧嘩をした。些細なことがきっかけだった。


その晩、夢を見た。



「久しぶりだね」


幾度となく死を見、今日もまた死に様に会うであろう彼は、笑って私に話しかけた。


「久しぶり」


夢の中の私も、笑って答える。


「どこかへ行こうか」


彼は私の手をとり、私たちは並んで歩く。映画をみたり、公園を散歩したり。


そうして、最後にはキスをする。


「愛してるよ」


そう言った彼の顔が歪む。手にぬるい感触。彼は死んでいた。どす黒い血に濡れて。



目を覚ます。


刺された男が顔面蒼白なのは当たり前だし、血はそもそもどす黒いのだ。鮮血を期待するほうが間違っている。


動機を抑えて、彼氏に電話をした。始めて見た夢の中の彼の顔は、彼氏にそっくりだった。


「やっと謝る気になった?」


彼の声は暖かかった。私は「ごめんなさい」と小さな声で告げて、安心して眠りについた。




夢は終わらなかった。

彼を刺した私の手は、真っ白だったのは、きっと寒いから。

公園が真っ白いのは、ただの雪化粧だ。

見ていた映画は昔風のモノクロの洋画なのだ。


そう言い聞かせる度に、夢は色を失った。





「なんの映画を見ようか」


始まった。繰り返される夢。

私はモノクロの洋画のポスターを指さした。


「公園を少し歩こう」


彼は私の手をとらなかった。私はコートのポケットに手を入れる。冷たいプラスチックのナイフが指に触れる。

きっとまた、繰り返されるのだ。

このナイフで、きっと、また。


いつもの場所で彼は立ち止まって、私をみた。


愛してる、という言葉が、合図。私はポケットのナイフで、彼の心臓を突くのだ。





「別れよう」






真っ赤な血が飛び散った。

あたたかいものが手に触れる。


世界は驚く程色付いていた。

血は驚く程赤くて、彼の顔は驚く程青かった。雪なんて降ってはいなかった。


ナイフが私の手から落ちる。そのまま膝から崩れおちた。


「…げん……じ…つ………」



それは悪夢の始まりだった。



意識が遠くなっていった。


書いた日:2008/12/28


発想自体は中学生の時。

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