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吸血鬼ですが、何か? 第2部 開戦編  作者: とみなが けい
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吸血鬼を復活させて、他の悪鬼の場所を…

奴が白いホンダ・アコードの後部ドアを開けて買い物袋を載せ、子供たちが乗り込むとドアを閉めた。

母親で妻であるらしい女が奴と何やら話して、奴は苦笑いを浮かべて女に鍵を渡すと助手席に乗り込み、運転席に女が乗り込むとエンジンがかかった。


「どうする?追う?」


真鈴が俺達に小声で訊いた。


「…どうする?」


俺は四郎の顔を見た。

じっと奴の車を見ていた四郎が口を開いた。


「奴の居場所を知るのは悪くないな。

 だが、今日は後をつけて居場所を知るだけだぞ。

 何より大事なのは、われらの存在を奴に知られない事だ。

 それに、家族連れで食料の買い物なら、ここからあまり遠くでは無いだろう。」

「じゃあ、後を追おう。」


俺が車のエンジンをかけて白いアコードが駐車場を出て行く方向に車を向けた。


「あまり近づく必要は無いぞ。

 われが集中すれば、今の奴なら300ヤード位までなら奴の居場所がわかるからな。」

「300ヤードってどれくらい?」


俺の疑問に真鈴が即座に答えた。


「100ヤードが大体91メートルだから273メートルよ。

 だから少し見失っても大丈夫だから安全運転で行ってね。」

「うん、判った。」

「奴が質が悪い悪鬼と言うのは間違い無いの?」


真鈴の問いに、四郎は深く頷いた。


「今も奴を見ているが、絶対に間違い無いな。

 過去1日か2日以内に絶対に誰かの血を、命を失うまで吸っているぞ。」


四郎の言葉とさっきから見ている子煩悩な父親としてしか見えない男のギャップに俺と真鈴は黙り込んでしまった。


俺は車を出して少し距離を置いて白いアコードの跡をつけた。

辺りは暗くなり、ヘッドライトを点灯しての追跡だが、見失いそうになると四郎が大体の方向を教えてくれたので楽だった。

やがてアコードは5階建ての100部屋位が入居するマンションの地下駐車場に入っていった。

俺達はマンション脇の道路に車を止めてエンジンを切った。


「降りて奴の部屋を突き止める?」

「それは危ないと思うよ。

 それにあのマンションはオートロックだ。」


俺はマンションのエントランスを見て言った。


「じゃあ、どうするの?」

「静かに。

 今奴の居場所を探っている。」


四郎が目を細めて呟き、俺達が黙ってマンションを見つめた。

やがて四郎がため息をついた。


「建物の上の方だな、おそらく一番上だ、あちらの端の方の部屋だぞ。」


四郎が指さした方向を見ているとマンション5階の一番端の部屋の電灯が灯ったのが見えた。


「…奴の車のナンバーも覚えたし居場所も判った。

 今日はもう帰ろう。」


俺はエンジンをかけて車を発進させた。

俺達はマンションに着くまでずっと黙っていた。

車を駐車場に入れて今日の買い物を部屋に運び込むのに3人で4往復かかった。

スーパーの買い物袋以外は四郎が使う寝室のクローゼットに押し込んだ。


ダイニングの椅子に座って少し落ち着くと四郎が明るい声でまずはコーヒーだ!と言ってスーパーの中からコーヒー豆の袋を出した。


「彩斗、今日からこの豆を使ってくれ。

 たぶん、こっちの豆の方が断然旨いはずだ。

 ミル…豆を挽く物はあるかな?」

「ああ、コーヒーミルね、あるよ。」


俺が袋を受け取りキッチンの棚から電動のコーヒーミルを取り出してコンセントを入れた。

真鈴がおっくうそうに立ち上がり、スーパーの買い物袋の中から冷蔵庫や冷凍庫に入れるべき食材を入れ始めた。


「あまり挽き過ぎないようにな、少し荒いくらいが良いと思うぞ。」

「わかった。」


俺がコーヒーを淹れ始めると甘く、微かに酸味がある良い香りが漂った。

冷蔵庫に食材を詰め終わった真鈴がため息をついた。


「しかし、奴はあの家族を…どうしたのかしら?」

「さあな、もともと奴は人間であの家族と一緒にいて誰かと体液を交換して吸血鬼になったのか、吸血鬼になっていた奴が偽装の為にあの家族を手に入れたのか…あの娘たちが奴の本当の娘かどうかも判らんからな…ただ、今日の夜、改めて奴を見ていたら、何と言うか、上手く言えない違和感を感じたぞ。」


俺は淹れたコーヒーをカップに注ぎながら四郎に尋ねた。


「違和感?それは何だろう?」

「上手く言えんと言ったではないか。

 時代が進んで、時代に合わせて来た悪鬼だからかも知れないが…なにか、複雑な、一言で言えないような不思議な奴だとしか言えないな…」

「…」

「…」

「見た感じ奴の家族は奴の真の姿を知らないと思うのだが…」

「だが…何?」

「いずれは必ず奴の真の姿を判る日が来る。」

「…」

「四郎、疑問なんだけど、悪鬼でも子供を作れるの?女性を…妊娠させたり…逆に…女性の悪鬼が人間と交わって妊娠したりとか…」


真鈴が言いにくそうに尋ねた。

何せ処女だから。


「出来るぞ、子供を生すことは出来るが、その性質は遺伝しない。

 ふつうの人間の子供が生まれるだけだ…ごくごく稀にある程度遺伝を受ける存在はいるとは聞いたが、われはもちろん、ヨーロッパ時代を含めて500年生きて来たポール様も見た事は無いと言っていたな。」

「…ポールさんてそんなに長生きしてたの!?」

「すげぇ…」

「ああ、若い頃はエスパニアの飲み屋でミゲル・デ・セルバンテスと大喧嘩した後で親友になったとか、ポール様の自慢話の一つだな。」

「ミゲ…ミゲル・デ・セルバンテス?」

「彩斗知らないの?ドン・キホーテの作者よ!」

「へぇええ~」


四郎が苦笑いを浮かべたがそれは俺の無教養を笑ったのかどうか少し気になってしまった。

四郎がコーヒーを口に運んで暗い表情になった。


「だが、あの家族の未来は暗いと思うぞ。

 何かの拍子で変化した姿を見られるとかな…だが、われと同じで奴も年をとらないからいずれは必ずそのおかしさに気が付くぞ。

 何年たっても全然老けない5年か、あるいは10年くらいはごまかせると思うがそれ以上だと…その時奴はどうするのか…家族を殺して口をふさぐか、家族から静かに姿を消すか、或いは家族と体液交換して悪鬼の仲間に引き入れるか…どちらにしてもあの家族にハッピーエンドは無いな。」

「…」

「…」


四郎が手を叩いて立ち上がった。


「さてさて。遅くなったがチキンガンボを作るぞ!

 彩斗も真鈴も旨くて驚くぞ!」





続く




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