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吸血鬼ですが、何か? 第2部 開戦編  作者: とみなが けい
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吸血鬼を復活させて、悪鬼退治のチームを結成…が

四郎が笑顔を俺達に向けた。


「彩斗君、真鈴さん来てみろ、これは凄いぞ。」


四郎は俺達に着ている防刃チョッキを触らせた。


「これは刃物を通さないように出来ているらしい。

 多少重くなるが、まぁ、これ位なら大丈夫だろう。

 あ~こういう物が悪鬼退治をしていた頃に…」


四郎が慌てて黙り込んだ。

俺と真鈴は険しい顔で人差し指を唇に当てて四郎を見た。

幸い店員は気が付かなかったようだ。


「ええと、ゴホン。

 このヘルメットと言う物もケブラーという繊維で織ってあって刃物にも有効だそうだ。

 これも買おう。

 あとは…」


頭を巡らせた四郎が警棒が並んでいる棚を見つけた。


「おお、棍棒があるぞ。」


四郎が伸縮式の警棒を手に取りいじり始めた。


「四郎さん、この警棒どうですか?」


四郎は目を細めて警棒をじっと見ていた、が、小声で俺達に言った。


「相手の攻撃をとりあえず受けるとか、くらいには使えるかな?

 悪鬼を殴り倒すなどは期待しない方が良いぞ、この警棒だったらわれが本気になれば簡単にぐにゃりと曲げられるからな。

 しかし、普段は短くできるしこうやって勢い良く振ればすぐに伸びる。

 油断しているところを奇襲して混乱させるくらいはできるだろう。

 悪鬼に操られた人間相手には有効かもかなり有効かもな。」


真鈴が3本の警棒を手に取った。


「じゃあこれも買いね。スタンガンとか催涙スプレーはどうかしら?役に立つかも。」

「スタンガン?催涙スプレー?」

「相手の体に電気を流して衝撃を与えるのがスタンガンだよ。あと、辛み成分…唐辛子の辛い成分をすごく濃くした霧を吹きかける物だよ。たしか、熊でも逃げ出すような代物だと聞いたけど…」


俺はそう言いながらスタンガンや催涙スプレーが並んでいるコーナーに四郎を連れて行った。


四郎がスタンガンを手に取り店員に断ってからスイッチを押してみた。

スタンガンの先端の電極からバチバチと音を立てて放電した。


「ふむ、なるほど、これは使えるかも知れんが…」

「知れんが…何?」


真鈴の問いに四郎がスタンガンを握ってナイフのように突き出した。


「これは相手に近づいてこの先を当てなければならんのだろう?」

「そうね。」

「だとしたら、少なくともナイフでの格闘戦を学ばないと使えんな…ご要望とあらばポール様直伝のナイフ戦術を叩き込んでやるが…」


真鈴がしばらく俯いていたが、きっと顔を上げた。


「やるわ!私やるから教えて!彩斗君もやるわよね?」


真鈴がいきなり俺に話を振った。


「う、うん、四郎君お手柔らかに教えてね。」

「よし、ならばこれも買いだな、次は…これか?」


四郎が催涙スプレーを手に取った。


「これなら少し離れた所でも使えるのか?」


店員が有効距離が5メートル、確実に顔に当てるなら3メートル以内ですと説明した。


「ふむ、霧と言うより液体、飛沫と言う感じか…風向き次第では使った方にも刺激が来そうだな。

 まぁ、その辺りは気を付ければ良いか。

 嗅覚に敏感な奴には聞くだろうし、運が良ければ目をつぶせるかも知れん、これも買いだな…お、あれはなんだ?」


四郎がフラッシュライトを見た。

店員の説明によると警棒に仕えるくらい頑丈に作られていて信じられないくらい明るい光を出せると言う事だ。

試しに真鈴がスイッチを入れた。


「うわ!これはまぶしいな!」


四郎が思わず目を覆った。

真鈴が慌ててスイッチを切った。


「奴らは夜目が利くやつが多い、その代わり強い光にはかなり怯むだろうな、これも買いだ。」


光束を集中させると直視することが不可能になり、また、照射範囲をスイッチで切り替えられる頑丈なフラッシュライトを3本購入することにした。


「やれやれ買い物が増えたね。車に乗るかな?」

「あら、私の隣が開いてるわよ。

 他には何か必要な物ある?」


四郎が黙って店内を見回している。


「われには必要は無いが…君達に必要な物がある。」

「何それ?」

「メディカル…怪我をした時に手当をする物がいるな。」

「それって救急用品の事か、なるほど怪我をした時とか応急処置が必要だね。」

「ああ、そうだな。ここにそれがあるか判らんが…いざと言うときの為にメディカルの品を入れられる小袋、ポウチのような物は必要だぞ。

 最も手が付けられない大怪我をすれば病院に運ばなくてはいけないが、少なくともすぐにできるだけの処置をしておけば助かる機会も増えるからな。

 出血を抑えるとか酷く裂けたり切ったりした傷をとりあえず縫い合わせるとかな。」


四郎はさも普通の事のように言ったが、俺と真鈴は今更ながら改めてとても危険な事に頭を突っ込んでいる事を思い知らされた。


深刻な顔をしている俺と真鈴の顔を見て、四郎が不思議そうな顔をした。


「ん?怖気付いたか?われが一緒にいても悪鬼相手に戦って絶対五体満足だとは言い切れないぞ。

 悪鬼との戦い方はしっかり叩き込んでやるが、腕や足が千切れ飛ぶくらいの事は起こるかも知れないぞ。

 なに、本当に死にそうになったら、いざと言う時はな…」


そこまで言ってから四郎は口をつぐみ苦笑いを浮かべた。

俺と真鈴はあえてその先を訊かなかった。

ただ、ぶるっと身を震わせた。


その後俺達は応急処置用の物を入れるポウチを、更にインカム、暗がりでも見える暗視装置などを購入した。


この店で買った金額が一番高く、カードの限度額を超えるかひやひやしたが、なんとか大丈夫だった。

大量に買い込んだ物を運ぶのに車まで2往復しなければならなかった。


「縫合用の針糸ガーゼ消毒薬包帯は手に入ったけど化膿止めとか感染症予防の抗生物質なんかもいるかもね…」


後部席で荷室に入りきらなかった買い込んだ物に半ば埋もれながら真鈴が呟いた。


「ちょっと今日は帰ろうぜ。

 実はカードが限度額いっぱいいっぱいなんだ。

 明日銀行に行って預金を下ろしたり色々手続きしなきゃな…」


実際にこの調子で買い物を続けたら俺の生活も危なくなるし、気軽に四郎の金貨を売っても税務署が怖いので慎重にしなければならない。

俺はため息をついて夕暮れの道路で車を走らせた。

帰宅の車が増え、道路はやや混んでいた。


「今晩の食事はどうする?

 われは腹が減って来たぞ。」


四郎が生あくびを噛み殺しながら呑気な声を出した。


「人込みは少し疲れたから外での食事は勘弁してくれ。

 彩斗の家に戻って料理を作ろう。」

「賛成だね。俺も少し…いや、かなり疲れたよ。

 家に帰って簡単な料理を作るか…」


俺は昨日の深夜に喉をかき切っためんどりの事を思い出した。

あの後完全に血を抜いて羽をむしって内臓を取り出し、冷凍庫に入れてある。


「何か気が利いた食材あるの~?」


後部席で買い物に埋もれた真鈴が訊いてきた。


「うん、冷凍庫にチキンが丸ごと…あとはジャガイモとか人参とか…適当な野菜ってところかな?」

「私、ありあわせの物で何か作ろうか?」

「真鈴さん、料理できるの?」

「あら、失礼しちゃうわね。

 彩斗君より美味しい物作る自信あるわよ…ねえ、私思うんだけど、もう私の事さん付けで呼ばないで名前で良いわよ。

 それと彩斗君とか四郎さんとかめんどくさいから名前だけで呼んで良い?

 私年下なんだけど、なんか他人行儀でしっくりこないのよね~」

「われは別に構わんぞ。」

「俺も呼び捨てで良いよ。」


真鈴がにこりとした。


「それじゃ決定ね!私達、チームだもんね!」

「そうだね。」

「まったくそうだな。

 それではチームが出来たお祝いに今宵はわれが手料理を振舞おうでは無いか。

 チキンがあるのだな?

 それではチキンガンボを作ってあげよう。

 南部の黒人料理だが旨いぞ!」

「うわ、何それ美味しそう!

 四郎頼んでも良いの?」

「任せとけ!」


四郎が朗らかな声を出した。

そう言えば四郎は執事になる前にコックもしていたと言っていた事を思い出した。


「じゃあ、私サラダか何か作るわ!

 彩斗、帰りにどこかのスーパーに寄りましょうよ!」

「了解だ。」


と言う訳で俺達は俺のマンションから車で数十分ほどのところにある幹線道路沿いの大型スーパーに立ち寄った。

四郎と真鈴が張り切って、オクラや玉ねぎ、カレー粉や上等なオリーブオイル(ピュアオイルとヴァージンオイル)、薄力粉、その他サラダ用の様々な野菜などを買い込んだ。


「なぁ、彩斗、酒を少し買っても良いか?

 ちらりと見たが旨そうなワインやバーボンがあったのだが。」

「ああ、良いよ。」


もう今日はカードは使わないが財布には現金がしっかり入っている。

今日の買い物に比べたら細やかな金額だ。

俺達はレジに並び、四郎は珍しそうに笑顔であちこちを見ていた、が、急に無表情になり黙りこくった。


「あれ?四郎、どうしたの?」


真鈴の問いに四郎が小声で囁き、やや俯いた。


「今気配を消している。

 そのまま会計を済ませるのだ。」


俺達は嫌な気配を感じたが、そのまま会計を済ませて買い物を袋に詰めて店を出た。


「今日靴屋で見た奴が店内にいたぞ。」


車に乗り込んだ途端に四郎が言った。


「え?」

「奴も買い物をしていたようだな。

 これから店を出てくる。

 あの右側のドアから出てくるぞ。

 全く警戒していないしリラックスしているからわれには気が付かないようだ。」


俺達は心持ち座席に身をうずめて四郎が言った右側のドアを見つめた。


「どうする?

 奴の後を追ってせめて潜んでいる所でも突き止める?」


真鈴が囁き、四郎がしっと言って真鈴を制した。

靴屋で見かけたあの質が悪い悪鬼が大きな買い物袋を抱えて出てきた。

2人の小学生くらいの、一人は高学年、一人は低学年くらいの女の子がややはしゃぎながら奴にまとわりついていた。

そして少し遅れて母親らしき女が付いて来て奴と女の子を笑顔で見ながら何か声をかけていた。


「え…」

「うそ…」


四郎がじっと見ていた。

そして呟いた。


「奴は彼女たちを餌にする気は無いな。

 害意は無く、愛情を感じる。

 あれは、奴の家族だ。

 妻と子供だろう。

 もちろん普通の人間だ。」


四郎の言葉に、俺と真鈴が凍り付いたように固まった。

幸せな家族を絵に描いたような雰囲気をまき散らしながら質の悪い悪鬼とその家族は自分の車に向かっていった。






続く


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