吸血鬼と俺と真鈴は最初の敵を倒したが、吸血鬼には意外な弱点が汗
「四郎、痛くない?」
棚に背中を当てて座り込んでいる真鈴が尋ねた。
「ああ、痛いけど、もう治りかけてるぞ。」
同じく座り込んでいる俺も四郎に声をかけた。
「悪鬼って…あんなに凄いんだ…」
四郎はボイラーに持たれかけた体を起こして立ち上がった。
「なに、奴は狂暴で力が強かっただけだ。
まぁ、多少苦戦したが対処は簡単だ。
われももうぴんぴんしているぞ。」
そういう四郎だが、その体はあちこちに返り血を浴び、ジャケットの所々が破れ、パンツの膝も派手に擦り切れていて誰かが四郎を見たら見たらすぐ救急車を呼ぶ位に大変な怪我をしているように見えた。
「さっき思ったのだが、スタンガンよりも催涙スプレーだったかな?
その方が奴を混乱させるのに有効かもしれんな。」
真鈴がため息をついて顔の涙をぬぐった。
「何が多少苦戦したが、よ。
結構四郎はヤバかったじゃないの。
あんな凄い悪鬼と戦うなんて…」
そこまで言って真鈴は俯いた。
強い感じがするけどやはり女の子だなぁ、と俺は思って俯く真鈴を見つめた。
四郎もじっと真鈴を見ている。
やはりあんな壮絶なシーンを見せられたら女の子じゃ、いやいや、男の子の俺だってビビって当たり前だ。
「…悪鬼と戦うなんて…ドキドキワクワクじゃない~!」
俺と四郎は派手にずっこけた。
笑顔で顔を上げた真鈴に俺はまるで深海から釣り上げられてのたうち回るスターゲイザーフィッシュのような恐ろしさを感じた。
この女、処女の乙女のくせに…タフだ、タフすぎる…
「真鈴…怖くなかったの?」
「真鈴…怖かったら辞めても良いのだぞ、後はわれと彩斗で…」
「とんでもない!
怖かったわ!凄い怖かった!死ぬほど怖かったわ!
でも、悪鬼を倒した時、それに私も力を貸したんだと思った時、なんて言うか、凄いやりがいを感じたのよ!命がけのやりがい!四郎!私にどんどん戦い方を教えて!」
「…あ、ああ、真鈴が望むなら悪鬼退治のやり方を叩き込んでやるぞ。」
笑って頷く真鈴を見て、俺はこの3人の中で一番怖がりで弱いのかも知れないと思ってまたもや少し凹んでしまった。
「でも、彩斗があの時、奴に火掻き棒を刺さなかったらもう少し苦戦していたかも知れんな。」
四郎が言うと真鈴が激しく頷いた。
「そうよそうよ!
彩斗もなかなかやるじゃない!」
「いや~、そんな~」
俺は二人から褒められて思わず赤面してしまった。
そして、言い知れぬ高揚感が俺の体の奥からふつふつと込み上げてきた。
俺も悪鬼退治に協力できたのだ。
真鈴が言う『やりがい』を感じたのかも知れない。
「さて、この部屋を散らかしてしまったから掃除をしよう。」
四郎が部屋の隅の箒とちり取りを手に取り、すたすたと歩いて行き悪鬼のなれの果てである灰の山を掃除し始めた。
その切り替えの早さに驚きながらも俺は立ち上がり、掃除を手伝った。
だが、真鈴はなかなか立とうとしない。
「真鈴どうしたの?
怪我でもしたか?」
四郎が尋ねると真鈴は顔を赤くした。
「ちょっと手を貸してよ…腰が抜けたみたい…」
俺と四郎は笑いをこらえきれなかった。
真鈴と言う女は良く判らない。
俺が手を貸して真鈴を立たせ、3人で掃除をした。
かき集めた灰は何回か往復してボイラーに放り込み、散らかった箱や袋を棚に戻す。
四郎は先ほどの死闘の疲れがあるのか強がりを言ってはいるが息が上がっている。
「ふぅ、もう少しで終わる…おっ。」
四郎が戸口を見て声を上げた。
「四郎、どうしたの?」
「いや、例の女の子、それと屋根裏にいた死霊達がこちらを覗き込んでいる。」
「どうしたのかな?」
四郎はじっと、俺達には見えない戸口にいる死霊達を見つめ、やがて笑顔を浮かべお辞儀をした。
「四郎?」
「ん、われらを心配して見に来たそうだ。
あの死霊達もここの悪鬼が苦手だったそうだ。
お礼を言われたぞ。」
「へぇ…私も死霊が見えるようになれば良いかな?って少し思っちゃった。」
「俺も…ただ夜中に急に出てきたりは嫌だな…」
四郎がふっと笑った。
「真鈴の場合はアパートの屋根で下着姿でにやけながら変な体操をしている老人が見えてしまうからな。」
「う~、それはパス。
しかし、この悪鬼はどうしてここにいたんだろう?」
「こいつは狼人の類だな。
ずいぶん長く、200年くらいは生きていた奴だと思うぞ。
でなければ命が尽きた後、ああいう灰の山にはならない。
恐らくここ何年は、いや、何十年以上は人に手を掛けてはいないだろうと思うな。
主に山の中の生き物を捕まえて食べていたと思う。
たぶん人の言葉などほとんど忘れていたかも知れん。
話し合いにもならなかった。」
「…もう、野生動物と化していたのかもね。」
「恐らくそうだろうな。
大して知恵も無さそうだったから人間を騙して社会に馴染む事など出来なかったのだろうな。
だから、人間から逃れて或いは正体がばれて人間に追われて山に入り、山の生き物を捕まえて生きて来たのであろう。
われらに襲い掛かったのも大人数が、と言ってもたった3人だがいきなりねぐら、と言うか奴の巣に入ってこられて恐怖を感じて襲い掛かって来たのかも知れないな。」
「考えたら可哀想ね。」
「四郎の言う通りなら人里離れてこの地下室で静かに暮らしていたと言う事か…」
「だが、今回は殺らねば殺られていたからな…奴も話が通じれば殺さなくとも済んだかも知れないが。」
「…」
「…」
俺達は黙って片付けを終えた。
時間は6時を過ぎかなり暗くなっている。
「今日はこれで引き揚げようか。
時間があればまた来て屋敷以外山の方とか敷地を一通り見ようよ。」
「賛成だな。
…ところでわれは物凄く腹が減った。
立ってられないほどなのだが、帰りに食事をしたいのだそれも早くな。」
「判った。
やっぱりあの顔になって戦ったり怪我をすると栄養分を使い切ると言う事かな?」
「恐らくそうだろうな…悪鬼退治をした後われもポール様もひどく腹が減ったのだ。」
じっと聞いていた真鈴が恐る恐る尋ねた。
「四郎、それってやっぱり人間の血を吸うと…吸いたくなるの?」
「ん?あっはっはっ!
真鈴、考えてみろ、血液と肉ではどちらが栄養があると思うのだ。
われは今、こってりした食べ物が食べたいのだ。
血は酒やたばこみたいな物だと言ったぞ。
もっともさっき戦いの最中に奴の血を少し頂いたがな…
今は人間が食べる旨い物を沢山食べたいな。」
真鈴は少し顔をしかめた。
「うぇ、やっぱり吸血鬼なのね~それじゃ急いでこの屋敷を出ましょう。
山道に入るすぐ手前で美味しそうなラーメン屋さんがあったわよ!」
「おお!YouTubeで見たぞ!
確か家系とか…」
「家系かどうかわからないけど…ごく普通の田舎のラーメン屋さんだったわ。」
俺達は地下室を元通りにして割れている窓を地下室にあったベニヤで塞ぎ、屋敷の電灯を消し、ブレーカーを落として戸締りをしてカギをシーサー像!の下に隠すとランドクルーザーに乗り込んだ。
「おお!見ろ!と言っても君らには見えないか…」
屋敷のキッチンで顔を洗って返り血を落とした四郎が車の窓を開けて屋敷を見上げて手を振った。
「何?四郎どうしたの?」
「うん、死霊達がこちらに手を振っているぞ。
地下の悪鬼を退治したのを本当に感謝しているようだな。」
四郎の声に俺と真鈴も見えないながら屋敷の死霊達に手をふって、車を出した。
今回は人助けをしなかったけれど、死霊助けをしたと言うところだろうか。
だけど俺は人間を恐れて地下室に潜んでいた、あの恐ろしい狼人にも一抹の哀れさを覚えて少しだけ複雑な思いだった。
「彩斗、真鈴、われは少し寝る。
腹も減ったがとても眠いラーメン屋に着いたら起こしてくれ。」
「ああ、良いよ。」
「四郎は疲れたようだね。」
「1つ言って置きたい事が有るが…どうもわれが闘うための姿でいる時間が…闘える時間が昔ほど長く無くなったようだ。」
「…え?」
「先程、狼人と闘っていた時、後数分決着が着かなかったら…あの姿を保てなくなり人間の姿に戻ってしまったと思う。
正直に言うと奴の頭をボイラーに放り込んだ後、奴の胴体が激しく攻撃してきたら、われは人間の姿に戻って倒れてしまったかも知れなかったのだ…」
「…」
「…」
「もちろん、力も早さも、身体の強さも人間並みになってしまうだろう。
少し身体を休めないと闘えなくなる。」
そこまで言うと四郎はシートに深く身体を埋めて目を瞑った。
続く




