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8話

「ぎゃっ」

 あかりは悲鳴をあげ前のめりに倒れた。

 振り下ろした剣が思いの外重く、バランスを崩したのだ。


 今日はオーウェンがあかりに剣術の指導をしてくれている。

 救世主なのだから剣術の才能があるかもしれないとアルバート王子からお達しがあったようだ。

 でも見ての通りだ。

 一番軽い剣を渡されたのにこの有り様。


「痛ててて…?あれ痛くない?」

 地面に顔からダイブしたはずなのにおかしいと、あかりは不思議に思い体を起こす。

「あかり様お怪我はありませんか?」

「えっ、うわっオーウェンさん!?」

 見るとオーウェンがあかりの下敷きになっていた。

 転んだあかりを庇いクッションになってくれたようだ。

「ごめんなさい、オーウェンさんこそ怪我しませんでした?」

 あかりは慌ててオーウェンの体から下りる。

「いえ、小柄なあかり様の下敷きになったところでびくともしませんよ」

 そう言ってオーウェンは起き上がり微笑んだ。

 あかりはまた顔が赤くなる。

(態度も言葉もイケメンすぎる…イケメン万歳)


「…あかり様はやはり小柄で華奢なので剣術は難しいかもしれません。今は魔法の習得を優先させましょう。私からアルバート殿下に話しておきます」

 やや言いづらそうにオーウェンは話した。


(つまり剣術の才能なしということですね…)


 あかりへの剣術指導はこうしてあっけなく終了した。

 近くで他の稽古をしていた騎士たちがよく聞こえてないが何やら話している。

 どうせ救世主のくせに剣も扱えないとかなんとか言っているんだろう…。



 あかりが城へ来て数日が過ぎた。

 毎日のようにアーミオンに魔法の使い方を習い、なんとか小さな火の玉くらいは出せるようになった。

 でもアーミオンに言わせるとこれじゃ弱い魔物を驚かすくらいにしかならないらしい…


『俺が師匠の力を受け継いでいたら今ごろ火の化身、フェニックスを操っていたのになー』

 ため息混じりに嫌味を言われるのも日課だ。

 ムッとすることもあるがあかりはそれ以上にアーミオンに対して申し訳ない気持ちになる。


 アーミオンが力を受け継いでいたらもっと素晴らしい魔法がたくさん使えたんだろう…


 私に魔力をくれたノーサイトさんは本当に偉大な魔術師だったみたいで、回復系の魔法以外なら基本なんでも使えたらしい。

 その中でも火の魔法は素晴らしく、燃え盛るフェニックスを操り魔物の群れを一掃した時の話などをアーミオンが興奮ぎみに教えてくれた。


 ちなみにアーミオンは土の魔法が得意らしい。



「あかりお昼一緒に食べよう」

 エミリーが中庭で休憩していたあかりを誘いに来た。

 あれからエミリーと少しずつ打ち解けている。


 初めて話した馬車の中では、魔物の討伐が続き疲弊していてあかりにきつくあたってしまったと謝ってくれた。

 そしてエミリーがこの世界に召喚された時のことも教えてくれた。


 まだ高校生だったという。

『好きな人と歩いてたの。今日こそは告白しようって思ってて…それでその日勇気を出して告白したわ。そしたら彼は微笑んで何か言おうとした…でも聞けなかったの。急に眩しくなって気がついたらこの城の大広間にいたの』


『早く魔王を倒して帰りたいって必死に魔法の特訓をしたわ。でもそうこうしているうちに3年も経ってしまった…きっと彼も私のことなんか忘れているわ』

 エミリーは悲しそうに笑って言った。

 まだこの世界に召喚されて数日で凹んでいるあかりが、3年もこの世界で耐えていたエミリーに何と言葉を掛けたらいいのかわからなかった。



「魔法の練習どう?」

 あかりの隣でサンドウィッチを食べながらエミリーが聞く。

「あまり上達しなくて…」

「私も初めはそうだったよ」

 エミリーは謙遜しているが、最初から魔力があり回復系魔法なども使えたことをアーミオンから聞いている。


 どうして自分は救世主なのにこんなに弱いのだろう。

 やっぱり本物の救世主じゃないからなのか…


 ◇


「失礼します」

 オーウェンはアルバート王子の執務室に入っていった。

 中には王子とモーリック宰相代理がいる。


「調査の結果、魔族が城に侵入した日以降姿を消した侍女がいることがわかりました」

 オーウェンが報告する。

 宰相代理が口を挟む。

「しかしこんな時だ。大臣たちでさえ危険なこの場所を離れ地方へ逃げていった者もいる。使用人の一人や二人怖れをなして城から逃げ出しても珍しくないのでは?」


「その可能性もあります。ただその姿を消した侍女を調べたところあの北のレードル村出身であることがわかりました」

「レードル村…あの魔族によって消された村だね?何か関係があるのか…引き続き調査を頼む」

 アルバート王子が言う。


「あっそうだ。次回の魔物討伐だけど救世主殿にも参加してもらおう」

 続けざまにさらりとアルバート王子が言った。


「はっ…しかし殿下、救世主様はまだ訓練中でして魔物の討伐までは難しいかと」

 オーウェンは慌てた。

 アーミオンからあかりがまだ魔術師見習いほどの魔法も使えてないと聞いている。

 あの様子では荒れ地で双頭の鳥獣を倒した時のような特異な力をまた発揮できるのかも不確実だ。

 討伐に参加できるような実力ではない。もし力の強い魔族がまた現れ、攻撃を受ければあかりを守りきれるほどの自信もない。


「オーウェン、救世主殿にはいずれ魔王を倒しこの国を救ってもらわねばならん。事態は着実に悪化している。一刻も早く強くなってもらわねばならん。わかるね?」

 アルバート王子は穏やかだが有無を言わさぬ口調で言う。


「はっ」

 オーウェンはそれ以上言うことができず、執務室を後にした。


 モーリックと二人になったところでアルバート王子は口を開いた。

「ガルヴィン宰相の居所は何か掴めたか?」

「いえ」

「救世主が現れたことで、ガルヴィンが何か動くかもしれん」

 そこまで言うとアルバート王子は黙り込み、窓の外を見やった。

 曇り空だ。

 城の2階にある執務室の窓からは中庭の様子が見おろせる。

 中庭ではあかりがアーミオンに指導されながら魔法の特訓をしていた。

 その様子を見ながらアルバート王子はフッと息を漏らした。

 救世主が召喚されれば事態は好転すると思っていたが、そう上手くはいかないか…

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