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55話 もしも

「私がもとの世界へ戻れば呪いは消えるのかな」


 もちろん現時点でもとの世界に還る方法はまだ見つかっていない。だからすぐに還ることはできない。そうわかってはいたが、自分が救世主ではないと判明した今、どうしても聞いてみたくなったのだ。


「……わからない。そうなる可能性もあるが、ならない可能性もある」

 アーミオンがあかりから視線を逸らし、少しうつむいた。


「そっか、もし可能ならそれが一番いいのかなと思って。私は救世主じゃないし、このまま樹木の実を人間が手にしていれば魔王を滅ぼすことができるんでしょ?」


「……お前はそれが一番いいと思うのか」


「え?」


「確かにそうすれば魔王は滅び、この国の人間は救われるかもしれない。でも魔王は本当に滅ぼすべき存在なのか?俺はもとはといえば人間の方がこの争いを引き起こしたんじゃないかと思っている」


「どういうこと?人間が樹木の実を奪わなければ争いにならなかったっていうこと?」


「それもあるが。もともとこのオステリカ王国と魔国の間には和平が結ばれていたことは聞いたか?」


「うん」

 和平が結ばれている間は魔物の襲撃もほぼなく、平和だったと以前オーウェンから話を聞いた。


「魔物がこの国を襲いだしたのは聖女を召喚してからだった。

 100年以上前に両国間で交わされた和平の条件については代々の王と、ほんの一部の上層部にしか知らされていない。だから俺もその内容まで詳しくは知らない。だが俺はその和平の条件の中に聖女と救世主の召喚の禁止が含まれていたんじゃないかと思っている。

 それを破って召喚が行われたから魔王は魔物を抑えるのをやめたんじゃないかと思う」


「嘘……じゃあ、私たちを召喚しなければ平和だったってこと?」


「おそらくは」


「信じられない。なんで…そこまでして召喚する必要があったの?」


「ずっと現れなかった召喚のできる魔術師が現れた。魔王唯一の弱点といえる樹木の実の情報もどこからか手にいれていたのかもしれない。国王、もしくは上層部が聖女と救世主を召喚すれば今度こそ魔王を倒せると見込んだんじゃないか。魔国を滅ぼせば領土も拡大できる」


「そんなの勝手すぎる。国民の被害もでてるのに…」


「そうだな」


「………アーミオンは……ひょっとして樹木の実を返すことで魔王を助けたいの?」


「別にそんなことは思っていない。お前に呪いをかけたことは絶対に許せないしな。

ただ、人間に襲われ住む場所を失ったレードル村の住人に魔王が自国のすみかを与えたのは事実だ。


 ……俺は師匠が城の魔術師だったから、それに倣って、国を襲う魔物と戦ってきた。だが師匠が死んだ今、この国がどうなろうとそんなに関心はない。

 強いて言うなら今、関心があるのはお前のことだけだ」


「えっ、それはどういう――?」

 アーミオンが急にそのグリーンの瞳でじっとこちらを見つめてきて、あかりは少し狼狽えた。


「お前は俺の弟子だからな」


「そ、そっか………

 アーミオン、ありがとね」

 そう言ってあかりはぺこりと頭を下げた。


「なんだよ?改まって」


「しっかりお礼言ったことなかったなって。いつも助けてもらってるのに。魔王に連れ去られて恐怖でいっぱいの時もアーミオンが来てくれてすごく心強かった、ありがとう」

 感謝の意を込めてあかりがへらりと笑った。


「お前……顔が緩みすぎだ」

 アーミオンはふいっとそっぽを向いてしまった。照れ隠しだろうか。



 次の日


 あかりは暗い顔をしてため息をつきながら廊下を歩いていた。


 もとの世界へ還す魔法を調べていると言ったペテロに進捗状況を聞きに行ったのだ。その答えはまだ時間がかかるの一辺倒だった。

 本当に真面目に調べているか疑わしいペテロに

 “早くしないとエミリーにしゃべるぞ”と脅したもののやはり時間はかかりそうだ。


 うつむき加減でそのまま廊下を歩いていると不意に名前を呼ばれた。


「あかり」

 立っていたのはいつも通り隙のない爽やかな笑顔を浮かべたアルバート王子だった。


「少し話をしたいんだが、いいかい?」


 ◇


「あかり、申し訳なかった」

 アルバート王子は唐突にそう言うとあかりにさっと頭を下げた。

 あかりは王子と庭園の中にある屋根つきのベンチに腰掛けている。


「えっ、急にどうしたんですか?」


「君は結果的に召喚の魔法に巻き込まれてこちらの世界に来てしまった。救世主と間違え、無理に魔物との戦いへ行かせてしまったことも申し訳なかったと思っている。一刻も早くもとの世界に戻してやりたいが……ペテロからは聞いたかい?」


「はい…時間がかかると聞きました」


「お詫びになるとは到底思えないが、還れる日までは客人としてこの城で好きに過ごして構わない」


「いいんですか?」

 実はあかりが心配していることだった。

 救世主じゃないとわかったことで城を追い出されたりしないだろうかと。そうなった場合、城の使用人として雇ってもらえないか聞いてみようかと思っていたくらいだった。


「もちろんだ」

「ありがとうございます」


「あかり、ひとつだけ頼みを聞いてくれないか」

「な、何でしょう」

 王子の頼みなんて断りにくくて困ると恐る恐るあかりが聞き返す。


「聖女、エミリーのことだ。君とエミリーはとても仲が良いと聞いている。エミリーはこれからも聖女として厳しい戦いにも挑んでもらわなければならない。どうかあかりがこの国にいる間は彼女の支えとなってもらいたい」

 アルバート王子はそこまで言うとふと「彼女というか彼というか難しいな」と困ったように呟いた。


「エミリーは今までも何度も私を支えてくれました。頼まれなくてもエミリーのために私ができることならやりたいです」


「あかり、君は優しいな。ありがとう」

 アルバート王子はいつものきちんとした笑顔よりも柔らかく笑うとポンとあかりの頭に手を置いた。


(………王子の笑顔、プライスレス!)


 あかりはいつもと違うイケメン王子の笑顔と行動に沸騰しそうに体が熱くなった。

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