表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/89

3話 侵入者

 あかりを担いだままオーウェンは休むことなく城がある山の上部まで駆けあがった。


 城の手前まで来ると開けた場所に魔物がいた。


 大きな黒い鳥が前足でエミリーを掴んで空中で上下している。今にも地面へ叩き落とされそうだ。

 エミリーが捕まっているため騎士たちも手を出せずにいる。


「エミリー様!」

 オーウェンは素早かった。

 担がれていたあかりはやや雑に地面に降ろされ、尻餅をつく。

「痛ててて」


 オーウェンは背の高い木を勢いよく駆け登ると、そのてっぺんから魔物目掛けてジャンプした。

 突然視界に現れたオーウェンに驚き、魔物の動きが止まる。

 その隙を逃さず手にした剣で力の限り斬りつけた。魔物は何もすることができず、真っ二つに切り裂かれ、

 オーウェンはエミリーを抱きかかえ地面に着地した。


 一瞬だった。


(すごい。団長めちゃ強い)

 あかりは地面にぶつけて痛い尻をさすりながら、オーウェンの強さに驚いていた。まるで怪物に囚われた姫を助ける物語の中の王子様のようだ。


「エミリー様お怪我は?」

「ありがとう、助かったわ…」

 抱きかかえられていたエミリーはそう言うとさっとオーウェンから離れていった。


「では急ぎ城の中に入りましょうぞ」

 離れて見ていたペテロが言った。


「あかり様、先程はご無礼を…」

 オーウェンが頭を掻き、気まずそうにあかりの方へ戻る。

「大丈夫です」(お尻はちょっと痛いけど…)

「あかり様が荒野で倒された魔物の子のようです。馬車を追ってここまで来たのでしょう」

「子ども…」


 もしかして親の敵を打ちにきたのだろうか。

 魔物にも親を想う感情があるのだろうか…。あかりは荒野で見た双頭の鳥の魔物を思い出し、何とも言えない気持ちになった。


 日が傾き、辺りは暗くなってきていた。

「あかり様、城へお入りください」

 オーウェンに背中を押され城へと近づく。


 ふと見上げるとお城の向こう端にある高い棟が崩れかけていた。そしてよく見るとその隣の屋根も崩れ落ちた部分がある。

 魔物の攻撃を受けたんだろうか、不安がさらに大きくあかりの心に広がっていった。


 ◇


「あかり様お疲れかと思いますが、今からこの国の王子にお会いいただきます」

「王子?」

 オーウェンはそう言ってあかりを広間のような場所へ案内した。

 すでにエミリーやペテロ、騎士団の数人も大広間に集まっている。


「昨年、魔族によってつけられた傷が元で国王が崩御されました。その後混乱する城内をまとめあげられ、実質的にこの国の指揮をとっているお方です」


 ――今オーウェンはさらりと魔族に国王が殺されたと言わなかったか…

 そんなにやばい状況の中にあかりは来てしまったのかとひどく眩暈がした。


 その時バタンと奥の扉が開き、2人の人物が大広間へと入ってきた。

 大広間にいた人々が一斉に跪く。

 あかりもオーウェンに引っ張られ一緒に跪いた。


「楽にしてくれ。オーウェン団長、聖女殿、此度は魔物討伐ご苦労であった」

 ブロンドのくせ毛を短く整えた美しい顔立ちの青年が

 オーウェンの元に近づいた。

 オーウェンの返事を待たずしてさらに青年が言葉を続ける。


「して、ついに魔術師殿が救世主の召喚に成功したと聞いたぞ!オーウェン、救世主は今どちらに?」


 青年は少し興奮気味にオーウェンに尋ね、視線をさまよわせている。

 まさか目の前に、オーウェンの隣にいるあかりが救世主だとは夢にも思ってないようだ。


「…殿下、私の隣にいるこの方が救世主あかり様です」

「え?」

 青年が視線を下げ、オーウェンの隣にいるあかりと目が合った。きれいな薄茶色の瞳に驚きと少々の落胆の色が浮かんだような気がした。


「あかり様、この御方がオステリカ王国第二王子アルバート殿下です」


 やっぱり王子様ってかっこいいんだなあとあかりの頭には場違いな思いが浮かぶ。イケメンに見つめられ、正常な考えができない。


「こ、この華奢な少年が…本当に救世主なのか?」

 アルバート王子はペテロの方に向き直り尋ねた。

「間違いありません。召喚の魔方陣から姿を現しました」

 ペテロはここでも自信満々だ。

「私も見ていました。聖女様の召喚の時と同じような形でこの方が現れました」

 オーウェンがあかりの方を向く。


 ――また少年と言われてしまった。ちんちくりんと言われなかっただけマシか。

 それにしても女だと訂正した方がいいのだろうか…あかりは迷ったがそんな雰囲気ではなさそうだと諦めた。


 その時、アルバート王子の隣で黙って話を聞いていた年配の男性があかりに手をかざしてきた。眼鏡の奥の瞳が鋭く光っていて怖い。

「宰相代理のモーリック殿だ」

 オーウェンが耳打ちをする。


「…ペテロ、この者からはまったく魔力を感じられないが本当にお強いのか?」

 あかりにかざしていた手を戻し、モーリックが訝しげにペテロを見た。

 ペテロは先ほどよりも身をこわばらせている。ペテロもこの男が苦手なのかもしれない。

「我々が手こずっていた双頭の鳥獣をいとも簡単に倒しました」

 ペテロが説明する。

 モーリックはまだ首を傾げ、まじまじとあかりを見ている。


「双頭の鳥獣をこの少年が…素晴らしい!」

 アルバート王子がそう言ってあかりの手を取る。

「救世主あかり、どうかこの国を救ってほしい」


 イケメンに手を握り見つめられ、あかりは自分でもわかるくらい顔を真っ赤にした。

 あかりはもちろんイケメンに手を握られたことなど人生で一度もない。


 何かアルバート王子に答えなければとあかりが口をパクパクさせていると、不意に王子の体がふっと空中に浮いた気がした。


「殿下っ!!」

 オーウェンが叫ぶ。

「ぐっっ」

 次の瞬間アルバート王子は空中で何者かに捕らわれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ