37話 女性に興味がないとは言ったけど…
公爵領の騎士団の訓練場を見学中、甲冑を身に付けたひとりの騎士が突然あかりに剣をむけ襲いかかってきた。
固まって何も動けないあかりに容赦なく剣が振り下ろされる。
「っっっ…………??」
とっさに目をつむってしまったが、何の衝撃もなかったためそろりと目を開く。
騎士が振り下ろした剣はあかりの肩の上、数センチのところで寸止めされていた。
「ふふふ、驚いた?」
騎士が冑をとると、ラベンダーピンクの美しい髪の毛が冑からこぼれ落ちた。
「マーガレット王女!?」
つい先ほど街の見学の時には一緒だったのに、いつの間に騎士団の稽古に混ざっていたのか…
それに先ほどの他の騎士との手合わせ中の動き、とても王女様とは思えない速さだった。
「あかり、ごめんね。ほんの出来心で、ちょっと驚かせようと思って」
(ちょっとどころではない…)
「マーガレット何してるの!?」
エミリーも知らなかったようで目を丸くしている。
「騎士団の稽古に参加させてもらってるの」
「王女様が!?」
「ふふふ、エミリー。いまの時代、王女だって剣くらい扱えた方がいいと思わない?」
さも当然という風にマーガレット王女が言う。
「マーガレット様、いくら公爵様の許可をとってあるからと言っても、事前の連絡もなしに稽古に参加されては困ります。稽古中にもし王女様がお怪我をされたら一大事です」
一部始終を見ていた公爵騎士団のイーサンがやんわりと苦言を呈する。
シアフォーク公爵が姪であるマーガレット王女の剣の稽古を許可しているのにも驚きだった。
(自由な家風なのかな?姪っ子に激甘なのかな?)
「だって王女だってわかると手加減ばかりされてちっとも面白くないのよ」
マーガレット王女が不満そうに答える。
「マーガレット様…」
立場上、強くは言えないのであろうイーサンが困り果てていた。
そんな元騎士見習い仲間の様子を同情するようにオーウェンが見ている。
◇
公爵領滞在の最終日、またお城で宴が催された。
歓迎の宴のときはいろいろあってお料理を食べそこねたのであかりは今度こそ食べるぞと意気込んで参加した。
シアフォーク公爵に数日間のもてなしの御礼をエミリー、オーウェンと共に伝えた後、あかりは早速豪華な料理が盛り付けられたテーブルへ向かう。
「???」
テーブルの前でひとり料理をお皿に盛っているといつの間にか今回は綺麗なお兄さんたちに囲まれていた。
歓迎の宴のときエミリーの周りにいた男性たちのようだった。
皆一様に容姿が整っていて、お洒落な耳飾りをしている人や長髪を片側に編んで垂らしている人など、小綺麗でセクシーな感じの方々だ。中には薄くアイラインを引いてる人もいて、変ではなくとても似合っていた。当然のように香水の甘くいい香りをまとわせている。
「初めまして救世主様」
「こんなに華奢な体で魔物と戦っていらっしゃるんですね」
「………」
とりあえず愛想笑いでごまかす。
もしかしなくてもこの方々は今回は救世主のおもてなしをするよう依頼されているのだろう…
前回シェリーに迫られて思わず、『女性に興味がありません!』とは言ったけど、まさかそういう風にとられるとは思ってもみなかった。
2日前の自分の発言を後悔する。
もちろんあかりの恋愛対象は男性なのであながち間違ってはいないのだが…
でも今は自分は少年だと思われている。
(ややこしいことになってしまった……)
チラリと後ろを見るとヒューゴやアーミオンも
「???」という顔でこちらを見ていた。
小綺麗な男性たちがあかりに美味しそうな料理を取り分け、飲み物も勧めてくれる。至れり尽くせりだ。しかしこういう場に慣れていないあかりは緊張で料理の味がまったくわからなかった。今までの人生の中でここまでイケメンに囲まれ、ちやほやされた経験はもちろんない。
行ったことはないけどホストクラブとはこんな感じなのかもしれない。喪女の自分にとってとんでもなく贅沢な状況だとは思うがとても居心地が悪かった。男性たちがいろいろ話しかけてくれるが気の利いた返事もまったくできない。
(エミリー、ヘルプ~!)
エミリーに助けてもらおうとキョロキョロとあたりを探すが見つからない。オーウェンによってこの綺麗な男性陣からは遠ざけられているのかもしれない。
「お料理がお気に召されたようでなによりです」
金色に近い長めの髪を耳にかけお洒落な耳飾りをした綺麗な青年に話しかけられる。
先ほどからあかりの隣で一番にこやかに話しかけてくれている。彼はネイハムと名乗った。ネイハムはどことなくイブランクに雰囲気が似ていた。もちろんイブランクの方がもっとずっと格好いいのだけれど…
それでも話しかけられる度に心拍数が上がって頬が熱くなる。
ゲホッゴホゴホッ
緊張からよく噛まずに食べ物をのみ込んでむせてしまった。
「大丈夫ですか?」
ネイハムが心配そうにあかりを見る。
恥ずかしくて近くに置いてあったジュースをごくごくと一気に飲み干す。
「あっそれは…」
急に顔がポポポポと熱くなった。ブドウジュースかと思って飲み干したのはワインのようなお酒だった。
「救世主様平気ですか?お酒はお飲みになれないとお聞きしましたが…」
「あっ大丈夫です。すこーしポカポカしてきたくらいで……でもちょっと外で風にあたってきますね」
これ幸いとあかりはその場を離れようとする。
久しぶりにお酒を飲んだ。なんだかふわふわするが足元が覚束ないほどでもない。
(渡り廊下のベンチで少し風にあたったらそのまま部屋に戻ろう…)
「あかり様、付き添います」
護衛担当のヒューゴがあかりについて行こうとしたが、まだまだ宴は始まったばかりで申し訳ないのでひとりで大丈夫と押しきった。
あかりは宿泊している部屋に続く渡り廊下をひとり歩く。さっきより顔が熱い。渡り廊下に備え付けられているベンチにちょこんと座り、フーッと息を吐いた。
結局今回の宴でも豪華な料理を堪能することができず、ちょっと心残りだった。
風が頬にあたりほんの少し酔いがさめたように感じる。見上げると満月に近い月が夜空を明るく照らしていて、星はあまり見えなかった。
月の色はイブランクの瞳を連想させた。
(イブランクさん元気かな……)
「あかり様」
暗がりの中、遠くから近づいてくる人影が見えた。
「イブランクさん?」
当然公爵領にイブランクがいるわけはなく、現れたのはイブランクにどことなく似ている綺麗な青年、ネイハムだった。




