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2話 聖女!?

  城に向かう馬車の中であかりは固まっていた。

  目の前に座るエミリーと名乗る人物が、自分も召喚されて3年もこの世界にいると言う。


  「じょ冗談ですよね?」

  「冗談言ってるようにみえる?」

  エミリーの表情は暗く、ひどく疲れてみえた。冗談を言ってるようにはとてもみえない。


  「……元の世界にはずっと帰らなかったんですか?」

  「()()()()()()のよ!」

  エミリーの口調が強くなった。美しい顔に苦悩の色が浮かぶ。

  ゴクリ

  あかりは息を飲んだ。とても信じられない。


  「ペテロ…さん!あなたが私を召喚したって言ったよね?私、元の世界に帰れないの!?」

  斜め向かいに座っているペテロに聞いた。

  「あなた様はこの世界を救うために召喚されました。それまでは帰れません」

 

  (なんて勝手な…)


  「この3年聖女として修行しながら、ずっと救世主が召喚されるのを待っていたわ。なのにあなたはこの世界がこんなになるまで姿を現さなかった!」

  綺麗なブルーの瞳で責めるようにあかりを睨み付けるエミリーに、思わず視線をそらした。


  「エミリー様落ち着いてください。あかり様も急に召喚されて混乱されているんです」

 騎士団団長オーウェンが場を取りなすと、エミリーはフイッと横を向いた。


  あかりの頭はひどく混乱していた。――夢じゃない?世界を救わないと帰れない?

 いろいろ質問したいが場の空気がひどく重たく、口を開くことができなかった。


 ゴトゴトゴトゴト

 スピードを出しているせいか、馬車がひどく揺れて、あかりは気分が悪くなってきた。


 しばらくすると急に馬車が止まった。


「あかり様ここからは徒歩となります」

 オーウェンがあかりの手を引き馬車から降ろしてくれた。


「魔物が城へ侵入するのを少しでも阻むため、馬車が通ることのできる道は取り壊したんです」


 話を聞いて不安がさらに増した。城へ侵入する危険があるほど魔物が蔓延っているのだろうか。

 

 列になって山道を登っていく。あたりは木々が生い茂っている。石段のようなものが所々あるが、山道に慣れていないあかりはすぐに息があがってきた。

 ここ数年自宅と会社の往復くらいで、完全に運動不足だ。おまけに先ほどの馬車酔いが残っており、気持ちが悪い。


 青い顔のあかりに気づいたのか、オーウェンが足を止めた。

「…あかり様少し休まれますか?」

「すみません。ちょっと気持ち悪くなってしまって…」

「大丈夫です。そこの木の影で少し休みましょう。

 ……お前たちは聖女様と先に城へむかってくれ」

 オーウェンは部下たちに指示を出した。


 ぞろぞろと先へ向かう一向を横目にあかりは木の根本に腰をおろした。息があがって、呼吸が苦しい。


 すると騎士団の部下たちの会話が耳に入ってきた。

「本当にあんなちんちくりんの少年が救世主なのか?」

「確かに。少し山道を歩いたらもうあの様だぜ」

 クククッと笑い声がした。


(……ちんちくりんの少年?自分のことか?)

 あかりは下をむいたまま苦笑した。

 確かに髪は短めだしパンツスーツだけど、あかりはもちろん女性だし、すでにアラサーだ。

 少年ではない。ちんちくりんかもしれないけど…。


「あかり様、水ですがよかったら」

 そう言ってオーウェンは水筒から水を注いでくれた。

「ありがとうございます」

 よっこらしょっとオーウェンもあかりの隣に腰を降ろした。


 水を飲むと少し気分が良くなった。あかりには聞きたいことがたくさんあった。


「あの、この世界には昔からあんな恐ろしい魔物がいるんですか?」

 あかりはさきほどの巨大な鳥の魔物を思い出していた。


「そうですね…昔から存在してました。人間と魔物の争いも絶えなかったようです。ですが、先々代の国王と魔族の王の取り決めでお互いの領土を侵害しないと定められてからは、あんな風に魔物の襲撃にあうことはほとんどありませんでした」


「じゃあ、どうして?」


「…3年前聖女様が召喚されたあたりです……時を前後して急に魔物がこちらの領地に入り込み人間に襲いかかるようになりました。私たちにもなぜ今さら魔族の王が取り決めを破ったのかわからないんです」

 オーウェンはうつむき、目頭のあたりを指で押さえた。オーウェンもまたひどく疲れているようだ…。


「…その魔物たちから国を守るために聖女と救世主の力が必要なんですか?」


「言い伝えがあるんだ。この国が困難に陥った時、異世界から聖女と救世主が現れ、国を救ってくれると」


「それがエミリーさんと…」

 本当に自分が救世主なのか。


「3年前聖女様が召喚されたあと、すぐに救世主様も召喚されるはずだと誰もが信じて疑わなかった。しかしペテロ殿が何度召喚の魔方陣をつくってもなぜか―


 キャー

 突然上の方から悲鳴のような声が聞こえてきた。

「魔物か!?」

 オーウェンはすくっと立ち上がり、急いであかりを担ぎあげた。

「あかり様ご無礼をお許しください!」

 オーウェンはあかりを担いだまま全速力で城へと走りだした。

「ひえっっ」


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