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1話 救世主!?

 

 屋外だった。

 ビュービュー強い風が吹きつけ、空は厚く灰色の雲に覆われている。

 あかりはゴツゴツした地面に横たわっていた。

 

「救世主様!お待ちしておりました。私どもをお助けください。」

 

 急に背後から声をかけられた。

 びっくりして、身を起こすと数人に取り囲まれている。

 

「あっあの?」

 状況が理解できずにキョロキョロしていると、薄汚れた黒っぽいフードを被った男がこちらに近づき、(ひざまず)いた。

 

「救世主様、私めは魔術師ペテロと申します。今しがたあなた様を異世界からこのオステリカ王国に召喚いたしました。どうかそのお力でこの世界をお救いください。」

「????」

 ゲームのようなセリフをかけられ、さらに混乱する。

 

 どういうことだろう、自分はあの糞上司に怒鳴られ、気分が悪くなって倒れたのではなかったのか。

 そうであれば、まだ現実では目を醒ましてないのか、ここは夢の中かもしれない。

 

 あかりは自分の頬をぎゅーっと力をこめてつねってみた。痛い。

 

 また辺りを見渡すとフード男の他に鎧を身につけた男が複数人、それと少し後ろに灰色っぽいフードを被った人がいた。

  (夢にしては妙にリアルだなあ)

 

 ギィィーギィィー


 突然耳をつんざくような大きな鳴き声が聞こえてきた。

「まずい!見つかるのも時間の問題だ」

 鎧を着た男が話した。この中ではリーダーっぽい。しかもイケメンだ。

 

「救世主様、我々は魔物に追われています。どうかそのお力で我らを助けてください」

 

 イケメンに助けを求められるなんて、これまでの人生で一度もない。いい気分だ、しかし…。

 

「あのっ、たぶん人違いだと思います。わたしには何の力もありません。魔物なんて倒せません」

 

「そんなはずはありません。この魔術師ペテロが正当な方法であなたを召喚しました。間違うはずがありません!」

 嫌に自信満々な態度でペテロが言った。

 

「さあさあ、魔物はあそこです!」

 

 頭上高く、ペテロが指さした方を見ると巨大で真っ黒なカラスのような怪物が空を飛んでいた。

 よく見ると頭が2つある。

 ギィヤーギィヤーと恐ろしい鳴き声を上げ、今にもこちらに飛んできそうだ。

 

「む、無理です。あんな恐ろしい怪物…」

 

 しかしそんな怯えるあかりの様子などお構いもなく、ペテロはぐいぐい怪物の方へあかりを近づけようとする。

「大丈夫です。救世主様には魔法の力が備わっているはずです。心のままに思いついた呪文をお唱えください。」


(呪文?)


 あかりが黙っていると、皆の強い視線を感じた。

 無言の圧力で、じーっとあかりが呪文を発するのを待っているようで居たたまれない。


  (ええい、どうせ夢だし、どうにでもなれ…)

 あかりは試しに両手を上につきだし、半分投げやりに呪文ぽい言葉を口にした。

 

「ちちんぷいぷい、マジカルゴー?」

 

 シーン

 当然、何も起こらなかった。

 

「救世主様!こんなときにふざけないでください!」

 ペテロが少し怒ったように言った。


 ふざけてなんかいない。

(お前のせいで…大事故だ)

 あかりはペテロを睨みつけた。

 そもそも会ってすぐに魔物をやっつけてくれなんていくらなんでもむしがよすぎる。

 

「ペテロ殿、この方は本当に救世主様なのか?」

 イケメンリーダーが心配そうにペテロに話しかけている。

「間違いありません!」

 ペテロは胸を張って答えた。

 その自信はどこからくるのか。

 

「さあさ救世主様、今度こそお力をお出しください」

 またペテロがぐいぐいあかりを押しはじめた。

「やめてくださっ」

 その時だった。

 

 あかりの手がペテロの被っていたフードに当たって下がり、先ほどまで暗くてはっきり見えなかった顔が見えたのだ。

 

 肉がついた丸顔に髪の毛は薄く禿げかけていた。

 中年のおじさん。

 あの糞上司そっくりだった。

 あかりは心の底から言い様のない怒りがこみ上げてきた。

(夢の中まで嫌がらせをしてくるのか…)

 

「この小太りバーコード野郎が!いい加減にしろよ!!………えっ!?」


 思わず口を手のひらで塞いだ。心の中でついたはずの悪態が無意識に口からとびだしていたのだ。しかも恐ろしく大きな声で。


 あかりの言葉にみんな呆気にとられていた。

 

 ギィィィィィ

 急に飛んでいた巨大な鳥の魔物が空中で苦しみだした。

 

 そして急降下したかと思ったら凄まじい音をたてて地面に激突した。

 ズドーン

 辺りに土埃が舞った。

 そこにいた全員が息を飲んだ。

 地面に激突した魔物は全く動かない。

 

 

「し、死んでいます」

 恐る恐る魔物の様子を確認した部下っぽい騎士が言った。

「すっ素晴らしい!!さすが救世主様!」

 ペテロが拍手をしている。

「えっ?私じゃありません、私何もしていません!」

 いったい何が起こったのか。

 

「何を仰います。先ほどの救世主様の怒りのパワーが魔物を倒したのです。」

 

(怒りのパワー???)

 あかりが怒ったのは魔物じゃなくて、糞おやじペテロに対してだったはず…。

 

「救世主様、先ほどの失礼な発言、どうかお許しください。あなたは正真正銘、救世主だ。」

 イケメンリーダーがあかりの前に跪いた。

 

「申し遅れました。私は王国騎士団団長のオーウェンと申します。」

「あっあの…木元あかりと申します…」

 オーウェンはスッと鼻筋が通ったイケメンで赤茶色の髪がよく似合っていた。イケメンに見つめられあかりは顔が赤くなる。


「それではあかり様、さっそくですが、ここは危険です。またいつ魔物が現れるとも限りません。城まで共に退避してください。」

「はあ…」

 危険ならばとりあえず一緒についていこうか……。

 


 大きな枯れ木の下でペテロが何やら呪文を唱え始めた。すると、それまで何もなかった場所に大型の馬車が現れた。

 あかりが驚いているとペテロが誇らしげに言った。


「隠しものの魔法です」


 ◇


 馬車に揺られながら、あかりは段々と不安になってきた。

  (それにしても長い夢だ。いったいいつ覚めるのだろう)


「夢ではありませんよ。あなたは本当に召喚されて、ここは異世界です」

 不意に目の前に座っていた灰色のフードの人物が話しかけてきた。あかりが考えていることがわかっていたみたいだった。

「あの、あなたは?」

 あかりが尋ねると、その人は灰色のフードを下げた。


 ブロンドの長い髪をした女の人だった。綺麗な顔立ちだけど少しやつれていて疲れが色濃く感じられた。

 

「エミリーです。私も3年くらい前に聖女として召喚されてずっとこちらにいます」

「3年!?」

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