14話
「えっあんたが救世主だったのかい?」
料理店の店主マーサが驚いてあかりの顔を見る。
「救世主が召喚されたって街でも噂になってたけど、それがまさかこんなに可愛らしい男の子だったなんてね」
マーサにまじまじと見つめられあかりは恥ずかしくなった。
「そんな救世主とは名ばかりで私はエミリーみたいに魔法も使えないし、弱いんです…」
あかりは小さな声でぼそぼそと言った。
「何言ってるの」
わははっと笑いながらマーサはあかりの背中をバシッと叩いた。
「ゲホッ」
案外力が強い。
「エミリーだって最初会ったときは心細そうにしてたさ。『好きな人のいる元の世界に戻りたいー』ってね」
「もう、マーサさん。それは言わないでー」
エミリーが恥ずかしそうに口をとがらす。
「そっそうだ。あかりは元いた世界に好きな人とかいなかったの?」
エミリーが話題をそらすようにあかりに尋ねる。
「えっ全然、私喪女だし…」
「モジョ???」
エミリーが首を傾げた。
「えっと、喪女というのは…」
あかりは言いかけて止まる。
(そういえばエミリーも私のことを男の子だと思ってるんだっけ。良い機会だし女だって打ち明けようかな)
「エミリー…私、実は…」
ガチャリ
「エミリー様、あかり様、そろそろお時間です」
タイミング悪く、オーウェンが店の扉から入ってきた。
「えっもうそんな時間。残念、マーサさんまた来るね」
マーサにお礼を言い、急いでお店を後にする。
「時間短すぎる。あかりと雑貨のお店とか見たかったのに。オーウェンもう一軒寄っていっちゃだめ?」
エミリーがオーウェンに懇願する。
「そう言われましても、アルバート殿下から許可された時間があと少しでして…」
「えー、本当にちょこっと見たらすぐ帰るから、だめ??」
エミリーが綺麗なブルーの瞳を大きく見開いてオーウェンを見つめる。
「………本当に少しですよ」
オーウェンはパッとエミリーから視線をそらした。耳が赤くなっている。
「やった。あかり、急いで行こう」
エミリーは嬉しそうに言った。
(エミリー女子力高いな…)
エミリーがあかりの腕に自分の腕を絡ませて連れていこうとする。
あかりはまたオーウェンの視線を感じたが、気づかない振りをした。
「そこのお店、けっこう可愛い雑貨があるんだよ」
エミリーがお店を指差した時だった。急に騒がしい人の声が聞こえてきた。
「待てーこの魔物めー!」
こちらへ走ってくる人影が見える。
「エミリー様、あかり様、私の後ろへお下がりください!」
オーウェンが2人の前に立ち、身構えた。
子供なのか小柄な人物を数人の男達が追いかけていた。男達は武器のようなものをもっている。フードを目深に被っていて子供の顔ははっきり見えない。
ちょうどあかり達の目の前で男達が子供に追いつき頭を掴んだ。
「手こずらせやがって」
追いかけてきた男の一人が吐き捨てるように言う。
フードがずり落ち子供の顔が見えた。
額に角が生えた男の子だった。泣いていた。
「まっ魔族?」
あかりが口に出す。
「いえ、あの子は人間と魔族の混血でしょう」
オーウェンが言った。
「あなたたち、子供に寄ってたかって恥ずかしくないの?」
エミリーが男達をとがめる。
「なんだと、姉ちゃん口には気をつけな!こいつはなあ、魔物の仲間だ!ほうっとくと魔物を呼び寄せる」
人相の悪い男が言った。
「まだほんの子供じゃない、手を離しなさいよ」
エミリーも負けてはいない。
「それ以上口出しすると痛い目みるぜ」
男が斧のような武器を取り出す。
「どっちが魔物よ!」
それを見たエミリーが言う。
「なんだとー」
腹をたてた男が斧をエミリーに向ける。
「それ以上近づくと容赦しないぞ」
オーウェンがエミリーの前に立ち、腰につけた剣の柄に手をかける。
「な、なんだお前?」
男達がオーウェンを取り囲む。
「国の法令で混血の者の差別は禁じられているはずだが」
オーウェンが話す。
「うるせー」
一人の男がオーウェンに襲いかかる。
オーウェンは軽い身のこなしでひらりと攻撃をかわし、男の後頭部に打撃をくわえた。
男は白目を向き、その場に崩れ落ちた。
「おっおい、こいつの格好…それに赤髪…王国騎士団の…」
男の一人がオーウェンの格好を見て何かに気がつく。
「まさか…に、逃げろ!」
男達が散り散りに逃げていった。
「大丈夫だった?」
エミリーが泣いてる男の子に声をかけた。
男の子の顔や腕には所々あざや傷ができていた。額の左右に角が生えてる以外は普通の男の子だった。まだ小学校低学年くらいの歳だろうか。
「……」
「どこから来たんだい?」
オーウェンがしゃがみこみ男の子と目線を合わせて尋ねる。
「リーワースの…」
男の子が小さな声でぽつりと言った。
「孤児院?」
オーウェンが聞くとこくりと男の子が頷く。
「ここからそう遠くはないが…部下に頼んで送らせよう」