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12話

「おい、木元聞いてるのか?」

 目の前に課長が立っていた。今日も怒っている。

「お前は本当に役に立たない、お荷物救世主だな!」

 恐ろしい顔で課長が怒鳴る。


 バッ

 あかりは部屋のベッドから飛び起きた。

 最近寝起きしているお城の客間のベッドだ。

 ぐっしょり汗をかいていた。

(嫌な夢を見た…)


 昨日はベッドに入ったもののなかなか寝付けず、明け方にようやく少し眠れたのに、

 夢の中にまであの糞上司が出てくるなんて最悪だ…


 結局昨日イブランクは意識が戻らなかった。


 ベッドから降り、さっと着替える。

 イブランクの様子を見に行こうとあかりは部屋の扉に手をかけた。すると急に扉が開き、部屋の中へ入ろうとした人物とぶつかった。

「痛ててて」

 アーミオンだった。


 アーミオンはあかりを見るなり口を開く。

「おっと、関心だな!ちょうど魔法の特訓に呼びに来たところだった。さあ、行くぞ!今日からお前の弱い心も鍛え直してやる!」

 あかりが魔法の特訓の為に部屋から出てきたと勘違いしているようだ。

「いえ、あの、そういう気分じゃ…」

 あかりはおろおろと言いよどむ。

 アーミオンの眉が片方ピクリとする。

「つべこべ言わず行くぞ!」

 あかりを捕まえようとするアーミオンをすり抜け部屋の外に出ると、あかりは猛ダッシュで逃げた。

「あっ、おい!待て!」

 アーミオンはしつこく追いかけてくる。


「追いかけて来ないでください!」

「じゃあ止まれ!」

 結局アーミオンが凄い形相で追いかけてくるので医務室を通り越し、中庭まで追い詰められてしまった。

 まだ朝方で中庭には誰もいない。


 中庭の中をなおも逃げるあかりにアーミオンは業を煮やす。

「チッ、往生際が悪いやつだ!」


 ゴツゴツゴツ

 アーミオンが呪文を唱えると、逃げるあかりの足元にこぶし大の岩が何個も飛んでくる。


「ぎゃー、何するんですか!」

「逃げるお前が悪い!」


 あかりは岩を避け逃げようとしたが、つまずいて転んでしまった。そこへ運悪く、アーミオンが放った岩が飛んでくる。


(ぶつかるっっ)


 岩がもう少しであかりにぶつかるすんでのところで、一人の騎士があかりの前に立ち、剣を振り下ろし岩を砕いた。

「アーミオン、やり過ぎですよ」

 騎士はアーミオンを咎める。


 中庭のあちらこちらにアーミオンが飛ばした岩が転がっていた。

 お礼を言おうとあかりが騎士を見上げると目の前にいたのはイブランクだった。


「あかり様お怪我はありませんか?」

 イブランクがあかりを助け起こす。


「っイブランクさん!意識が戻ったんですね?もう動いて大丈夫なんですか?けっ怪我は?」

 あかりは慌ててイブランクの背中を確認する。

 イブランクの背中は傷痕が残っているものの傷口は完全に塞がっていた。

 綺麗な背筋がついた広い背中だった。


「あの…あかりさま…いくら男同士でも少し照れます」

 イブランクがほんの少し頬を赤くし、言いにくそうに話す。

 はっと気づくとあかりは、イブランクのシャツをまくりあげ、背中をペタペタ触っていた。


「ド変態だな」

 アーミオンがあかりを見て引いている。


「わわわっすいません!」

 あかりは真っ赤になってイブランクから手を離した。

(本当、これじゃド変態だ…)


「心配してくださったんですね。この通りもう全快です」

 イブランクは腕を上げて見せ、にっこりと笑った。


「よかったー」

 安心して力が抜け、あかりはヘナヘナとその場にしゃがみ込む。


「…イブランクさん。昨日は本当にごめんなさい。私が軽率な行動をとったせいで大怪我させてしまった…」

「あかり様はお優しい方ですね。どうか気になさらないでください。私は自分の役目を果たしたまでです」

 イブランクは再度あかりを助け起こした。


「じゃあこれで、気がかりなこともなくなったし、心置きなく特訓ができるな!」

 アーミオンがニヤッと笑い、あかりの腕を掴む。


「あかりー」

 呼ばれて振り向くとエミリーとオーウェンがこちらに近づいてきた。

 エミリーとは昨日医務室で別れて以来だ。


「あかり、昨日は…」

「エミリー昨日はごめん!」

 エミリーが何か言いかけたが、あかりが先に謝る。


「エミリーだってこの世界に来てずっと辛かったはずなのに、無神経なことを言ってしまった。私、甘えてばかりでごめんなさい!」

「ううん、私こそごめん」

 エミリーも謝り、あかりを優しく抱き締めた。

「私たち『聖女』と『救世主』の前に友達でいようね」

 エミリーが言った。

「うん」

 あかりが答える。

 正直とても嬉しかった。この世界に来てずっと心細かったけど、異世界から先に召喚されていたエミリーの存在があかりの支えになっていた。

 あかりもエミリーをぎゅっと抱き締める。


 しばらくそのまま抱き締めあっていると、

「うっんんん」

 オーウェンがわざとらしく咳払いをして、あかりの肩に手をかけ、そっとエミリーから引き離した。

「その、あかり様も一応幼いとはいえ男性ですから、未婚の女性をその様にずっと抱き締めるのはちょっと…」

 もごもごとオーウェンが言った。

「あっすみません…」

 あかりは反射的に謝る。

「えーあかりなら全然いいのに!」

 エミリーが言う。

「いけません」

 オーウェンが少しうろたえながら言った。


「団長…」

 そんなオーウェンの様子を見てイブランクがくすくす笑っていた。


(そっか、私少年と思われてるんだった。すっかり言うタイミングを逃してしまった…)


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