プロローグ
「君は何をやっとるんだね!」
フロア中に課長の怒鳴り声が響いた。
「あーあ、木元さんまたやられてる、かわいそ」
同僚のこそこそ声が聞こえる。
「申し訳ありません」
「毎回謝れば済むと思っているだろう?君のミスでうちの会社に損失が出たらどうするんだ!上司の私の責任も問われるんだぞ」
「……」
毎日、毎日遅くまで残業してそれでも期日までに終えることができなかった。自分が悪い。でも、そもそもの仕事の量も多すぎるのだ。
実際、社員同士いかに自分の分担を少なくするか水面下で押し付けあいをしている始末だ。
そして押し付けあいにいつも負けているのが気弱な自分だった。
俯いて黙っているあかりに課長はさらにネチネチ言葉を飛ばしてくる。
「君のせいでこの部署の評価が下がる」
「全くの役立たず」
「お荷物社員」
目上の人にはペコペコしてるくせに、部下に対してはかなり手厳しい。
(うるせー、この小太りバーコードの無能上司がっ)
心の中で悪態をつきながら、手のひらをぎゅーっと握って必死にこの時間が過ぎ去るのを待った。
課長はあかりに注意するときだけいつも執拗にネチネチ怒鳴りちらしてくる。
他の社員にどうだ、お前たちも木元みたいになりたくないだろと思わせたいんじゃないか。
酷い扱いだ。自分は本当にお荷物社員なのか…
不意に目の前がゆるゆると滲みだした。
無意識に涙が出たのかと慌てて目元を拭ったが、全く濡れていなかった。
おかしいなっと思ったその瞬間、急に足元からすーっと地面に引きずり込まれるような感覚におちいった。
目の前が揺れて真っ暗になり、ただただ下に落ちていく。
貧血なのか上手く呼吸ができず意識が薄くなっていった。
ドッガーン
大きな音がして慌てて目を開けると、そこには先ほどとは全く違う景色が広がっていた。