8イルカショー
二人で水族館を見回っている内にイルカショーの時間になった。
イルカショーが行われる会場にはちらほらと人がいた。
前から三席目までは水が飛び散るらしいので、俺達は五席目に座った。
流石に漫画の様なベタな展開にはならないぜ。
「すっごい楽しみだよ~」
「だな」
会場のプールには本物の海水が流れている。
塩の香りが鼻に付くが、嫌いな香りではないので心地が良い。
ただ胡桃がくっついてくるのだ。
イルカショーの会場はベンチになっている。
三人並んで座れるくらいの広さはあるはずなのに、わざわざ胡桃は肩が触れるくらいにくっついて来る。
心臓がバクバクいっているのがバレないか心配になる。
「あのさ、何でくっつくの?」
ポーカーフェイスを保ったまま、そう聞いた。
「え? だって、くっつきたいから」
「そ、そっか」
「うん」
とても良い笑顔でくっついて来る。
可愛い。可愛いんだけど……。
可愛すぎて辛い。
心臓の鼓動が早まる。
静まれ! 静まるんだ、俺の鼓動!
『皆さん、お待たせしました! イルカショーの始まりです!』
「おおー!」
するとお姉さんの声が聞こえると同時に、会場に水族館のテーマ曲が流れた。
テンションが上がった胡桃が拍手する。
その拍子に触れ合った肩が離れてくれたので俺としてはラッキーだった。
『まずは今日、ショーをしてもらうのはこの三匹でーす!』
イルカの名前はゴンタ、カンタ、アラレと言うらしい。
ゴンタとカンタは兄弟で、アラレはゴンタが好きだけど、カンタはアラレの事が好きで…………という、けっこうドロドロした三角形らしい。
昼ドラみたいな関係の割には三匹の仲は非常に良くて、よく三匹で遊んでいるとの事だ。
『では皆さん、拍手をお願いしまーす!』
パチパチと拍手が沸き起こる。
イルカ達は凄いパフォーマンスをしてくれた。
ボールでキャッチボールをしてみたり、離れた場所にある浮き輪を取って来たり、果てはお姉さんがイルカの鼻の上に乗って移動するという離れ業までやってのけた。
楽しませてもらった。
『残す演技はもう最後の一つになってしまいました! 実はこの子達は、三匹でハートの飛沫を上げる事が出来るんです! では、合図を出すのをお客さんの中から選ばせてもらいましょう!』
デレレレレーーーー……とライトが
『そこのカップルでーす!』
そして選ばれたのは俺達だった。
周りから拍手が起こる。
『さあ! こちらへ上がってきてくださーい!』
カップルでは無いんだが、ここで違うと言っても場がしらけるだけだろう。
それにこんな機会は中々無い。
「行こうか、胡桃」
「……うん!」
胡桃の手を握って、二人で壇上に登った。
そこから見える景色は観客席とは違っていた。
この壇上を証明で照らして見やすくしているせいもあるのだろうが、観客席は暗くて見えにくい。
この特別感がたまらなく気持ちが良い。
『お二人はまず、両手を恋人繋ぎにして――――って、もうしてましたね』
うん、恋人繋ぎしてました。がっしりと。
俺と胡桃は頬を染めて照れながらも、お姉さんは微笑ましそうに
『その手を上に挙げてください!』
繋いだままで手を上げる。
するとイルカ達は三点に散らばって準備万端になった。
『準備が出来たら両手を下ろしてくださいね! それが合図になりますから!』
なるほど。
運動会のリレーの時と一緒か。
「よーい」が「手を上げる」で、「どん」が「手を下ろす」なのか。
イルカは頭が良いと言われているけど、こういうのを理解しているあたり、やっぱり頭良いんだろうな。
「よし。やるか」
「ちょ、ちょっと待って! まだ心の準備が!」
「そんなにか?」
「だって、イルカさんだよ!? 凄い体験だし……」
「……怖いのか?」
「こ、怖くないよ!?」
「いや、怖いんだろ」
「怖くないってば!」
「いつも大事な瞬間とかは怖がってたよなー、失敗するのが怖いって言ったり」
「そ、それは関係ないよ!」
「俺も一緒にやるんだから、大丈夫だって」
「…………うん」
「いっせーのーで、で行くぞ」
「うん!」
「「いっせーのーで!」」
二人で一緒に手を振り下ろした。
その瞬間にイルカが一斉に尾を水面に降ろして―――
「「「キュウ!(イチャイチャすんな!)」」」
バシャーンッ!!と大量の飛沫が俺と胡桃を襲った。
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