1デートプラン
新連載です。よろしくお願いします。
俺、藤森優斗は自室のベッドで横になって眠るのが好きだ。本棚に並べられた漫画とラノベを適当に手に取って見る。普段は人をダメにするクッションに身体を預けて見るのだが、ベッドで寝転がるのも中々に楽しい。
時計の短針が六時を指したので「そろそろか」と思って窓の鍵を開けておく。
少しして勢い良く窓が開いた。
と言っても誰が来たのかは分かっていたので、特に驚かなかったがな。
「ゆう君! 助けて!」
窓から入って来たのは、隣の家の幼馴染の小桜胡桃だった。家が隣同士というのもあって、お互いの部屋の窓が凄く近い。だから胡桃は玄関から入るのを面倒くさがって、いつも窓伝いに入って来た。
ただいつもは「ただいま~」とか「ゆうく~ん」と言って入っているのに、今日は「助けて」だ。何かあったのかと、少し心配に思った。
「どうしたんだ?」
「助けて欲しいの!」
「うん。だから何を?」
相変わらず、胡桃には天然が少し入っている。
今日はいつもよりもテンションが高いみたいで、窓から降りてベッドの上で寝転がる俺の上に馬乗りになった。
「あのね、一緒にデートプランを考えて欲しいの!」
一瞬、コイツは何を言っているんだと茫然となってしまった。
ただ胡桃の事だから、デートプランが何かを分かっていない可能性もある。そうとなれば、俺が正してならねば……。
「あのな、デートプランって何かわかってるか?」
「わ、わかってるよ!」
「なん、だと……!?」
驚きすぎて読んでいた漫画を閉じて、ベッドから跳ね起きた。その時に「きゃっ」と胡桃が後ろに転んでしまった。ごめんと言いながら両手で起こして、お互いに向かい合う様にベッドの上に座った。
「だ、誰と一緒に行くんだよ」
「えっとね、これから誘おうと思うんだ」
えへへ、と照れくさそうに笑う胡桃。
「私ね、好きな人がいるんだ」
ああ、そうか……。ついにこの日が来てしまったか。
胡桃は控えめに言っても美少女だ。学校では同じクラスだから分かるが、成績優秀、頭脳明晰、勇壮活発、容姿端麗な彼女は男女問わずに人気がある。優しい上に可愛いから、クラスの半分の男子は彼女に心を奪われてしまっているだろう。実際、同じクラスだけではなく上級生からもよく告白されている。これまで告白を全て断ってきたのも、心に決めた好きな人がいたのなら納得だ。
「そっか。その人の事、えっと……好きなのか?」
「うん。好き」
今まで見たことが無いくらい、可愛い笑顔で彼女は言った。その笑顔が俺に向けられたものじゃなくて、見知らぬ誰かに向けられたものだと考えると胸が苦しくなる。
どうしてその笑顔は俺に向けられていないんだ。どうして胡桃の心にいる人は俺じゃないんだ。
そんな事、俺自身のせいだ。俺が何もしなかった、行動を起こしてこなかった俺自身の責任だ。
俺は胡桃が好きだ。誰よりも、ずっと。
だからと言っても胡桃の恋の邪魔をしていい理由にはならない。
全力で胡桃を応援しよう。
「そっか。じゃあ、一緒に考えるか」
「うん!」
ローテーブルの上にパソコンを持って来て、起動した。人をダメにするクッションを横にして、いつもの様に二人で隣に座った。
「予算は?」
「えっと、私も彼もそんなにお金は持っていないかな。出せても二人で一万円くらい」
「なるほど。なら、近場の方が良さそうだな」
パソコンで近所の駅から行ける場所を調べる。
「胡桃は何かやってみたい事とかあるのか? 逆にその彼の行きたい場所とかは?」
「う~ん、私は一緒にウィンドウショッピングとかをしてみたいかな。彼は本屋さんとかが好きかな。あとは人混みはそんなに好きじゃないと思うから、なるべく静かな場所の方が良さそう」
「ふむ」
なら、午前中に駅前のデパートで決定かな。
あのデパートには色々なものが揃っていて――――
「あ、そういえば一日のどのくらい遊ぶつもりなんだ?」
「う~ん、一日中遊びたいから朝は九時集合で大丈夫だと思うよ。それと夕食の後の予定だけは考えて来たんだ」
「自分でも考えて来たのか。偉いな」
「えへへ~」
全て俺に丸投げ状態にするのかと思ったら、しっかりと考えて来たみたいだ。頭を撫でて褒めてやると嬉しそうに頬を緩めた。
ただこれがその“好きな人”のためだと思うと少しだけ胸が苦しい。
「それでどういう予定にするんだ?」
「内緒」
「え、いや、俺は別に良いだろ」
「だめ」
「ええ……」
何故か分からないが、胡桃は秘密にしたいらしい。
まあ胡桃がそう言うのなら仕方がない。
「じゃあ、昼食と午後の予定も決めないとな」
「うん」
そして二人で一時間かけて、デートプランを組み終わった。
その頃にはすっかり日が暮れていて夕食の時間になっていた。
「あら、胡桃ちゃん、来てたのね」
「あっ、由美子さん。お邪魔してます」
「今日はご飯食べてく?」
「いただきます!」
そんな感じで胡桃までウチの食卓に混ざって、両親と俺と妹と合わせて五人で仲良くご飯を食べた。そのまま妹と胡桃が遊んだり、風呂まで入って行ったりして結局胡桃が帰ったのは十時を過ぎた頃だった。
「じゃあ、おやすみ。ゆう君」
「おう。おやすみ」
もうほとんど家族みたいだなー、と思いながら窓から自分の部屋に帰っていく胡桃を見送った。
だから俺を異性だと思えなかったのかもしれない。
いや、そんな事を考えたってもう仕方がないか。
胡桃の恋が成功するのを願いながら、その日は眠りについた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
隣の部屋から漏れる明かりが消えて、ほっと溜息を吐く。
これでようやく、準備をする事が出来る。
「やっぱり本人と一緒に考えるのは緊張するよ~」
『はいはい。そんな事言ってるからいつまで経っても幼馴染のままなんでしょ~』
スマホからそんな声が漏れた。通話相手は一番の友達の美咲ちゃんだ。いつも恋愛相談に乗ってくれていて、今回の“デートプラン作戦”も美咲ちゃん考案の作戦だった。
『それで、告白はするの?』
「…………うん。もちろん」
『まあ、そのために練習したり、例の場所の下見もして来たもんね。付き合わされた私の身にもなって欲しいよ』
「ご、ごめん……」
『いいわよ、別に。それよりもちゃんと明日、成功させなさいよ』
「うん。頑張るね、美咲ちゃん」
ふんっ、と気合を入れて優斗に「明日、予定ある?」とメッセージを送るのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
「胡桃ちゃ~ん」「イチャイチャすんな」「こんな幼馴染欲しいわっ」
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